↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落内円は落ちている  作者: 七風


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
388/557

勇者配信 勇者を知る少女

### 勇者ってなんなんだ


 今日の配信は、いつもとは少し違っていた。


「というわけで!」


 カメラの前で、ジャスティスが勢いよく宣言する。


「今日は、前回の配信で少し気になったことを調べに行く!」


『お?』


『何かあったっけ?』


『前回って村の地下行ったやつ?』


『闇のトマト』


『封印のカボチャ』


『そこじゃないだろw』


「違う!」


 ジャスティスが即座に突っ込む。


「俺が言ってるのは、あの少女だ!」


『あー』


『いたな』


『村にいた子だろ?』


『なんか勇者のこと知ってたよな』


『俺もあれ何だったん?って思ってた』


『普通に勇者って呼んでたしな』


「だろ?」


 ジャスティスは腕を組んで頷く。


「前回、俺もその場では詳しく聞かなかったんだよ」


「地下のほうに夢中だったもんね」


 マドカが笑う。


「そうなんだよ!」


 ジャスティスが少し気まずそうに頷く。


「というか、正直に言うと……普通にスルーして帰った」


『おいw』


『勇者www』


『重要人物かもしれない少女をスルー』


『地下のほうが気になったんだろうな』


「仕方ないだろ!」


 ジャスティスがカメラへ向かって抗議する。


「地下にあんな場所があるなんて思わなかったんだから!」


「それで後から気になった、と」


 マドカが聞く。


「ああ」


 ジャスティスは頷いた。


「だって、あの子は俺を見て『勇者』って言ったんだぞ? しかも、初対面なのに」


『確かに謎』


『一年ぶりに来た勇者を知ってるのも変だった』


『村人なら分かるけど、あの子はちょっと違ったよな』


「だから今日は――」


 ジャスティスがカメラを見る。


「改めて、あの少女に会いに行く!」


『前回の回収回か』


『これは気になる』


『あの子何者なんだろうな』


「俺は勇者だからな!」


 ジャスティスが胸を張る。


「勇者を知っているというなら、話を聞くしかない!」


 そこで。


 ジャスティスは一歩前へ出た。


 右手を胸元へ。


 左手をゆっくりと前へ伸ばす。


 視線を少し上へ向ける。


「――運命が俺を導くというのなら」


「……」


 マドカが横を見る。


「……今日も始まった」


『出た』


『勇者の病気』


『少女に会いに行くだけだぞw』


『何で毎回こんな始まり方するんだ』


『本人はいたって真面目なのが一番面白い』


「――俺は、その運命すらも己の力で切り開く!」


 ジャスティスが拳を握る。


 そして、ゆっくりと振り返った。


「行くぞ、マドカ!」


「うん」


「……普通に返事するんだな」


「だって、いつものことだし」


『マドカ慣れすぎ』


『もう誰も止めない』


『勇者の扱いが雑になってきたw』


「お前らなぁ!」


 ジャスティスはそう言いながら、少女の家へ向かった。


 村の中をしばらく歩く。


 前回と同じ道。


 見覚えのある家。


 そして、その中に目的の家があった。


「ここだ」


 ジャスティスが足を止める。


「前回はここで、ちょっと話しただけだったよね」


「うん」


 マドカも頷く。


「今日はちゃんと聞いてみよう」


「そうだな」


 ジャスティスが扉をノックする。


 コンコン。


「……はい」


 中から少女の声。


 しばらくして扉が開いた。


「あ」


 少女が顔を出す。


 ジャスティスを見る。


 マドカを見る。


 そして、少しだけ首を傾げた。


「また来たんだ」


「ああ」


 ジャスティスが頷く。


「今日は前回聞けなかったことを聞きに来た」


「そう」


 少女はそれほど驚いた様子もない。


「入る?」


「いいのか?」


「別にいいよ」


 三人は家の中へ入った。


「まず、名前を聞いてもいい?」


 マドカが尋ねる。


 少女は少し考えてから、自分の胸元へ手を当てた。


「私はアリーナ」


「アリーナ……」


 ジャスティスが頷く。


「じゃあ、アリーナ。前から気になってたんだけど――」


「うん」


「どうして俺のことを勇者だって知ってたんだ?」


 アリーナはジャスティスを見る。


 少しだけ不思議そうな顔をした。


「だって、勇者だから」


「いや、それはそうなんだけど」


「何が知りたいの?」


「俺が勇者だって、どうやって分かったのかって話だよ」


「ああ」


 アリーナは納得したように頷いた。


「それなら簡単」


 そして、さらりと言った。


「私は、昔の勇者に作られた自立型オートマタだから」


「…………」


「…………」


 ジャスティスとマドカが同時に固まった。


『え?』


『ちょっと待て』


『オートマタ!?』


『勇者に作られた!?』


『前回そんな情報あったっけ?』


『これはちゃんと聞かなきゃ駄目なやつだ』


 ジャスティスがようやく口を開く。


「……勇者に?」


「うん。私を作った人が勇者だった」


「じゃあ、その人のことを覚えてるのか?」


「全部じゃないけどね」


 アリーナは自分の頭を軽く指で叩く。


「私は作られた時から、周囲を見るための機能を持ってたから。普通の目で見るだけじゃなくて、遠くにあるものを見たり、記録したりできる」


「記録……」


「そう」


 アリーナは少し笑う。


「だから、創造主が何をしていたのかも、ある程度残ってる」


「それを見せられる?」


「見せられるよ」


「マジか」


 ジャスティスの目が輝いた。


『来た』


『過去の勇者の映像!?』


『それ絶対面白いやつだろ』


『アリーナの創造主ってどんな人なんだ』


「じゃあ、見せるね」


 アリーナが立ち上がる。


 部屋の中央へ歩き、床に手を触れた。


「少し古い記録だから、画質はあまりよくないけど」


「そこは気にしない!」


 ジャスティスが即答する。


「俺はそういうの大好きだ!」


『知ってる』


『モンバト狂い』


『こういう昔の記録とか絶対好きだろ』


 アリーナが魔力を流す。


 床に淡い光が走った。


 そして。


 部屋の中央に、半透明の人物が浮かび上がった。


 青年だった。


 長い髪。


 黒を基調とした服。


 腰には剣。


 そして――どう見ても、ものすごく気合いの入った表情。


「…………」


 ジャスティスが固まる。


「……似てる」


 マドカが呟く。


「何が?」


「雰囲気」


「俺と?」


「うん」


『もう嫌な予感しかしない』


『勇者の先祖じゃん』


『顔じゃなくて雰囲気が同じなの草』


 ホログラムの青年は、誰もいない場所で突然立ち止まった。


 しばらく俯いたまま動かない。


 やがて、ゆっくりと右手を顔の前へ持ち上げ、手のひらを見つめる。


「……静かすぎる」


 低く呟き、周囲を見回す。


「この静寂……まるで世界そのものが、息を潜めているようだ。風も、大地も、鳥の声すらも消えている。ならば、この場所に何かがいる。俺には分かる。俺の中に流れる、この忌まわしくも誇らしい血が告げているんだ」


『始まったw』


『まだ何も起きてないぞ』


『風も鳥も普通にいるだろw』


『創造主、かなり重症だったんだな』


 青年はそんなことなど一切気にせず、腰の剣へ手を伸ばす。


 しかし、すぐには抜かない。


 柄を握ったまま目を閉じ、深く息を吸う。


「……この剣も感じているのか」


 しばらく沈黙したあと、ほんの少しだけ眉を動かした。


「そうか。お前も、俺と同じものを感じているんだな」


『剣は何も言ってません』


『完全に一人芝居w』


『でも本人はマジで会話してるつもりなの草』


 青年はようやく剣を抜く。


 銀色の刀身をゆっくりと掲げ、その刃に映った自分の顔を見ながら、意味ありげに目を細めた。


「この刃に宿るのは、ただの鋼ではない。幾千もの戦いを越え、幾度となく血を浴び、それでもなお折れずに残った意志そのものだ。だから俺は、この剣を恐れない。俺がこの剣を選んだのではない――この剣が、俺を選んだんだ」


『剣側に選んだ記憶なさそう』


『めちゃくちゃ良い顔してるのが腹立つw』


『ジャスティスと同じ匂いしかしない』


 青年は剣を肩へ担ぎ、さらに一歩踏み出した。


「来い……」


 誰もいない前方へ向かって、静かに言う。


「どこに潜んでいるのかは知らない。どれほど強大な力を持っているのかも知らない。だが、俺は逃げない。この身が傷つこうと、この魂が砕けようと、最後の一瞬まで立っている。なぜなら――」


 そこで青年は勢いよく振り返る。


 マントが大きく翻った。


 もちろん、風など吹いていない。


「俺は、勇者だからだ!」


『出たwww』


『そこだけジャスティスと完全一致』


『風どこから吹いたんだよ』


『演出用の風まで用意してたのか?』


 青年は満足そうに頷くと、今度は剣を地面へ突き立てた。


 そして両手を広げる。


「ならば、俺の中に眠る力よ……今こそ目覚めろ」


 目を閉じたまま、さらに言葉を重ねていく。


「幼き日に封じられた記憶も、誰にも語らなかった血の契約も、俺自身ですら恐れていたこの力も、すべてを今、この瞬間に受け入れる。もし俺がこの世界に選ばれた存在だというのなら、その証を見せろ。もしこの身に宿るものが偽りではないというのなら――」


 両手を大きく広げる。


「応えろ、俺の魂に!」


 何も起こらない。


「…………」


 青年は目を閉じたまま待つ。


『……』


『……』


『まだ?』


『本人も待ってるぞw』


 十秒ほど経ったところで、ようやく青年の手のひらに小さな炎が灯った。


「……来た」


 青年の顔が輝く。


「これだ……!」


 小さな炎を両手で包み込むようにしながら、嬉しそうに笑う。


「これが俺の力……。まだ小さい。まだ弱い。だが、これが始まりだ。いつかこの炎は空を覆い、大地を照らし、世界を闇から救うほどの光になる。俺はその日まで、この力を決して諦めない!」


『火ちっさw』


『本人めっちゃ嬉しそう』


『創造主かわいいな』


『でもこういう奴が後で本当に強くなるんだろうな』


 青年は小さな炎をしばらく見つめると、突然拳を握った。


 炎が消える。


「……まだだ」


『消しただけw』


『何がまだなんだよw』


「今の俺には、この程度の力しかない。ならば鍛えるしかない。剣を振り、魔力を磨き、何度倒れても立ち上がる。そしていつか――」


 青年は空を見上げる。


「世界のすべてが俺を必要とする、その時が来たなら……俺はこの力を解き放つ」


 そこで一度目を閉じる。


 そして、ゆっくりと剣を抜き直す。


「その時まで、俺は名を隠そう」


『なんで?』


『急に設定増えたw』


『誰も聞いてないのに』


「俺の名を知る者はまだ少ない。だが、いずれ世界が俺の名を知ることになるだろう」


 青年は剣を背中へ納める。


 そして、最後にもう一度だけ振り返った。


「その時、世界は思い知ることになる」


 鋭い視線。


「この世界を救う者が、誰なのかを――!」


 そこでホログラムが途切れた。


「…………」


 部屋の中が静まり返る。


 ジャスティスはしばらく何も言わなかった。


 やがて、ぽつりと呟く。


「……俺よりひどい」


『本人認定w』


『創造主の勝ち』


『これはジャスティスでも負ける』


『いやお前も大概だからな?』


 アリーナは不思議そうに首を傾げる。


「そう?」


「そうだよ!」


 ジャスティスが即座に返す。


「俺はここまで長々とやらないぞ!」


「でも似てるよ」


「どこがだよ!」


「難しいことを言うところとか、剣を構えてからすぐ戦わないところとか、魔法を使う前に変な動きをするところとか」


「…………」


『全部じゃんw』


『完全論破』


『アリーナちゃん容赦ない』


 アリーナは少し考えてから、さらに付け加えた。


「あと、格好いいと思ってやってるところも同じ」


「…………」


 ジャスティスが黙る。


 マドカが横で笑いを堪えている。


「……マドカ」


「何?」


「笑うな」


「笑ってないよ」


「絶対笑ってるだろ!」


『マドカも耐えられてないw』


『創造主→ジャスティスの系譜が完成したな』


『勇者って中二病を継承する職業だったのか』


『でも人助けもちゃんとしてるから余計に否定できないんだよな』


 アリーナはそんなコメントを見ながら、小さく笑った。


「だから、私はあなたを見たときに分かったんだと思う」


「……何が?」


「この人も勇者なんだって」


 ジャスティスは少しだけ目を丸くする。


「創造主と同じだったから」


 アリーナは穏やかに続ける。


「変なことを言って、変なポーズを取って、それでも困ってる人がいたら助けるから」


「…………」


「だから、一年前にあなたを見た時に思った。この人も勇者なんだって」


 ジャスティスは少し照れたように頬を掻いた。


「……そうか」


「うん」


「じゃあ、俺は勇者でいいんだな」


「最初からそう言ってるじゃん」


「いや、まあ……」


 ジャスティスが立ち上がる。


 胸を張る。


 右手を胸元へ。


 そして顔を少し上げる。


「――ならば、俺は勇者として――」


 マドカが見る。


 アリーナも見る。


 コメント欄も待ち構える。


『来るぞ』


『絶対ポーズ取る』


『今日何回目だ』


『アリーナ判定お願いします』


 ジャスティスは拳を握った。


「――世界の運命を背負い――」


「うん」


 アリーナが頷く。


「それ」


「……」


「創造主もよく言ってた」


「……」


『www』


『完全に一致』


『創造主公認の勇者仕草』


『もう逃げられないなw』


 ジャスティスは少しだけ黙ってから、開き直ったように笑う。


「……まあ」


 胸を張る。


「俺は勇者だからな!」


 いつものポーズを決める。


「それでいいんじゃない?」


 アリーナが笑った。


「それが勇者なんだと思う」


 マドカも頷く。


「うん。ジャスティスは勇者だよ」


『結論:ポーズがうざい人が勇者』


『でも人を助ける』


『創造主も同じ』


『勇者の定義がひどいw』


『アリーナちゃん、いいキャラしてる』


『前回スルーされた少女の正体がまさかオートマタとは』


『ちゃんと聞きに来て正解だったな』


 ジャスティスはコメント欄を見て、少し笑った。


「……なんだかんだ、お前らも俺が勇者だって認めてるじゃねえか」


『そこは認めてる』


『勇者は勇者』


『ただしポーズはうざい』


「そこだけは譲らないのかよ!」


 アリーナが、くすっと笑う。


 その笑顔を見ながら、マドカも笑った。


 前回は、ただ通り過ぎただけだった少女。


 けれど今日は、その少女がなぜジャスティスを勇者と呼んだのか、その理由を知ることができた。


 彼女は、過去の勇者を知っていた。


 その姿を見ていた。


 言葉も。


 戦い方も。


 そして――妙に格好をつけるところも。


 だからこそ。


 アリーナにとって、ジャスティスは最初から勇者だったのだ。


 少しくらい、ポーズがうざくても。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。