勇者配信 やべぇ村6
扉の向こう。
暗闇の中で、無数の光が揺れている。
赤。
青。
緑。
黄色。
白。
色も大きさも、まるで統一されていない。
「…………」
ジャスティスは剣を構えたまま、動かなかった。
「数……多すぎないか?」
マドカもじっと奥を見る。
「うん」
ティニアはというと――。
「……綺麗」
「そこ!?」
ジャスティスが振り返る。
「何でそんな感想なんだよ!」
「だって綺麗じゃない」
ティニアは目を細める。
「敵だったら、もう少し怖い雰囲気にするでしょう?」
「その判断基準は何なんだよ!」
コメント欄もざわついている。
『色んな色あるな』
『目なのか? 魔石なのか?』
『敵だったら怖すぎる』
『ティニアの感性どうなってるんだw』
『でも確かに綺麗』
『これ何がいるんだよ』
ジャスティスは一歩前へ進んだ。
「……動かないな」
「うん」
「攻撃もしてこない」
さらに一歩。
すると――。
赤い光の一つが、ふっと消えた。
「!」
ジャスティスが身構える。
「消えた?」
「うん」
マドカが答える。
次の瞬間。
少し離れた場所で、別の光が灯った。
「……移動した?」
ティニアが呟く。
「気をつけろ」
ジャスティスが剣を構え直す。
すると。
暗闇から――。
小さな音が聞こえた。
カサ。
カサカサ。
「……?」
マドカが耳を澄ます。
「何かいる」
音が近づいてくる。
そして。
暗闇から、小さな影が飛び出してきた。
「!」
ジャスティスが剣を振り上げる。
「待って!」
マドカが止める。
「え?」
床を走ってきたのは――。
「……ネズミ?」
小さな魔物だった。
丸い身体。
大きな耳。
そして背中に小さな魔石のようなものがついている。
「…………」
ネズミは三人を見る。
そして。
ちゅっ。
「…………」
ジャスティスが剣を下ろした。
「……なんだよ」
ティニアが笑う。
「可愛いじゃない」
「お前、さっきから判断が雑すぎるだろ」
マドカがしゃがみ込む。
「おいで」
ネズミは警戒しながらも、少しずつ近づいてくる。
そしてマドカの足元まで来ると――。
ぺた。
「……」
マドカの靴に触れた。
「懐いた?」
ティニアが覗き込む。
「たぶん」
マドカが手を伸ばす。
ネズミは逃げない。
「……この子、魔力を持ってる」
ジャスティスが言う。
「でも、攻撃性はないな」
ネズミの背中の魔石が、ほんのり光る。
その瞬間。
奥にあった無数の光の一つが消えた。
「……?」
マドカが振り返る。
「また消えた」
「さっきのネズミと関係あるのか?」
ジャスティスが考える。
ネズミは何事もなかったように奥へ戻っていく。
そして――。
暗闇の中へ消えた。
すると。
また一つ。
光が灯った。
「…………」
三人が黙る。
「まさか」
ジャスティスが呟く。
「さっきの光、あの魔物たちなのか?」
「どうだろう」
マドカが首を傾げる。
ティニアは楽しそうに言った。
「確かめればいいじゃない」
「どうやって?」
「追いかける」
「簡単に言うな!」
しかし、マドカがすでに歩き始めていた。
「じゃあ、行ってみよう」
「マドカまで!?」
ジャスティスはため息をつきながら二人を追う。
「本当に好奇心強いな、お前ら……」
しばらく進むと。
暗闇の中に、広い空間が見えてきた。
「……広い」
マドカが呟く。
そこには――。
小さな魔物たちがいた。
さっきのネズミだけではない。
犬のような魔物。
猫のような魔物。
小さな鳥。
丸いスライム。
どれも攻撃的な様子はない。
むしろ。
みんな自由に歩き回っている。
「…………」
ジャスティスが呆然とする。
「何だ、ここ……」
ティニアが目を輝かせた。
「魔物の楽園……?」
「いや、名前をつけるのはまだ早い」
「でも、そう見えるじゃない」
「確かに……」
マドカも少し笑う。
すると。
奥から、さらに大きな影が出てきた。
「……!」
ジャスティスが構える。
だが。
それはゆっくりと歩いてくると――。
マドカの前で止まった。
巨大な犬のような魔物。
身体は白。
額には青い魔石。
「…………」
マドカが見上げる。
魔物もマドカを見る。
そして。
ぺろ。
「……」
マドカの頬を舐めた。
「ふふ」
「ええ!?」
ジャスティスが驚く。
「お前、完全に懐かれてるじゃん!」
ティニアが笑う。
「さすがマドカね」
「私、何もしてないけど」
巨大な魔物はマドカの横に座った。
そして、その身体から微かな魔力が流れ始める。
「……これ」
ジャスティスが目を細める。
「さっきの黒い石と同じ魔力だ」
「え?」
マドカが魔物を見る。
「この子たちが、地下の魔力を循環させてる?」
「たぶん……」
ジャスティスが周囲を見る。
「つまり、ここは魔物を封印している場所じゃない」
「じゃあ何?」
「……分からない」
ジャスティスは苦笑した。
「俺も初めて見る」
コメント欄が大騒ぎする。
『魔物の楽園だったw』
『敵じゃなかった』
『地下にこんな場所があるのかよ』
『村人誰も知らないのやばい』
『勇者も知らない』
『ティニアの「魔物の楽園」が正式名称になりそう』
『マドカまた魔物に好かれてる』
『でかい犬かわいい』
『飼いたい』
『これ村で飼えないの?』
ティニアが巨大な魔物へ近づく。
「ねえ」
魔物がティニアを見る。
「あなたも闇の眷属なの?」
「おい」
ジャスティスが即座に突っ込む。
「何でも闇にするな!」
しかし。
巨大な魔物はティニアの手を舐めた。
「…………」
ティニアが固まる。
そして。
「……ふふ」
ものすごく嬉しそうな顔になった。
「認められたわ」
「何を!?」
「闇の眷属として」
「違うと思うぞ!」
マドカも笑っている。
「ティニア、よかったね」
「ええ」
ティニアは満足そうに頷いた。
そのとき。
部屋の奥から――。
また別の音がした。
ゴゴゴ……。
「……?」
マドカが振り返る。
小さな魔物たちが一斉に動きを止めた。
「……?」
ジャスティスも周囲を見る。
「どうした?」
魔物たちは、全員同じ方向を見ている。
そして。
巨大な白い魔物が立ち上がった。
「……何か来る」
ティニアが呟く。
今度は、冗談ではなかった。
魔物たちが一斉に奥へ移動する。
まるで――。
道を空けるように。
「……」
三人は黙って、その先を見る。
暗闇の奥。
そこから現れたのは――。
一人の少女だった。
白い服。
長い髪。
そして、胸元には――。
古い紋章。
「……人?」
ジャスティスが呟く。
少女は三人を見る。
そして。
「……久しぶり」
「…………え?」
ジャスティスが固まった。
少女は、まっすぐジャスティスを見ている。
「勇者」
その声には。
どこか懐かしさがあった。
「……一年ぶりね」
ジャスティスは目を見開く。
「……俺、お前と会ったことあるのか?」
少女は少しだけ笑った。
「あるよ」
「…………」
マドカとティニアが顔を見合わせる。
コメント欄も一斉に流れ始めた。
『え?』
『知り合い?』
『勇者、また何かやってる?』
『一年ぶりってどういうこと?』
『この地下、急に話が変わったぞ』
『誰だこの子』
少女は静かに言った。
「あなたがこの村に来た夜」
「……!」
「私は、あなたを見ていた」
ジャスティスの顔から、笑みが消える。
「……俺が?」
「そう」
少女は頷く。
「あなたが村を救ったことも」
「…………」
「そして――」
少女は少しだけ笑った。
「そのあと、村人たちに変な言葉を教えていたことも」
「…………」
ティニアが吹き出した。
「ぷっ……!」
「笑うな!」
マドカも口元を押さえている。
「……ごめん」
少女は首を傾げた。
「変なことを教えていたでしょう?」
「いや、それは……」
ジャスティスが顔を赤くする。
「……善意だったんだよ」
「知ってる」
「……」
少女は少しだけ笑った。
「だから、ずっと見ていた」
そして。
少女は奥にある巨大な紋章へ手を向ける。
「ここは、あなたが思っているような封印の場所ではない」
「……じゃあ、ここは何なんだ?」
少女は答えた。
「この村の――」
一度、言葉を止める。
「**守護の場所**」
マドカが目を瞬かせる。
ティニアは――。
「……なるほど」
また少しだけ楽しそうに笑った。
「じゃあ、ここにはまだ秘密があるのね」
少女は頷いた。
「うん」
そして。
「あなたたちには、それを知る資格がある」
地下の奥で――。
巨大な紋章が、ゆっくりと光り始めた。




