朝
翌朝。
昨夜遅くまで続いたお泊まり会の翌日。
エキドナの食堂には、昨日のお茶会に参加した令嬢たちが集まっていた。
テーブルには朝食が並び、エキドナのメンバーもそれぞれ席についている。
「おはようございますわ」
「おはよう」
プリエラが挨拶すると、マドカも笑って返す。
「よく眠れた?」
「ええ。とても」
「私も」
令嬢たちは昨夜のことを思い出して、楽しそうに話している。
「昨日は本当に楽しかったですわね」
「ええ。あんなに遅くまでお話しすることなんて、普段はありませんもの」
「ガブちゃんが途中からすごかったけどね」
マドカが言う。
「まあ!」
ガブリエルが笑う。
「楽しかったのですから、いいではありませんの!」
「うん。私も楽しかったよ」
「でしょう?」
朝食を食べながら、昨日話した内容を改めて振り返る。
「昨日はいろいろ聞けたわね」
リゼットが言う。
「髪飾り、アクセサリー、香水、服。母娘や姉妹で揃えるものも人気がありそうだったわ」
「そうですわね」
クリスティーナも頷く。
「それに、実際に欲しいという声を直接聞けたのは大きいですわ」
「抹茶のお菓子もすごかったね」
マドカが言う。
「まさか、販売時期まで聞かれるとは思わなかった」
「それは私も驚きましたわ!」
ガブリエルが笑う。
「でも、あれだけ喜んでいただけるなら、商品にする価値はありそうですわね」
「うん」
マドカは頷いた。
「じゃあ、朝ご飯が終わったら、昨日の話をまとめようか」
「そうね」
リゼットが答えた。
朝食が終わると、一行はそのまま応接室へ移動した。
今度は昨日のお茶会とは違う。
今日は、実際にエキドナとして何を作るのかを決めるための話し合いだった。
「まず、昨日聞いたものを全部作る必要はないわね」
リゼットが整理する。
「最初は種類を絞ったほうがいいでしょう」
「そうだね」
マドカも頷く。
「作れる人がそれぞれ考えて、まず試作品を作ってみるのがいいんじゃない?」
「私は服を考えるわ」
カトリーヌが言う。
「和の国の服をそのまま作るのではなく、こちらでも普段着として使える形にする。なんちゃって浴衣なら、一般向けにも出せそうね」
「それならエキドナ館でも扱えそうですわね」
クリスティーナが頷く。
「ええ」
カトリーヌも頷いた。
「高級品だけではなく、普段着として気軽に買えるものもあったほうがいいでしょう」
「髪関係は私がやるよ~」
ニコラが手を上げる。
「髪色を変えたり、髪型を変えたりするもの。あと、髪が薄くなった人向けのものも考える」
「昨日もかなり興味を持たれていましたわね」
プリエラが言う。
「ええ。あれは私も気になりましたわ」
「じゃあ、それも試してみよう」
マドカが言う。
「香水はヒナタにお願いするとして……」
「私も協力するわね」
クリスティーナが続ける。
「貴族の女性が使うものなら、香りや容器についてもある程度考えておいたほうがよさそうですわ」
「アクセサリーや髪飾りは俺かな」
グレタが言う。
「母娘とか姉妹で揃えるものも、いろいろ作れそうだな」
「和の国でも、そういうものはあります」
ナツメが頷く。
「家族で同じ意匠を使う場合でも、まったく同じにする必要はありません。色や模様を少し変えるだけでも、揃えている感じは出せますから」
「それなら使いやすそう」
マドカが言う。
「完全に同じだと、ちょっと恥ずかしい人もいるかもしれないし」
「そうですわね」
プリエラも頷く。
「さりげなく揃っているくらいのほうが、普段でも使いやすいと思いますわ」
「ナナリーは服のほうもお願いできる?」
「うん」
ナナリーが頷く。
「色欲の服をそのまま持ってくるんじゃなくて、こっちで着やすいように変えてみるよ」
「ゴスロリというものも?」
「うん。好きな人にはかなり好きだと思う」
「それなら、少量だけ作ってみるのも面白そうですわね」
リゼットが言う。
「最初から大量に作る必要はないでしょう」
「そうだね」
マドカも頷いた。
「エキドナって、別にいっぱい売らないと困るわけじゃないし」
「その通りですわ」
クリスティーナが微笑む。
「むしろ、今回のお店は一般向けのお店とは分けたほうがよいでしょうね」
「分ける?」
プリエラが聞く。
「ええ」
クリスティーナが説明する。
「エキドナの屋敷の近くに、貴族や裕福な方を対象にした店を作るのですわ」
「屋敷の近くに?」
「はい。エキドナの品を欲しいと思ってくださる方が、安心して買いに来られる場所として」
「なるほど」
プリエラが頷く。
「それなら、わざわざ街中の店へ行くよりも気軽に立ち寄れますわね」
「商品も、無理に数を増やす必要はありませんわ」
クリスティーナが続ける。
「品質を優先して、少量だけ作る。高価なものがあっても構いません」
「一般の人が買えるようなものは?」
マドカが聞く。
「そういうものはエキドナ館でいいんじゃないかな」
「ええ」
リゼットが頷いた。
「エキドナ館なら、今まで通り一般向けの商品を扱えるわね」
「じゃあ、新しいお店はお金持ち向け」
「そういうことですわ」
クリスティーナが微笑む。
「エキドナの商品を欲しいと思ってくださる方のための、少し特別なお店ですわね」
「いいと思う」
マドカも頷いた。
「そのほうが分かりやすいし」
「それなら、昨日の皆さんにも来ていただけますわね」
ガブリエルが嬉しそうに言う。
「もちろんですわ!」
「ガブちゃんは普通に遊びに来てもいいからね」
「まあ!」
ガブリエルが胸を張る。
「私はいつでも大歓迎ですわ!」
「いや、ガブちゃんはエキドナ側だから……」
マドカが苦笑する。
「そうでしたわ!」
部屋に笑い声が広がった。
話し合いは、その後もしばらく続いた。
高級店で扱うもの。
エキドナ館で扱うもの。
試作品を作るもの。
今後考えるもの。
それぞれを整理していく。
「あと、昨日来てくれた皆さんには」
マドカがプリエラたちを見る。
「試供品ができたら、渡したいね」
「まあ!」
令嬢たちの表情が明るくなる。
「本当ですの?」
「うん。実際に使ってもらったほうが、感想も聞けるし」
「それはぜひお願いしたいですわ!」
「私も楽しみですわね」
「完成するのが待ち遠しいですわ」
プリエラも嬉しそうに頷く。
「では、試作品ができたら皆さんにお渡ししますわね」
クリスティーナが微笑む。
「正式な商品にする前に、実際に使っていただいて、ご意見を聞かせていただければと思います」
「はい!」
令嬢たちは嬉しそうに返事をした。
話し合いが一段落すると、マドカが立ち上がった。
「じゃあ、せっかくだしエキドナ館も見ていく?」
「エキドナ館?」
プリエラが聞き返す。
「うん。まだ見てないでしょ?」
「ええ」
「いろいろ売ってるから、見てみたら面白いと思うよ」
「ぜひお願いしますわ!」
令嬢たちは興味津々だった。
こうして一行は、エキドナ館へ向かった。
店内には、普段から販売されている様々な商品が並んでいる。
「まあ……!」
「こんなものまで売っていますの?」
「これ、何に使うんですの?」
令嬢たちが次々と商品を見ていく。
マドカはその様子を眺めながら、時々質問に答えていった。
「それは普通に使うものだよ」
「こっちはお菓子」
「それはアクセサリー」
「まあ、本当にいろいろありますのね」
プリエラも楽しそうに店内を見て回る。
「エキドナには、こんなにたくさんの商品がありますのね」
「うん」
マドカは頷いた。
「だから、昨日話した商品も少しずつ増やしていけばいいと思う」
「楽しみですわ」
プリエラが笑う。
「私も、試供品ができるのを楽しみにしております」
「うん」
マドカも笑った。
しばらくエキドナ館を見て回ったあと。
令嬢たちは帰る時間になった。
「今日は本当にありがとうございました」
プリエラが頭を下げる。
「こちらこそ。泊まりに来てくれてありがとう」
マドカが笑う。
「また遊びに来てくださいね」
クリスティーナも優しく声をかける。
「はい!」
「次は新しい商品も見られるんですのね」
「試供品ができたら連絡しますわ」
リゼットが答える。
「楽しみにしていますわ!」
ガブリエルも手を振る。
「またお茶会しましょう!」
「ええ!」
令嬢たちも笑顔で手を振り返す。
やがて彼女たちを乗せた馬車が、エキドナの屋敷を離れていく。
「……楽しかったね」
マドカがその後ろ姿を見ながら呟く。
「ええ」
クリスティーナが頷く。
「良いお友達ができましたね、マドカちゃん」
「うん」
マドカは少しだけ笑った。
そして――
「さて」
リゼットが振り返る。
「これから本当に商品を作らないといけないわね」
「そうだね」
マドカも頷く。
「結構いろいろ考えることになりそう」
エキドナの新しい女性向け商品。
そして、それを扱う新しい店。
まだ準備は始まったばかりだった。




