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落内円は落ちている  作者: 七風


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勇者配信 やべぇ村

### 勇者、責任を取る


 村へ向かう道中。


「……本当に、ここなの?」


 馬車を降りたマドカが、目の前に広がる村を見渡した。


「そうだ」


 ジャスティスが頷く。


 その顔には、いつもの自信満々な表情がない。


「一年くらい前に、俺がここに三日ほど泊まった村だ」


「へぇ」


 ティニアが村の入口を見る。


「ここが、勇者が変なこと広めた村ね!」


「だから、その言い方やめろよ……」


「だってそうじゃん!」


 ティニアは腕を組んで、呆れたようにジャスティスを見る。


「魔物倒して、村人助けて、調子に乗って変なこといっぱい言って、そのまま帰ったんでしょ?」


「いっぱいじゃない!」


「『闇』とか『光』とか『選ばれし者』とか?」


「……」


「『宿命』とか『禁断の力』とか?」


「……」


「ほんっと、ろくなことしないわね、あんた!」


「いや、あのときは村の人たちを励まそうと思ってだな……」


「はいはい。言い訳は村に入ってから聞くから」


「言い訳じゃない!」


 マドカは二人のやり取りを見ながら、村の入口へ目を向けた。


「でも、一年ぶりなんだよね?」


「ああ」


「じゃあ、もう誰も覚えてないかもしれないね」


「それなら、それでいいんだが……」


 ジャスティスは少しだけ肩の力を抜いた。


「俺も、あのときは三日しかいなかったからな」


「じゃあ、確認だけして帰ればいいじゃん」


「そういうわけにもいかないだろ」


 ジャスティスは苦笑する。


「俺が何か変な影響を残してないか、ちゃんと見ておきたいんだ」


「責任感だけはあるんだね」


「だけはってなんだよ」


 ティニアが笑う。


「じゃ、行こ」


 三人が村へ向かって歩き始める。


 そして――。


「…………」


 ジャスティスの足が止まった。


「どうしたの?」


 マドカが振り返る。


「……いや」


 ジャスティスは村の入口に立っている看板を見ていた。


 木の板に、妙に力強い文字でこう書かれている。


 ――**『選ばれし者よ、闇を恐れるな』**


「…………」


「何?」


 ティニアも看板を見る。


「……ぷっ」


「笑うな」


「いや、だって!」


 ティニアが肩を震わせる。


「入口からもう始まってるじゃん!」


「俺がいたときは、こんなのなかったぞ……」


 ジャスティスが頭を抱える。


「そりゃ一年も経てば変わるでしょ」


「普通はこんな変わり方しないだろ!」


 マドカが看板を見上げる。


「……字、きれいだね」


「そこ!?」


 そのときだった。


 村の奥から、一人の男が走ってきた。


「勇者様!」


「!」


 ジャスティスが顔を上げる。


 男は息を切らしながら、ジャスティスの前で立ち止まった。


「お、お戻りになったのですね!」


「ああ。久しぶりだな」


「一年ぶりでございます!」


「よく覚えてたな……」


 ジャスティスは少し驚いた。


 だが、次の瞬間。


 男が両手を広げる。


「まさか、再びこの地へお戻りくださるとは!」


「……」


「我々は、ずっと待っておりました!」


「…………」


 ジャスティスの顔が引きつった。


「……ずっと?」


「はい!」


 男は満面の笑みだった。


「この一年、我々は勇者様から授かった言葉を胸に――」


「待て」


「はい?」


「授かった?」


「はい!」


 ジャスティスがマドカを見る。


 マドカもジャスティスを見る。


 ティニアは――。


 もう笑いを堪えきれていなかった。


「ふ、ふふ……」


「お前、絶対楽しんでるだろ」


「だって面白いんだもん!」


 男は不思議そうに三人を見る。


「……勇者様?」


「あ、いや」


 ジャスティスは咳払いした。


「それで……一年の間、何か変わったことはなかったか?」


「変わったこと?」


「生活とか、人間関係とか……」


「変わったことはございます!」


 男は即答した。


「むしろ、とても良くなりました!」


「……え?」


「勇者様が教えてくださった『闇』と『光』のおかげでございます!」


「…………」


「『選ばれし者』という言葉も、村の若者たちの間で大切な言葉になりました!」


「…………」


「『宿命』について語り合うことで、村人同士の交流も増え――」


「ちょっと待て」


 ジャスティスが片手を上げる。


「俺、そんなに教えたか?」


「最初は少しだけでございました」


「最初は?」


「はい」


 男は誇らしげに胸を張った。


「その後、我々で研究したのです」


「研究……?」


 ジャスティスの顔から血の気が引いていく。


「勇者様のお言葉には、きっと深い意味があるのだと!」


「いや、ないぞ」


「…………」


「本当にないからな?」


 男は数秒黙った。


「……なるほど」


「なんで納得した顔してるんだよ」


「つまり勇者様は、あえて我々に考えさせたのですね!」


「違う!」


 ティニアがとうとう吹き出した。


「ははははっ!」


「笑うな!」


「だって一年かけて勝手に研究されてるじゃん!」


 マドカも村を見回す。


 よく見ると、家の壁や店の看板にも妙な言葉が書かれている。


 ――**『闇の力を恐れるな』**


 ――**『光あるところに宿命あり』**


 ――**『選ばれし者は己の力を知るべし』**


「……いっぱいあるね」


「増えてる……」


 ジャスティスが呆然と呟いた。


 男が嬉しそうに頷く。


「村の者たちがそれぞれ考えたものです!」


「一年で!?」


「はい!」


「……俺が帰ったあと、ずっと?」


「はい!」


「…………」


 ジャスティスは両手で顔を覆った。


「俺……何てことしちまったんだ……」


「今さら?」


 ティニアが笑う。


「一年も経ってるよ?」


「だからこそだよ!」


 マドカは村人へ尋ねた。


「でも、みんな楽しそうだね」


「はい!」


 男は笑った。


「とても楽しいです!」


「困ってる人はいない?」


「おりません」


「嫌がってる人は?」


「ほとんどおりませんな」


「ほとんど?」


「……たまに、普通に暮らしたい者もおります」


「いるんじゃん!」


 ジャスティスが即座に反応する。


「そこはちゃんと話を聞いてやれよ!」


「もちろんです!」


 男は真面目に頷いた。


「その者には、無理に選ばれし者になる必要はないと伝えております!」


「……」


「本人が望むなら、普通の村人として暮らせばよいのです」


 ジャスティスは少しだけ黙った。


「……そうか」


 思っていたよりも、村人たちは普通だった。


 ただ――。


 普通の村に、ものすごく濃い遊びが一つ追加されているだけ。


「……それなら」


 ジャスティスが小さく息を吐く。


「まあ……よかったのか?」


「よかったんじゃない?」


 マドカが答える。


「みんな楽しそうだし」


「……そうだな」


 そのとき。


「お待ちください!」


 村人が声を上げた。


「勇者様には、ぜひこちらを!」


「何だ?」


 差し出されたのは、一冊の分厚い本だった。


「これは……?」


「『勇者様の教え・第一巻』です!」


「第一巻!?」


 ジャスティスの顔が引きつる。


「……第二巻もあるのか?」


「ございます!」


「何巻まで?」


「現在、十二巻まで」


「十二!?」


 ティニアが腹を抱えた。


「一年で十二巻!? 毎月一冊じゃん!」


「笑うな!」


 マドカが本を覗き込む。


「……続き、気になる」


「マドカ!?」


「だって十二巻もあるなら、ちょっと読んでみたい」


「お前まで!?」


 ティニアは笑いながらジャスティスの肩を叩いた。


「ほら、勇者。責任取って読みなさいよ」


「……」


 ジャスティスは分厚い本を見つめる。


 そして――。


「……仕方ない」


 諦めたように受け取った。


「全部確認する」


「おお!」


 村人が歓声を上げる。


「さすが勇者様!」


「いや、そういう意味じゃないからな!?」


 村に歓声が響く。


 ――そして、その日の午後。


 エキドナの配信が始まった。


 画面の向こうに、勇者ジャスティスの姿が映る。


「みんな、聞いてくれ!」


 ジャスティスがカメラへ向かって声を上げる。


「勇者ジャスティスだ!」


 コメント欄が一気に流れ始める。


『勇者きた!』


『今日は何の配信?』


『ゲスト誰だ?』


 ジャスティスは少し真剣な顔になる。


「今日は、俺が以前泊まった村に来ている!」


「一年くらい前に、三日ほど世話になった村だ!」


 その横からマドカが顔を出す。


「こんにちは」


 さらにティニアも映り込む。


「やっほー」


『マドカいるじゃん』


『ティニアもいる!』


『珍しい組み合わせだな』


 ジャスティスが続ける。


「実は、その村でちょっとした異変が起きているらしい!」


「だから今日は、その調査を始める!」


『異変?』


『魔物でも出たのか?』


『一年ぶりの村って何があったんだ?』


 ジャスティスは拳を握る。


「俺が昔泊まった場所だからな!」


「何か問題が起きているなら、俺自身の目で確かめたい!」


 ティニアが横から小声で言う。


「……自分で原因作ってるかもしれないけどね」


「聞こえてるぞ!」


『草』


『なんか不穏だなw』


『勇者、何したんだよ』


 ジャスティスは咳払いする。


「とにかく!」


「今日のゲストは――」


 マドカが手を上げる。


「マドカです」


 ティニアも手を上げる。


「ティニアだよ」


「この二人と一緒に、村の調査を始める!」


 ジャスティスがカメラに向かって宣言した。


「それじゃあ――行くぞ!」


 コメント欄が一気に流れた。


『いってらっしゃい!』


『村の異変って何だ?』


『勇者の昔話も聞きたい』


『マドカとティニアいるなら絶対面白いやつ』


『調査開始!』


 こうして――。


 一年前に三日だけ滞在した村で、何が起きたのか。


 勇者ジャスティスによる調査配信が始まった。


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