勇者配信 やべぇ村2
### 勇者が泊まった村 二
村の中へ入ってしばらく。
ジャスティスは、何とも言えない顔をしていた。
「……なあ」
「なに?」
隣を歩くマドカが振り向く。
「本当に、この村で合ってるんだよな?」
「うん。前に来たことあるよ」
「だよな……」
ジャスティスは村を見回す。
普通の村だ。
家があって、畑があって、村人が行き交っている。
ぱっと見ただけなら、何もおかしくない。
――ただし。
「おお、勇者様!」
「……!」
畑仕事をしていた男性がジャスティスに気づいた。
「お久しぶりです!」
「え、あ……」
ジャスティスが少し固まる。
「お前……覚えてるのか?」
「もちろんですとも!」
男性は嬉しそうに笑う。
「かつてこの地を襲った巨大なる魔獣を退け、我らに光と闇の道を示してくださった――」
「待て待て待て!」
ジャスティスが慌てて止める。
「そこまで言わなくていい!」
「……?」
男性は不思議そうに首を傾げた。
「何か問題が?」
「いや……その……」
ジャスティスは頭を抱えた。
やっぱりだ。
間違いない。
あのとき自分が言ったことが、今も残っている。
「……俺、何てことしちまったんだ」
小さく呟く。
その隣で、ティニアがじっと村人を見ていた。
「…………」
さっきまでのティニアは、明らかにジャスティスをからかっていた。
けれど。
村人たちの様子を見ているうちに、少しずつ口元が緩んでいく。
「……ふふ」
「ん?」
マドカがティニアを見る。
「どうしたの?」
「……なるほどね」
ティニアは村を見渡した。
「この村、そういう感じなんだ」
「そういう感じって……」
ジャスティスが嫌な予感を覚える。
ティニアは一歩前へ出た。
そして――。
「……ふふふ」
突然、声のトーンが変わった。
「なるほど……ここが、あの禁断の地……」
「…………」
ジャスティスが固まる。
マドカも瞬きをする。
ティニアはさらに続けた。
「長き眠りより目覚めし者たちが、今なお闇と光の狭間で生き続ける場所……」
「お前、何やってんの?」
ジャスティスが即座に突っ込む。
「何って?」
ティニアは真顔で振り返った。
「今の私はティニアじゃないわ」
「は?」
「**闇を見届ける者**よ」
「なんだそれ!?」
ティニアはニヤッと笑った。
「こういう村なんでしょ?」
「いや、そうだけど……!」
マドカが小さく笑う。
「ティニア、楽しそうだね」
「当然でしょ」
ティニアは胸を張る。
「こんな面白い村で普通にしてるほうがもったいないじゃない」
コメント欄が一気に流れた。
『始まったwww』
『ティニア自分から乗ったぞw』
『お前もそっち側かよw』
『ジャスティスより適応が早い』
『前に来たときもこんな感じだったっけ?』
『いや前回はガブちゃんと一緒だったからもっと酷かったぞ』
『あのアーカイブ見直してこいw』
『ティニア完全に楽しんでるだろ』
『闇を見届ける者www』
『新しい役職が生まれた』
『この村、人を選ばないな』
「おい! コメントまで乗るな!」
ジャスティスが叫ぶ。
しかしティニアは完全にその気になっていた。
「さあ、案内しなさい」
「誰に言ってるんだよ!」
「この村の住人よ」
ティニアは村人へ向き直る。
「我らは遠き地より、この地に眠る禁断の力を探しに来た」
「……!」
村人の目が輝いた。
「おお……!」
「さすがです、闇を見届ける者様!」
「誰だよその称号つけたの!」
ジャスティスが頭を抱える。
だが、村人は嬉しそうだった。
「この村には、今も多くの秘密が残されています」
「ほう……」
ティニアの目が輝く。
「それは?」
「まずは――」
村人が周囲を確認する。
「……畑の奥に、決して触れてはならぬものが」
「!」
ティニアが振り返る。
「マドカ」
「うん」
「行くわよ」
「うん」
「待て待て!」
ジャスティスが二人を追いかける。
「お前ら、何を見つけても勝手に触るなよ!?」
「分かってるよ」
マドカは普通に答える。
「ティニアも分かってるよね?」
「もちろん」
ティニアは堂々と頷いた。
「禁断の力を扱う者として、最低限の心得はあるわ」
「お前、本当にそれで行くのか……?」
「うん」
「即答!?」
畑の奥へ進む。
すると、そこには――。
一つの赤い実が置かれていた。
「…………」
「…………」
「…………」
三人が黙る。
赤く、丸い。
普通のトマトにしか見えない。
村人が静かに言った。
「それが――」
少し間を置いて。
「**闇のトマト**です」
「来たぁぁぁ!」
ジャスティスが頭を抱える。
ティニアは目を輝かせた。
「……闇のトマト」
「やめろ」
「禁断の果実……」
「やめろって!」
「これを口にした者は、闇に選ばれるという……」
「そこまで設定あったのか!?」
コメント欄がさらに加速する。
『闇のトマトきたwww』
『前回見たやつだ!』
『アーカイブ勢歓喜』
『あのガブちゃんが食べようとしてたやつw』
『ティニアの反応が完全に役者』
『ジャスティスが一番まともなの笑う』
『元凶なのにツッコミ役になってる』
『勇者の責任感が試されている』
『ティニア絶対こういうの好きだろ』
『マドカはどうするんだw』
マドカはトマトをじっと見つめた。
「……普通のトマトだね」
「マドカ!?」
「でも」
マドカは少し考える。
「名前が闇のトマトなら……」
トマトを指差す。
「**闇のトマトさん**?」
「敬称つけたwww」
『マドカも若干乗ってきたw』
『さん付けはずるいw』
『闇のトマトさんw』
『この三人、思ったより相性いいな』
ティニアが満足そうに頷く。
「いいわね」
「何が?」
「そのくらいがちょうどいいのよ」
そして、ティニアは再びトマトを見る。
「では……闇のトマトさん」
「やめてくれ……」
「我々を導いてちょうだい」
「トマトに何を求めてるんだよ!」
村人たちが笑っている。
ジャスティスは深いため息をついた。
しかし――。
少しだけ。
その表情は安心していた。
村人たちは困っていない。
むしろ、楽しんでいる。
自分が残してしまったものを、村の人たちは自分たちなりの遊びに変えていた。
「……そっか」
ジャスティスが小さく呟く。
「なんだかんだ、楽しんでるんだな」
「うん」
マドカも頷く。
「みんな楽しそう」
ティニアが横から口を挟む。
「だったらいいじゃない」
「……そうだな」
ジャスティスは少し笑った。
「俺が心配しすぎてたのかもしれない」
その直後。
村の子供たちがこちらへ走ってきた。
「勇者様!」
「ん?」
「今日は遊んでくれる!?」
「……遊ぶ?」
ジャスティスが首を傾げる。
子供たちは目を輝かせていた。
「闇の騎士ごっこ!」
「…………」
ジャスティスの笑顔が消える。
「……やっぱり、まだ俺が責任取らなきゃダメかもしれない」
ティニアが吹き出した。
「ふふっ……!」
マドカも笑う。
「頑張って、勇者様」
「マドカまで!?」
コメント欄はもう止まらなかった。
『闇の騎士ごっこきたwww』
『子供たち楽しそう』
『勇者、責任を取る時が来たな』
『これは勇者が参加するしかない』
『ティニア絶対参加するだろ』
『むしろティニアが一番ノリノリ』
『マドカも地味に乗ってるw』
『三人で闇の騎士ごっこやってほしい』
『勇者+闇を見届ける者+闇のトマトさん』
『最後のやつ誰だよw』
ティニアはコメント欄を見ていない。
けれど、子供たちの顔を見て――。
楽しそうに笑った。
「いいわ」
「え?」
ジャスティスが振り向く。
「私もやる」
「お前もかよ!」
「だって面白そうじゃない」
ティニアは堂々と胸を張る。
「さあ、始めましょう」
「……はぁ」
ジャスティスは諦めたように息を吐いた。
「分かったよ」
そして、子供たちの前に立つ。
「――勇者ジャスティス」
少しだけ恥ずかしそうにしながらも、剣を構える。
「闇の騎士たちよ。今日も修行の時間だ」
「おおー!」
子供たちが歓声を上げる。
ティニアも一歩前へ出た。
「そして私は――」
少し間を置く。
「闇を見届ける者」
マドカが小さく笑った。
「じゃあ私は……」
少しだけ考えて。
「闇の騎士を応援する者、かな」
「なんだそれ!」
ジャスティスが突っ込む。
村中に、子供たちの笑い声が響いた。
そしてその様子は、当然のように配信へ流れていた。
『この村、平和だなw』
『勇者が自分の黒歴史を育ててる』
『ティニアが完全に楽しんでる』
『マドカの微妙な乗り方好き』
『これ何話続くんだよw』
『むしろずっと見てたい』
そして村の誰かが、ふと呟いた。
「そういえば……」
「ん?」
「闇の騎士ごっこをしている子供たちが、最近よく言っているんです」
村人が少し声を落とす。
「村の地下には、もっとすごい場所があるって」
ジャスティスが止まった。
「……地下?」
ティニアの目が輝く。
「……ふふ」
マドカも首を傾げる。
「地下って、どこ?」
村人は静かに指を差した。
村の奥。
誰も近づかない古い建物。
「そこから下へ降りる道があるそうです」
コメント欄が一斉に沸いた。
『地下!?』
『始まったな』
『絶対なんかあるだろ』
『この村、まだ設定増えるのかよw』
『ティニアの目が完全に冒険者』
『ジャスティス今度は何を教えたんだ』
『地下ダンジョン編きた?』
『あの村、本当に何なんだよw』
ジャスティスは建物を見つめる。
「……俺、あそこには行ったことないぞ」
「じゃあ」
ティニアが笑う。
「今度は私たちで確かめに行きましょう」
「……そうだな」
マドカも頷いた。
「行ってみよう」
こうして。
勇者ジャスティスの責任確認の旅は――。
なぜか、村の地下探索へと進むことになった。




