女性ファッション
### 女性向け商品会議
エキドナの会議室。
大きなテーブルの上には、いくつもの品物が並べられていた。
服。
アクセサリー。
髪飾り。
香水。
そして、何種類ものウィッグ。
どれも、この世界ではまだ珍しいものばかりだった。
「これが、実際に地球で使われていたものなのよね?」
リゼットが一つのアクセサリーを手に取る。
「うん」
マドカが頷く。
「日本の家にあったものを持ってきたんだよ」
「こうして並べると、結構あるね~」
ニコラがウィッグを眺めながら呟く。
「髪関係だけでも、かなり種類あるよ~」
ナナリーも服を広げていく。
「こっちはゴスロリ」
「ゴスロリ?」
ガブリエルが顔を上げる。
「色欲にもあるやつですわよね?」
「そうそう」
ナナリーが頷く。
「こっちにもあるけど、これは日本で売られてたものだから、細かいところが結構違うんだよ」
「なるほど……」
ガブリエルが服を覗き込む。
黒と白を基調にした生地。
細かなレース。
小さなリボン。
袖や襟にも細かな装飾が入っている。
「確かに、色欲で見たものとは少し違いますわね」
「うん。こっちのほうが細かいところまで作り込まれてる感じ」
ナナリーが袖を持ち上げる。
「こういうところとか」
「……本当ですわ」
クリスティーナも手に取って確認する。
「縫製もかなり丁寧ですわね」
「だよね」
ナナリーが嬉しそうに頷く。
「だから、これをそのまま真似するんじゃなくて、エキドナで作れる形にしていけばいいと思う」
「素材を変えるということ?」
リゼットが聞く。
「素材もそうだし、デザインもこっち向けに調整する」
ナナリーは服を広げる。
「色欲では普通でも、ここだとちょっと派手すぎるものもあると思うから」
「それなら、こちらの社交界向けに調整する必要がありますわね」
クリスティーナが頷いた。
「でも、全部を変えてしまう必要はないでしょう」
「うん」
ナナリーも頷く。
「ゴスロリっていうジャンルそのものが好きな人もいるから、ちゃんとしたものはちゃんと残したほうがいいと思う」
「なるほど」
リゼットがメモを取る。
「基本のデザインは維持しつつ、こちらの素材や用途に合わせて調整する、と」
「そうそう」
ナナリーは満足そうに頷いた。
「それなら、エキドナらしくできると思う」
その隣では、ニコラが別のウィッグを持ち上げていた。
「なるほどね~」
「ニコラはそっち?」
「うん~」
ニコラは眠そうな目のまま、ウィッグをじっと見る。
「これ、結構参考になる~」
「どういうところが?」
「髪型の作り方とか~」
ニコラは毛先を指でつまむ。
「こっちで作るなら、魔法で形を維持できるようにしたほうが楽だと思う」
「魔法で?」
「うん~。普通のウィッグだと、使ってるうちに崩れたりするでしょ~?」
「確かに」
マドカが頷く。
「だったら、形状維持の魔法をかけておけばいい」
「それなら、髪型を変えたい時も簡単そうですわね」
ガブリエルが興味を示す。
「髪色も変えられたりしますの?」
「できると思う~」
ニコラがあっさり答える。
「魔力を流したら色が変わるようにするとか」
「まあ!」
「それ、面白そう!」
ナナリーも食いつく。
「ピンクとか青とかにもできる?」
「できると思うよ~」
「じゃあ、普段は普通の色にして、お茶会の時だけ変えるとかもできるね」
「うん~」
ニコラが頷く。
「髪型と色を組み合わせれば、かなり遊べると思う」
少しだけ目が輝いている。
マドカがそれを見て笑った。
「ニコラ、楽しそう」
「そう?」
「うん」
「気のせい~」
そう言いながら、ニコラはもう一つのウィッグを手に取っていた。
「あと、こっちは髪が少ない人向けにもできるね~」
「そこまで考えるんだ」
「必要でしょ~?」
ニコラは当然のように言う。
「髪の量を増やしたい人だっているし、髪型を楽しみたい人もいる。だったら、普通の人向けと分けて考えればいい」
「なるほど」
リゼットが頷く。
「ウィッグという一つの商品でも、用途を分けられるわけね」
「うん~」
「これはかなり商品になりそうですね」
クリスティーナも興味深そうにウィッグを見る。
「見た目を変えるだけではなく、髪に関する悩みにも対応できますもの」
「そうだね」
マドカも頷いた。
次にグレタがアクセサリーを手に取った。
「これは……」
細かな装飾が施されたペンダント。
日本で作られたものらしく、魔法的な機能は何もない。
グレタは裏側まで確認する。
「なるほどな」
「どう?」
「デザインはかなり参考になる」
グレタはペンダントを置いた。
「じゃぁ、素材はクズ魔石でもよさそうだ」
「クズ魔石?」
マドカが聞く。
「ああ」
グレタが頷く。
「見た目を整えるだけなら、わざわざ高価な魔石を使う必要はない。魔力を通せるなら、加工次第で十分使える」
「へえ」
「それに――」
グレタは別のアクセサリーを手に取る。
「せっかく魔石を使うなら、飾りだけにするのはもったいない」
「どういうこと?」
「例えば、身につけている間だけ簡単な結界を張るとか」
「それいいね」
マドカが頷く。
「毒とか防げたりしない?」
「できるだろうな」
グレタは少し考える。
「完全な毒無効までは難しいかもしれないが、ある程度なら防げる。魔法への抵抗力を上げるのもできる」
「アクセサリーなのに?」
ガブリエルが驚く。
「アクセサリーだからこそだろ」
グレタが笑う。
「普段から身につけるものなら、いざという時に役に立ったほうがいい」
「それなら、お母さんにも使ってほしいな」
マドカがクリスティーナを見る。
「そうですね」
クリスティーナもアクセサリーを見つめる。
「美しいだけではなく、身を守ってくれるのでしたら、普段から身につける意味もありますもの」
「あと、母娘で揃えるやつも作れるよな」
グレタが続ける。
「完全に同じじゃなくて、同じ魔石を使うとか、同じ模様を入れるとか」
「あ、それ前に話してたやつだ」
マドカが頷く。
「お母さんと娘とか、姉妹とか」
「そういうのなら、少し高めのものでも欲しい人はいるでしょうね」
クリスティーナが微笑む。
「贈り物にもできますもの」
「うん」
グレタが頷く。
「普通のアクセサリーと、魔法効果を付けたもの。両方作ればいい」
「それなら選びやすいですね」
リゼットも頷いた。
「普段使い用と、特別なものを分けられる」
「そうそう」
グレタがアクセサリーをテーブルへ戻す。
「デザインは日本のものを参考にする。素材と機能は、こっちで作る」
「いいですね」
リゼットがメモを取る。
その横では、ヒナタが香水の瓶を眺めていた。
「香水は、容器から考えたほうがよさそうですね」
「容器?」
マドカが聞く。
「はい」
ヒナタが瓶を手に取る。
「日本のものは香りだけではなく、瓶そのものも商品として見られていましたから」
「確かに」
クリスティーナが頷く。
「香水を使い終わったあとも、飾っておきたくなるようなものがありますわね」
「ですから、こちらでは魔石や魔法素材を使って、瓶そのものにも価値を持たせるのがいいと思います」
「どんな感じ?」
「例えば、光を当てると少しだけ色が変わるとか」
ヒナタが考える。
「香りによって瓶の色が違うとか。中身だけでなく、見た目でも選べるようにするんです」
「それなら、お茶会用と夜会用で分けるのもできそう」
マドカが言う。
「はい」
ヒナタが頷く。
「香りも、強さや方向を分けたほうがいいでしょうね」
「香水は私も詳しいわ」
クリスティーナが言った。
「社交の場では、あまり強すぎる香りは好まれないこともありますから」
「じゃあ、お母さんの意見も聞きながら作ろう」
「ええ」
クリスティーナは微笑んだ。
「実際に使う方の意見があったほうが、作る側も分かりやすいでしょう」
最後に、カトリーヌが服を広げた。
「服は、素材だけじゃなくて形も考えたいわね」
「なんちゃって浴衣?」
マドカが聞く。
「それもあるわ」
カトリーヌが頷く。
「でも、これをそのまま持ってくる必要はないと思う」
日本の服を眺めながら続ける。
「こっちで普段着にするなら、動きやすさも必要だし、洗いやすいほうがいい。だったら、和の国の雰囲気だけ残して、こちら向けに作ったほうがいいでしょうね」
「それなら、普通の服として着られそう」
マドカが頷く。
「そう」
カトリーヌが笑う。
「それに、せっかくエキドナで作るなら、少しだけ魔法を入れてもいいと思う」
「魔法?」
「汚れが落ちやすいとか、雨を弾くとか」
「それ、めちゃくちゃ便利じゃん」
マドカが即答する。
「でしょう?」
カトリーヌが笑う。
「おしゃれだけで終わらせる必要はないのよ」
「確かに」
リゼットが頷く。
「普段着なら、実用性が高いほうが喜ばれそうね」
「そういうの、私は好き」
マドカが服を触る。
「見た目が可愛くて、普通に便利なら一番いい」
「じゃあ、服もそれで」
カトリーヌが頷いた。
テーブルの上には、いろいろな商品が並んでいる。
日本から持ってきたもの。
この世界で使われているもの。
そして、それを組み合わせた新しいアイデア。
「なんか……」
マドカがテーブルを見る。
「思ったより、色々できそうだね」
「ええ」
リゼットも頷く。
「日本のものをそのまま再現する必要はないでしょうね」
「うん」
ナナリーが言う。
「こっちには魔法があるんだから、こっちでしか作れないものにしたほうが面白いと思う」
「それなら、ゴスロリにも魔法を入れられるかもしれませんわね」
ガブリエルが服を見ながら言う。
「例えば、スカートの形を綺麗に保つとか」
「それいいね」
ナナリーが頷く。
「髪飾りも、服と同じ魔石を使えば合わせられるし」
「アクセサリーも合わせよう」
グレタが続ける。
「服、髪、アクセサリーを同じ意匠で揃えれば、全体としてコーディネートできる」
「家族向けだけじゃなくて、一式で欲しい人にもいいですね」
ヒナタが言う。
「お茶会用、夜会用みたいに、最初から組み合わせて考えるのもありそうです」
「うん」
マドカが頷いた。
「それなら、作る側も考えやすいね」
しばらく全員で品物を眺める。
誰も、最初から完璧な答えを出そうとはしていない。
ただ、日本から持ち込まれたものを参考にしながら。
自分たちならどう作るか。
何を足せるか。
どうすれば、この世界で便利に使えるか。
それぞれが考えていた。
「じゃあ」
リゼットが資料をまとめる。
「まずは、それぞれ試作品を作ってみましょう」
「うん」
「ええ」
「やってみよう~」
「楽しみだな」
「香りのほうは、少し考えてみますね」
「服も任せて」
次々と声が上がる。
マドカはそんな皆を見回して、笑った。
「じゃあ、完成したらまた見せてもらおう」
商品会議は、そこで一区切りとなった。
まだ、何も完成してはいない。
けれど――
日本から持ち込まれた品々は、エキドナの技術と魔法によって、少しずつ別のものへ変わろうとしていた。




