勇者配信 やべぇ村3
### 勇者が泊まった村 三
村の奥。
古びた建物の前に、ジャスティスたちは立っていた。
「……ここか」
「うん」
マドカが建物を見上げる。
外から見る限り、特に変わったところはない。
古い倉庫のような建物だ。
「本当に地下なんてあるの?」
マドカが村人に尋ねる。
「はい」
「誰か入ったことは?」
「……それが」
村人は少し困った顔をした。
「子供たちが言っているだけで、実際に入った者はいないのです」
「え?」
ジャスティスが振り返る。
「誰も入ってないのか?」
「はい。昔から使われていない建物ですので」
「じゃあ、地下があるっていうのは……」
「子供たちの間で広まった話です」
「…………」
ジャスティスは黙った。
「なんだよ、それ」
ティニアが笑う。
「つまり、誰も確認してないのね」
「そういうことになります」
「……なるほど」
ティニアは少し嬉しそうに建物を見る。
「それはそれで面白いじゃない」
「お前、完全に楽しんでるだろ」
「当然でしょ」
ティニアは胸を張る。
「誰も知らない場所なんだから」
「調査に来たんだぞ」
「だからよ」
ティニアはニヤッと笑う。
「**未知なる領域を踏破するのよ**」
「……お前、もう役に入りっぱなしだな」
「私は今、闇を見届ける者だから」
「便利な設定だな!」
マドカが笑った。
「でも、確かにちょっと気になるね」
「マドカまで……」
「だって地下なんでしょ?」
「まあ……そうだけど」
ジャスティスは建物の扉を見る。
「よし」
扉に手をかける。
ギィィィ……。
古い音を立てて扉が開いた。
「うわ……」
中は薄暗い。
古い木箱や農具が置かれているだけで、特に何もない。
「……普通の倉庫だな」
「そうね」
ティニアも中へ入る。
「本当に何もない」
マドカが奥を見る。
「……あれ?」
「どうした?」
「床」
マドカが指差す。
古い木箱の下。
そこだけ、床板の色が少し違っていた。
「……確かに」
ジャスティスが近づく。
「これ、動かせるか?」
「やってみる」
三人で木箱をどかす。
すると――。
床板の一部に、取っ手がついていた。
「…………」
「…………」
「…………」
三人が無言で見つめる。
ジャスティスがゆっくり言った。
「……地下、あるじゃん」
ティニアが満面の笑みになる。
「ほら!」
「何が『ほら』だよ!」
「子供たちは嘘をついてなかったわ!」
「そこは素直にすごいな!」
コメント欄が一気に流れる。
『本当にあったwww』
『子供たち有能』
『村人誰も知らなかったの草』
『闇の騎士ごっこの情報網すげえ』
『勇者も知らない地下』
『ティニアめっちゃ嬉しそう』
『未知なる領域きた』
『闇を見届ける者、仕事の時間です』
『マドカが一番冷静なの笑う』
マドカは取っ手を見ながら言った。
「開けていいのかな?」
「それはそうだな」
ジャスティスは少し考える。
「村人も知らない場所だ。危険がないか確認してから――」
「開けるわよ」
ティニアが蓋に手をかけた。
「おい!」
「大丈夫よ」
「何を根拠に!?」
「こういうのは勢いが大事なの」
「調査で一番やっちゃいけないやつだろ!」
ティニアは笑いながら蓋を開ける。
ギギギ……。
地下へ続く階段が現れた。
「…………」
三人とも黙った。
階段は暗い。
かなり深そうだ。
そして――。
下から、ひんやりとした風が吹いてきた。
「……本当に地下だ」
マドカが呟く。
「ね?」
ティニアが楽しそうに笑う。
「これはもう、行くしかないわね」
「待て」
ジャスティスがティニアの肩を掴む。
「先に俺が行く」
「え?」
「何があるか分からないんだからな」
ジャスティスは剣を抜いた。
「勇者が先頭に立つ」
ティニアが少しだけ目を丸くする。
そして――。
「……ふふ」
「何だよ」
「やっぱり勇者なのね」
「当たり前だろ」
ジャスティスは少し照れたように顔を逸らした。
「こういうときくらい、ちゃんとやるさ」
マドカが頷く。
「じゃあ、私は真ん中」
「うん」
「私は最後ね」
ティニアが言った。
「後ろから来るものは、私が見届けるわ」
「……役に入りすぎだろ」
それでも三人は、そのまま階段を下り始めた。
一段。
二段。
三段。
地下へ進むほど、空気が冷たくなる。
「……結構深いね」
「うん」
マドカが下を見る。
「まだ終わらない」
しばらく進むと、階段の先に小さな扉が見えてきた。
「扉だ」
ジャスティスが足を止める。
扉には何か文字が刻まれていた。
「……なんだ?」
ジャスティスが目を細める。
そこに書かれていたのは――。
**『封印の間』**
「…………」
「…………」
「…………」
ティニアがゆっくりと口元を上げる。
「……来たわね」
「何がだよ」
「この村最大の秘密が」
「いや、俺は知らないからな!?」
コメント欄が爆発した。
『封印の間www』
『名前からしてヤバい』
『闇のトマトより格が上がった』
『封印のカボチャもここにあるのか?』
『この村、設定のインフレがすごい』
『勇者が知らないのが一番面白い』
『ティニア絶対テンション上がってる』
『マドカはどうするんだw』
『マドカ「開けてみよう」って言いそう』
マドカは扉を見つめる。
「……開けてみる?」
「そうね」
ティニアが頷く。
「この先に何があるのか、確かめましょう」
「待て」
ジャスティスが二人を見る。
「俺たち、ちゃんと調査しに来たんだからな?」
「うん」
「危険だったらすぐ戻るからね」
「……そうだな」
ジャスティスは扉へ向き直った。
剣を構える。
「よし」
そして、ゆっくりと扉に手を伸ばす。
カチャッ。
鍵は――。
かかっていなかった。
「……開くぞ」
扉がゆっくりと開いていく。
その向こうにあったのは――。
「…………」
三人が固まった。
そしてマドカが、ぽつりと呟く。
「……何これ?」
そこにあったものを見て。
ジャスティスは言葉を失った。
ティニアだけが――。
嬉しそうに笑っていた。
「……最高じゃない」
配信画面には、地下の光景が映し出されていた。
コメント欄も、完全に静まり返っている。
次の瞬間。
『え?』
『何これ?』
『ちょっと待って』
『誰か説明してくれ』
『この村に何があるんだよ』
『闇のトマトの次元じゃないぞ』
『勇者も知らないんだよな?』
『知らないって言ってたぞ』
『じゃあこれ誰が作ったんだ?』
ジャスティスがゆっくり口を開く。
「……俺じゃないからな」
ティニアが笑う。
「分かってるわ」
マドカは地下を見渡した。
「……これ、誰が作ったんだろうね」
誰にも分からない。
この村の地下に、いつから存在していたのか。
なぜ作られたのか。
そして――。
ここに何が封印されているのか。
三人はまだ、何も知らなかった。




