勇者配信 やべぇ村4
地下の扉が、ゆっくりと開いていく。
その向こうに広がっていたのは、思っていたよりもずっと広い空間だった。
「…………」
ジャスティスは入り口で立ち止まった。
壁には古い石材。
天井には小さな魔石がいくつも埋め込まれている。
その淡い光が、部屋全体を照らしていた。
「……これ」
マドカが周囲を見回す。
「普通の地下室じゃないね」
「だろ?」
ジャスティスも警戒したまま頷く。
「誰がこんなものを……」
ティニアは一歩、前へ出た。
「ふふ……」
「また始まった」
ジャスティスが呆れる。
「この地の地下深くに眠る、失われし封印の間……」
ティニアは両手を広げる。
「そして今、その封印へと選ばれし者たちが辿り着いた――」
「選ばれし者って誰だよ」
「私たち」
「勝手に決めるな!」
マドカが小さく笑う。
「でも、ちょっとそれっぽいね」
「マドカまで!?」
コメント欄が一気に流れる。
『ティニア完全にスイッチ入ってるw』
『もう普通に楽しんでるだろ』
『マドカも若干感染してるw』
『ジャスティスだけ現実に戻そうとしてる』
『元凶が一番冷静なの草』
『いや元凶だからこそ冷静になってるんだろw』
ジャスティスはコメント欄を見ながらため息をついた。
「……俺、ここに来る前はもっと真面目な調査になると思ってたんだけどな」
「十分真面目よ」
ティニアが言う。
「ちゃんと調査してるじゃない」
「お前が中二病を始めなければな!」
「それは調査に必要な演出よ」
「絶対必要ない!」
そんな二人を横目に、マドカは壁へ近づいた。
「……あれ?」
「どうした?」
「ここ」
マドカが指差す。
壁の一部に、何かが刻まれていた。
文字。
ただし、かなり古い。
「読める?」
ジャスティスが近づく。
「……いや」
ティニアも覗き込む。
「私も分からないわ」
「じゃあ、これなら?」
マドカが文字の下にある小さな紋章を指差した。
三人が見る。
「……魔法陣?」
「いや」
ジャスティスが首を振る。
「これは……」
少し考える。
「騎士団で使われてる封印術式に似てる」
「本当に?」
「ああ。でも、かなり古いタイプだ」
ジャスティスは壁に手を近づける。
その瞬間。
――カチッ。
「!」
小さな音がした。
「何!?」
ティニアが身構える。
マドカも一歩下がる。
ジャスティスは剣を抜いた。
しかし。
何も起こらない。
「……?」
三人が顔を見合わせる。
すると壁の一部が、ゆっくりと光り始めた。
「おお……」
ティニアの目が輝く。
「来たわ」
「何が!?」
「封印が私たちを認めたのよ」
「まだ何も分かってないだろ!」
光は徐々に強くなる。
そして――。
壁に文字が浮かび上がった。
『この先、危険』
「…………」
「…………」
「…………」
沈黙。
ジャスティスが眉をひそめる。
「……ずいぶん普通だな」
ティニアが少し不満そうな顔をした。
「もっとこう……」
「何だよ」
「『選ばれし者以外は立ち入ることなかれ』とか」
「それはお前が期待してただけだろ!」
マドカは文字を見ながら首を傾げた。
「でも、危険って書いてあるなら、本当に危険なんじゃない?」
「まあ……そうだな」
ジャスティスも真剣になる。
「無理に進む必要はない」
そのときだった。
部屋の奥から――。
カラン。
何かが転がる音がした。
「……?」
三人が同時に振り向く。
暗い部屋の奥。
何かが動いたように見えた。
「今、何かいた?」
マドカが聞く。
「分からない」
ジャスティスが剣を構える。
「俺が見てくる」
「私も行く」
ティニアも続く。
「お前、怖くないのか?」
「むしろ楽しみ」
「だよな……」
ジャスティスは諦めた。
三人で奥へ進んでいく。
しばらく歩くと、床に何かが落ちていた。
「……これ?」
マドカが拾い上げる。
「石?」
手のひらに乗る、小さな黒い石。
ただの石に見える。
「ちょっと貸して」
ティニアが受け取る。
「……」
しばらく眺める。
「何もないわね」
「じゃあ普通の石?」
マドカが首を傾げる。
ジャスティスも覗き込む。
「いや……」
彼の表情が変わった。
「これ、魔力を吸ってる」
「え?」
「ほんの少しだけどな」
ジャスティスが慎重に手を近づける。
「普通の石じゃない」
コメント欄がざわつく。
『魔力吸う石?』
『急に本物のファンタジー始まった』
『闇のトマトから落差がすごい』
『この地下ガチなの?』
『勇者が知らないもの出てきたぞ』
『ティニア、まだ役続けてる?』
『絶対続けてる』
『むしろここから本気出すタイプだろw』
ティニアは黒い石を見つめる。
そして――。
「……ふふ」
「何だ?」
「これはきっと、封印を維持するための闇の核ね」
「だから勝手に名前をつけるなって!」
「だって、それっぽいじゃない」
「それっぽいだけで決めるな!」
マドカが石を見る。
「じゃあ……闇の石?」
「ほら!」
ティニアが嬉しそうに振り向く。
「マドカも認めた!」
「いや、名前を付けただけだけど」
『闇の石www』
『命名が雑』
『闇のトマト』
『封印のカボチャ』
『闇の石』
『この村の名物シリーズ増えていくな』
そのとき。
黒い石が――。
ほんの一瞬だけ、赤く光った。
「……!」
三人が黙る。
「今、光ったよね?」
マドカが言う。
「ああ」
ジャスティスも頷く。
ティニアの表情から、ほんの少しだけ笑みが消えた。
「……これは」
黒い石の奥。
小さな赤い光が、脈打っている。
「さっきまで、こんなのなかったわよね?」
「うん」
マドカが答える。
「……魔力が動いてる」
ジャスティスが低い声で言った。
「この地下に何かいるのかもしれない」
「……」
ティニアが石を握る。
そして。
「――面白くなってきたじゃない」
また、いつもの笑顔に戻った。
「お前、怖くないのか?」
「怖いわよ」
「え?」
「だから面白いんじゃない」
ティニアは笑う。
「未知のものを前にして、何も知らないまま帰るなんてつまらないでしょう?」
「……なるほどな」
ジャスティスも少し笑った。
「じゃあ、慎重に行くぞ」
「うん」
「ええ」
三人はさらに奥へ進む。
すると。
今度は壁に、大きな文字が刻まれていた。
マドカが目を細める。
「……これ、読める」
「何て書いてある?」
マドカは文字を追う。
そして――。
「『封印されしものは――』」
一度、言葉を止める。
「……『村を守るために眠る』」
「村を守る?」
ジャスティスが呟く。
ティニアも黙って文字を見る。
さっきまでふざけていた三人の空気が、少しだけ変わった。
「……村を守るために、何かを封印してる?」
マドカが言う。
「それとも」
ジャスティスが続ける。
「何かを封印することで、村を守ってるのか……」
誰にも分からない。
だが、この地下がただの村人たちの遊びではないことだけは、少しずつ分かってきた。
そのとき。
遠くから――。
ゴゴゴゴゴ……。
低い音が響いた。
「……何?」
マドカが振り返る。
ティニアが笑う。
「どうやら――」
彼女は剣を抜いた。
「歓迎されているみたいね」
「いや、それ絶対歓迎じゃないだろ!」
ジャスティスも剣を構える。
「二人とも、気をつけろ!」
コメント欄が一斉に流れる。
『来た!』
『何か始まるぞ』
『地下編、本格的になってきた』
『闇のトマトからここまで来るとは誰が思ったよw』
『勇者も知らない地下』
『村人も知らない地下』
『視聴者も知らない地下』
『つまり誰も知らないw』
そして――。
地下の奥から、何かがこちらへ近づいてくる音がした。
ゴン。
ゴン。
ゴン。
三人は息を潜める。
ティニアだけが、楽しそうに笑っていた。
「……さあ」
その声は、いつものティニアより少しだけ低かった。
「闇の奥にいる者よ」
彼女は構える。
「その姿を見せなさい――!」
「だから何でお前が仕切るんだよ!」
ジャスティスのツッコミが地下に響いた。
そして。
暗闇の奥で――。
赤い二つの光が、ゆっくりと開いた。




