勇者配信 やべぇ村5
赤い二つの光が、暗闇の中でゆっくりと動いた。
「……来るぞ」
ジャスティスが剣を構える。
マドカも身を低くする。
ティニアは――。
「…………」
なぜか嬉しそうだった。
「お前、絶対楽しんでるだろ」
「当然でしょ」
「そこは否定しろよ!」
ゴン。
ゴン。
足音が近づく。
暗闇の向こうから、巨大な影が姿を現した。
「…………」
三人が見上げる。
大きい。
人間より遥かに大きい。
全身を黒い金属のような外殻が覆っている。
頭部には二つの赤い光。
そして、その両腕には巨大な刃のようなものがついていた。
「……ゴーレム?」
マドカが呟く。
「いや」
ジャスティスが目を細める。
「こんなタイプ、見たことない」
巨大な存在は三人を見下ろしている。
そして――。
口のような部分が開いた。
『…………』
「…………」
「…………」
「…………」
何も言わない。
ただ、赤い目が三人を見ている。
ジャスティスが少し構えを緩める。
「……敵意は、ない?」
マドカも頷く。
「たぶん」
ティニアは一歩前へ出た。
「……なるほど」
そして、いつもの役に入った声で言う。
「封印を守護する、古の番人ね」
「まだ決まってないからな?」
「でも、そうでしょう?」
「知らないって!」
コメント欄が流れる。
『出たw』
『なんか思ったよりガチのやつだった』
『闇の騎士ごっこから急に本物の守護者』
『ジャスティスも知らないの笑う』
『勇者が知らないなら視聴者も知らん』
『ティニアはもう設定を確定させにいってるw』
『マドカが一番冷静』
巨大な存在が、一歩前へ進んだ。
ゴン……。
床が震える。
「……来る!」
ジャスティスが剣を構える。
しかし。
巨大な存在は、三人の前で止まった。
そして――。
『……認証』
「…………?」
機械のような声が響いた。
「認証?」
マドカが首を傾げる。
『侵入者を確認』
「やっぱり敵か?」
ジャスティスが身構える。
だが、巨大な存在は続けた。
『確認』
『勇者』
「……え?」
ジャスティスが固まる。
『同行者』
『二名』
『危険性――』
そこで一瞬、処理が止まった。
『……低』
「…………」
「…………」
「…………」
ティニアが吹き出した。
「ぷっ……!」
「おい!」
マドカも少し笑っている。
「ジャスティス、危険性低いって」
「いや、俺じゃなくて全員だろ!」
コメント欄が爆発する。
『危険性低www』
『勇者パーティー、判定される』
『ティニアは絶対危険度高いと思ったのにw』
『むしろティニアが一番危険だろ』
『闇を見届ける者さんw』
『マドカは納得』
『ジャスティスが一番まとも』
「お前らコメントでも俺をいじるな!」
巨大な存在は三人を見たまま、さらに言葉を続けた。
『質問』
「質問?」
『汝らは、何を求めてここへ来た』
ジャスティスが少し考える。
「……調査だ」
『調査』
「ああ」
ジャスティスは剣を下ろした。
「俺は一年くらい前に、この村に滞在したことがある。そのときは、この地下のことなんて知らなかった」
『…………』
「今回、村の様子を確認するために来たんだ」
『…………』
巨大な存在は黙っている。
ジャスティスは少しだけ言葉を続けた。
「それと――」
一度、村の方向を見る。
「俺がこの村に残したものが、どうなったのかも知りたかった」
「…………」
マドカが静かにジャスティスを見る。
ティニアも、珍しく何も言わなかった。
巨大な存在が、赤い目を明滅させる。
『勇者』
「……なんだ?」
『過去の記録を照合』
『該当人物と一致』
「……!」
ジャスティスの顔が引きつる。
『一年と三日前』
『汝はこの村に滞在』
『巨大魔獣を討伐』
『村人へ戦闘方法を教授』
『その後――』
一瞬、間が空いた。
『多数の特殊な言語表現を伝授』
「…………」
「…………」
「…………」
マドカが横を見る。
ティニアもジャスティスを見る。
ジャスティスは――。
「……やっぱり記録されてるのか」
『肯定』
「頼むからそこは忘れてくれ……」
コメント欄が大騒ぎする。
『地下の守護者に黒歴史を記録されてる勇者』
『逃げ場ないw』
『一年越しの追及』
『地下施設にまで記録残ってるの草』
『村より地下のほうが怖いw』
『勇者、過去と向き合う』
ティニアが笑いながら言った。
「よかったじゃない」
「何がだよ」
「ちゃんと覚えてもらえてるわよ」
「嬉しくない!」
マドカも少し笑う。
「でも、これでジャスティスが原因なのは証明されたね」
「マドカ!?」
巨大な存在が再び口を開いた。
『ただし』
「……?」
『当時の行動に、敵対意図は確認されない』
ジャスティスが目を瞬く。
『村人を励ます目的であったと記録』
「……」
ジャスティスは少し黙った。
「……そうだよ」
小さく笑う。
「あのときは、みんな怖がってたからな」
『結果』
『村人の精神状態は安定』
『共同体としての結束も上昇』
『現在まで継続』
「…………」
ジャスティスは目を丸くした。
「……それって」
マドカが頷く。
「悪いことにはなってないみたい」
「……そっか」
ジャスティスは、少しだけ肩の力を抜いた。
ティニアが横から笑う。
「よかったじゃない、勇者」
「……ああ」
ジャスティスも笑った。
「ちょっと安心した」
すると巨大な存在が、再び三人を見る。
『しかし』
「まだあるのか?」
『地下封印区画への侵入には、許可が必要』
「……許可?」
『現在の封印状態』
『異常なし』
『ただし、内部に変化を確認』
「変化?」
マドカが聞く。
『詳細不明』
「守護者なのに?」
『不明』
「…………」
ジャスティスが困惑する。
「お前でも分からないのか?」
『不明』
「……そうか」
ティニアの目が輝いた。
「つまり――」
彼女はゆっくり笑う。
「この先に、本当に何かあるのね」
『肯定』
「行きましょう」
「即決するな!」
ジャスティスが止める。
「でも」
マドカが奥を見る。
「守護者さんが危険だって言ってるわけじゃないんだよね?」
『現時点では危険性を確認していない』
「なら、少しだけ見てみようよ」
「…………」
ジャスティスは悩む。
そして――。
「……分かった」
剣を収める。
「ただし、何かあったらすぐ戻る」
「了解」
「ええ」
ティニアは満足そうに頷いた。
『通行を許可』
巨大な守護者が横へ移動する。
その背後に――。
さらに奥へ続く巨大な扉が現れた。
「……あれ」
マドカが目を丸くする。
扉には、今まで見たことのない紋章が刻まれていた。
中央に描かれているのは――。
村の紋章ではない。
王国の紋章でもない。
ましてや、エキドナのものでもない。
「……これ、何の紋章?」
ジャスティスが呟く。
守護者は答えない。
『――』
ただ、赤い目だけが静かに明滅している。
ティニアがその紋章へ近づく。
「ふふ……」
そして、いつもの調子で。
「どうやら、この先に真の闇が眠っているようね」
「……お前、それ本気で言ってるのか?」
「半分くらい」
「半分なんだ……」
マドカが笑った。
コメント欄も盛り上がる。
『新しい紋章きた』
『王国でもエキドナでもない?』
『何者なんだこの地下』
『村の地下に謎施設』
『しかも守護者までいる』
『もう完全に別の事件じゃん』
『ジャスティスの黒歴史を確認しに来ただけなのにw』
『ティニアが一番楽しそう』
『マドカも普通に楽しんでる』
ジャスティスは扉を見る。
「……よし」
そして、扉に手を伸ばす。
「開けるぞ」
重い音を立てて――。
巨大な扉が動き始めた。
その向こうから。
冷たい風が吹いてくる。
そして暗闇の中に――。
大量の光が見えた。
「……?」
マドカが目を凝らす。
一つ。
二つ。
三つ。
いや。
もっとある。
無数の光が、暗闇の中でこちらを見ていた。
ティニアの笑顔が止まる。
ジャスティスが剣を抜く。
「……何だ、あれ」
コメント欄も、一瞬だけ静まり返った。
そして。
その無数の光が――。
一斉にこちらを向いた。
『…………』
『え?』
『ちょっと待って』
『数、多くない?』
『これ全部なんだ?』
マドカが、小さく呟く。
「……いっぱい、いるね」
地下のさらに奥。
そこには――。
まだ誰も知らない何かが、静かに眠っていた。




