お母さん 勇者に勘違いされる
翌朝。
昨日の見学会で一日中歩き回ったジャスティスは、少し遅めに食堂へやってきた。
そこでは、すでにマドカが朝食を取っていた。
その隣にはセシリア。
セシリアはジャスティスに声をかけることもなく、マドカの食事を整えたり、飲み物を用意したりしている。
「んー……これおいしい」
「よかったですね、マドカ様」
「うん」
そんな二人の様子を横目に見ながら、ジャスティスも席につく。
昨日一日でエキドナのことをかなり知ったつもりだったが、こうして見るとやっぱり普通のデカイ家とは雰囲気が違う。
しばらくすると、一人の女性が食堂へ入ってきた。
「おはようございます、マドカ」
「おはよう!」
「おはようございます」
セシリアも軽く頭を下げる。
クリスティーナだった。
「あら」
クリスティーナはジャスティスに気づく。
「あなたがジャスティスさん?」
「あ、はい」
「マドカちゃんから聞いていますわ。マドカちゃんをよろしくお願いしますね」
「こちらこそ」
ジャスティスは立ち上がり、軽く頭を下げる。
そしてクリスティーナを見て――
「あ」
少しだけ首を傾げた。
「……マドカのお姉さんですか?」
「…………」
セシリアの手が一瞬止まった。
だが、何も言わない。
ただ、口元がほんの少し緩んでいる。
「まあ」
クリスティーナは目を丸くした。
「お姉さんに見えました?」
「ええ。普通に二十代くらいに見えたので」
「まあまあ……」
クリスティーナは嬉しそうに微笑んだ。
「そうですか」
「うん。いや、てっきり……」
ジャスティスは普通にそう思っただけだった。
クリスティーナは少し嬉しそうに席につく。
「それなら、今日は少し機嫌がよくなってしまいそうですわね」
「お母さんはいつもきれいだもん!」
マドカが即座に言う。
「まあ、マドカちゃんったら」
「本当だよ?」
「ふふ……ありがとう」
クリスティーナが嬉しそうにマドカの頭を撫でる。
その様子を見て、ジャスティスは微笑んだ。
――と。
食堂の入口から、少し慌てた声が聞こえた。
「悪い、遅れた!」
ルーデウスだった。
「お兄ちゃん、おはよう」
「おはよう、マドカ」
ルーデウスは席へ向かいながら、ジャスティスを見る。
「……誰だ?」
「昨日の勇者くん」
マドカが答える。
「ジャスティスさんですわ」
クリスティーナが補足する。
「そうか」
ルーデウスはジャスティスをじっと見る。
「……」
「……」
数秒。
「マドカ」
「ん?」
「こいつは大丈夫なやつなのか?」
「んー……」
マドカもジャスティスを見る。
「ハーレム野郎ではないね」
「おい」
「なんかまだっぽいし」
「おい! 女の子がそういうことを言うんじゃない!」
「だって」
「だってじゃない!」
クリスティーナが楽しそうに笑う。
「あらあら。二人とも、ジャスティスさんは私のことよく知らなかっただけらしいですよ?」
「知らなかった?」
ルーデウスが首を傾げる。
「何を?」
「それにしても」
クリスティーナが少し頬に手を当てる。
「私って、そんなに若く見えるのかしらね」
「お母さんはいつもきれいだもん!」
「ふふ。マドカは本当にお母さん思いですね」
「当然だよ」
マドカは胸を張る。
「お前の兄貴もスペック高そうだし、マジ羨ましいな」
ジャスティスが何気なく言った。
「んー」
マドカは少し考える。
「お兄ちゃんは弱いね」
「おい」
「過去動画見たら?」
「マドカ! 余計なことは言わなくていいんだよ!」
「ふふふ」
クリスティーナが楽しそうに笑う。
「もう仲良くなったみたいで、お母さん嬉しいですわ」
「いや、仲良くなったっていうか……」
ジャスティスは苦笑する。
ルーデウスはため息をついた。
「まあ、いい」
そして改めてジャスティスに向き直る。
「俺はマドカの兄、ルーデウスだ。よろしく頼む」
「ああ、よろしく」
ルーデウスは続けて、母親を示した。
「こちらは母のクリスティーナ公爵夫人だ」
「…………」
ジャスティスが固まった。
「……あー……」
ゆっくりとクリスティーナを見る。
それからマドカを見る。
「……そうか……」
「何が?」
「マドカって、公爵令嬢だった……」
「今さら?」
「いや、だって……」
ジャスティスは頭を抱えた。
「俺、さっき普通にお母さんをお姉さん扱いしたけど……」
「うん」
「不敬罪とかになります?」
「ぶふっ」
セシリアが吹き出した。
「……っ、ふふ……!」
今まで黙っていたセシリアが、とうとう耐えきれなくなった。
「セシリアさん!?」
「す、すみません……ふふっ……」
クリスティーナも笑っている。
「大丈夫ですわ。ジャスティスさんは何も知らなかったのでしょう?」
「……本当ですか?」
「ええ。それに――」
クリスティーナは少し嬉しそうに微笑んだ。
「お姉さんに見えたと言っていただけましたし」
「……」
ジャスティスは複雑そうな顔をする。
「……それなら、よかったです」
「ふふ」
マドカはそんな母親を見ながら、嬉しそうに笑った。
そしてセシリアは、また何事もなかったかのようにマドカの朝食の世話へ戻っていった。




