三日目
体験入学も三日目になった。
この日の授業で、マドカたちは少し変わった実技を行うことになっていた。
「今日の実技では、ヒロバトを使用します」
教師がそう告げると、教室のあちこちから声が上がった。
「ヒロバト?」
「実戦形式の訓練だよ」
「騎士団が使っている戦闘データも入っているらしい」
マドカはその話を聞きながら、少しだけ首を傾げた。
ヒロバト。
エキドナでも使われている、戦闘訓練も可能にするデバイスだ。
学校で使うものなら、それほど難しい内容ではないのだろう。
実技場へ移動すると、生徒たちは順番に装置の前へ立っていく。
「今回の課題は、指定された戦闘データを相手にした模擬戦です。制限時間内にどこまで対応できるかを確認します」
生徒たちが順番に挑戦していく。
相手として表示されるのは、王国騎士団の戦闘データだった。
「うわ……騎士団の人じゃん」
「これ、結構強いんじゃない?」
「学校の実技で使う相手としては厳しくない?」
そんな声が聞こえる。
マドカは表示された人物を見て、目を瞬かせた。
「あ」
「どうしましたの?」
隣にいたプリエラが聞く。
「この人、知ってる」
「え?」
「前に戦ったことがある」
マドカは画面を見ながら、少し懐かしそうに言った。
「たしか、王国の騎士団長さんだったと思う」
「……」
プリエラが固まった。
「あなた……騎士団長と戦ったことがありますの?」
「うん」
「……」
「結構強い人だったよ」
「そういう問題ではありませんわ」
プリエラの声が少しだけ低くなる。
しかし、マドカはそれ以上気にせず、自分の順番を待った。
「次、マドカ・ノイティス」
「はい」
名前を呼ばれ、マドカが前へ出る。
装置が起動する。
目の前に騎士の姿が現れた。
武器を構え、一定の距離を保つ。
「開始」
合図と同時に、騎士が踏み込んだ。
マドカも動く。
一歩。
二歩。
相手の剣が振り下ろされる。
マドカはそれを横へ流し、そのまま懐へ入った。
「え?」
周囲から声が漏れる。
学校で習う剣術とは違う。
構えも、足の運びも、攻撃のタイミングも。
きれいな型ではない。
けれど、相手の攻撃を避け、次の動きへ繋げることだけを考えた動きだった。
騎士の剣が再び迫る。
マドカは半歩下がる。
剣先が目の前を通り過ぎた瞬間、踏み込む。
一撃。
騎士の体勢が崩れる。
そこへもう一度、攻撃。
模擬戦の判定が表示された。
――勝利。
「……」
実技場が静かになった。
マドカは装置から離れる。
「終わったよ」
教師が少し驚いた顔をしていた。
「……ずいぶん早かったですね」
「そう?」
「はい。学校で教えている剣術とは、かなり違う動きでしたが……」
「ああ」
マドカは少し考える。
「私、学校の剣術はあんまり知らないから」
「……なるほど」
教師はそれ以上聞かなかった。
後ろでは、生徒たちが小声で話している。
「本当に倒した……」
「しかも、ほとんど動かなかったよね」
「配信で見たことあるけど、あんな感じだったっけ?」
マドカはそんな声を聞きながら、少しだけ困った顔をした。
「……そんなに変だった?」
するとプリエラが答えた。
「変というより……」
プリエラは少し言葉を探した。
「学校で習う剣術とは、まるで別物でしたわ」
「そうなんだ」
「でも……」
プリエラは模擬戦の結果をもう一度見る。
「実際に戦うことを考えれば、理にかなっているようにも見えますわね」
「うん。私もそのほうがやりやすいから」
マドカはそれだけ言って、次の生徒のために場所を空けた。
その後も実技は続いた。
走力。
跳躍。
反応速度。
どれもマドカにとっては、それほど難しいものではなかった。
ただ、魔法だけは別だった。
「……やっぱり魔法は苦手だね」
測定結果を見ながら、マドカが呟く。
昨日の魔法実技でプリエラに大きく差をつけられたことも、まだ覚えている。
「でも、別に困ってないからいいかな」
マドカはそう言って笑った。
その様子を、プリエラは少し離れたところから見ていた。
魔法では自分のほうが明らかに上。
けれど、剣術や身体能力では、まるで話にならないほど差がある。
そして本人は、それを特別なことだと思っていない。
「……本当に、変な方ですわね」
プリエラが小さく呟く。
昨日とは少し違う意味の言葉だった。
実技試験が一通り終わったところで、教師が生徒たちに声をかけた。
「今日はここまでです。明日は通常授業の確認と、体験入学についての簡単な面談を行います」
「明日で終わりなんだ」
マドカが呟く。
三日間だけの体験入学。
最初は長いと思っていた。
けれど、実際に来てみると、思っていたよりあっという間だった。
教室で話した生徒たち。
妙にキラキラしていたラファエル。
そして、プリエラ。
学校に来る前には知らなかった人たちと、少しずつ話すようになった。
「……まあ、来てよかったかな」
マドカはそう呟いて、教室へ戻っていった。




