ゲーム作ってよ
日本の家を探索してから、しばらく。
エキドナの会議室に、数人の技術者が集められていた。
テーブルの上には、あの家から持ち出したゲーム機とソフト。
そして、それを映すための映像結晶が用意されている。
「今日はゲームについて説明するね」
マドカがそう言うと、ジャスティスも椅子に座り直した。
「俺たちが日本にいた頃には、こういうゲームが普通にあったんだ」
「モンバトとは違うものなんですか?」
技術者の一人が聞く。
「うん。かなり違うよ」
マドカが答える。
「モンバトは、基本的には自分で選んだ魔物や装備、設定を組み合わせて、あとは戦いの結果を見る感じでしょ?」
「はい。育成や編成、データの組み合わせが重要ですね」
「それに対して、こっちは自分で操作するの」
マドカがコントローラーを手に取った。
「例えば――」
画面の中でキャラクターが動く。
「右に行きたいなら右を押す」
キャラクターが右へ進む。
「敵が攻撃してきたら、避ける」
攻撃を横へ避ける。
「こっちから攻撃する」
キャラクターが剣を振る。
「つまり、プレイヤー自身が動かして戦うんです」
技術者たちは画面を見つめている。
「なるほど……」
「モンバトとは、ずいぶん違いますね」
「うん」
マドカが頷く。
「強いキャラクターや装備を持ってるだけじゃ勝てないんだよ」
「逆に、弱い装備でも上手い人なら勝てる?」
「そういうこと」
ジャスティスが口を挟む。
「そこが面白いんだよ」
ジャスティスはコントローラーを受け取る。
「ほら、敵が来た」
画面の中で敵が攻撃してくる。
ジャスティスがキャラクターを動かし、攻撃を避ける。
「こうやって自分で考えて動かす」
「……確かに、見ているだけとは違いますね」
「そうだろ?」
ジャスティスが少し嬉しそうに笑った。
ナナリーも画面を覗き込む。
「しかも、これなら配信でも面白そう」
「配信?」
技術者が聞く。
「うん。ゲームをやっているところを、そのまま見てもらえるから」
「なるほど」
ナナリーがコントローラーを受け取る。
「こういうの、視聴者も一緒に楽しめると思う」
実際に少し操作してみる。
「……うん。これなら対戦もできそう」
「対戦?」
別の技術者が反応する。
「プレイヤー同士で戦うんだよ」
マドカが説明する。
「一人ずつ遊ぶだけじゃなくて、二人で戦ったり、何人かで競争したりできる」
「それなら大会も……」
技術者が呟く。
「できると思う」
マドカが頷く。
「モンバトでも大会はやってるし、ゲームでもできるんじゃないかな」
「なるほど……」
技術者たちは、少しずつ理解していく。
これまでエキドナで作られてきたものとは、遊び方そのものが違う。
モンバトは、魔物を集め、育て、組み合わせ、結果を楽しむ。
ヒロバトは、身体を動かすことで戦闘へ介入する。
そして、このゲームは――
**画面の中の世界を、自分自身で操作する。**
「ただ」
マドカが続ける。
「最初からフルダイブにはしないほうがいいと思う」
「フルダイブ?」
「ゲームの世界に入って、自分で動くタイプ」
「ああ……」
技術者の一人が考える。
「エキドナの技術なら、不可能ではありませんね」
「うん。でも危ないから」
マドカが言う。
「ゲームの中で動いたり魔法を使ったりしたとき、現実の身体まで反応したら事故になるでしょ?」
「……確かに」
「それに、フルダイブだと他の人が見られないし」
ナナリーが続ける。
「配信にも向かないよね」
「なるほど」
技術者たちが頷く。
「では、まずは画面型のゲームを作る、と」
「そう」
マドカが頷いた。
「普通に画面を見て、コントローラーで操作するやつ」
「それなら既存の映像結晶や情報塔の技術も使えそうですね」
「うん」
リゼットが静かに話を聞いていた。
「つまり、必要なのは新しい表示装置を作ることではなく、その上で動くゲームそのものを作ることですね」
「そういうこと」
マドカが頷く。
「ゲームの種類はいっぱいあっていいと思う」
マドカはテーブルに並べられたソフトを見る。
「RPGでもいいし、シューティングでもいい。音楽ゲームでもいいし、レースゲームでもいい」
「なるほど」
「日本には、本当にいろんなゲームがあったからね」
ジャスティスが懐かしそうに笑う。
「だから、エキドナでもいろんなゲームを作ればいいと思う」
「一つのゲームにすべてを詰め込む必要はない、ということですか?」
「うん」
マドカが答える。
「一つのゲームは一つのゲームとして完成させる」
「そして、次のゲームを作る」
「そうそう」
ナナリーも頷いた。
「新しいゲームが出たら、また遊びたくなるしね」
「……なるほど」
技術者たちが資料に書き込んでいく。
するとジャスティスが、ふと思いついたように手を上げた。
「じゃあさ」
「何?」
「ゲームのシナリオ、俺がやろうか?」
「ジャスティスが?」
「暇だし」
「それだけ?」
「ゲーム好きだからいいだろ!」
ジャスティスは胸を張った。
「日本のゲームをいろいろ知ってるし、こういう話なら考えられる」
「じゃあ、お願いしようかな」
マドカはあっさり頷いた。
「私はキャラクターを考える」
「マドカは絵とかキャラ作るの好きだもんな」
「うん」
マドカも頷く。
「こういうキャラがいたら面白そうって考えるの好き」
「じゃあ、私は音楽やるよ~」
ナナリーが手を上げる。
「ゲームの曲なら作れるし」
「それなら三人で素材を作って、開発班に渡す形にしましょう」
リゼットがまとめる。
「シナリオはジャスティス。キャラクターデザインはマドカ。音楽はナナリー」
「うん」
「できたら渡すね」
「私も~」
ナナリーも笑う。
技術者たちは少しだけ顔を見合わせた。
「……では、ゲーム本体はこちらで?」
「お願い」
マドカが即答する。
「操作とか画面とか、実際に動く部分はお願いね」
「分かりました」
「じゃあ、俺たちは自分の担当ができたら渡すから」
ジャスティスも頷く。
「よろしく頼む」
こうして、ゲーム開発の役割が決まった。
エキドナの技術者たちは、ゲームという新しい娯楽を形にするために動き始める。
とはいえ――
今日の説明だけで、すぐにゲームが完成するわけではない。
新しい遊び方を理解し、実際に動かせる形へ落とし込むには、それなりの時間が必要になる。
「じゃあ、ゲームのほうはお願いね」
マドカが言った。
「はい」
技術者たちが頷く。
その日の会議は、そこで終わった。
ゲーム開発は、ひとまず開発班に任せることになった。
そしてマドカたちは――
「さて」
リゼットが資料をまとめる。
「次は、女性向け商品のほうね」
「あ、そうだった」
マドカが立ち上がる。
「そっちもいっぱい作らないと」
「試作品もありますものね」
ナナリーが笑う。
「プリエラたちに渡す分も考えないと」
「配信で見せるのも楽しそう」
「うん!」
マドカが頷く。
ゲームは、開発班に任せた。
その間にも、エキドナでは別の新しい商品が作られていく。
ゲームが完成するのは、もう少し先のことになる。
けれど――
エキドナの新しい娯楽と、新しい女性向け商品の準備は。
この日から、同時に動き始めた。




