勇者 エキドナと契約する
その後、俺はエキドナとこれからのことについて話をすることになった。
といっても、何か難しい契約書を交わすわけじゃない。
「まず、勇者君が困ったことがあったら、ちゃんと相談すること」
マドカがそう言った。
「俺はそんなに危なっかしくないぞ?」
「いや、放っておいたら死んでそうだし」
「だからなんでだよ!」
どうやら俺は、エキドナの中では相当信用されていないらしい。
……いや、信用されていないというより、心配されているのか?
「まあ、それはともかく。エキドナとしても、勇者君にはいろいろ協力してもらいたいかな」
「俺にできることならいいぞ」
「うん。特に地球のこと」
マドカがそう言う。
「勇者君が思い出したこととか、地球にあったもので『これ使えるんじゃないか?』って思ったものがあったら、教えてほしいの」
「それをエキドナで使ってもいいってことか?」
「そうそう」
「……売ったりしても?」
「もちろん」
そこで、別のエキドナの人が話を続ける。
「もし勇者君のアイデアを使って何か商品を作った場合は、内容に応じて売り上げの一部を勇者君にも渡すよ」
「マジか!?」
思わず身を乗り出した。
「うん。ちゃんとそこは決めておく。何でもかんでもってわけじゃないけど、勇者君が出したアイデアが商売になったなら、その分はきちんと還元する」
「マジか……!」
これはいい。
俺が覚えている日本の知識が、この世界で役に立つ。
しかも、それで金まで稼げる。
「俺、もっと思い出すわ」
「急にやる気出したね」
「そりゃ出るだろ!」
マドカが笑った。
「まあ、そんな感じで。あともう一つ」
「なんだ?」
「私たちが地球関係者だってことは、エキドナの関係者以外には話さないでね」
「ああ、それは分かってる」
俺自身が日本にいた記憶を持っていることについては、もう配信で話してしまった。
だが、マドカたちまで巻き込むつもりはない。
「俺のことは俺が勝手に話したけど、お前たちのことまで言いふらしたりはしない」
「それならいいよ」
「それと、必要経費があったら請求してくれれば支給するから」
「おう」
「エキドナの男子寮も、宿代わりに使っていいよ」
「いいのか?」
「うん。旅に出るまでなら、好きに使っていい」
「助かるな」
「ただし」
マドカが少しだけ真面目な顔になる。
「ツケで買うのは禁止ね」
「…………」
「勇者君?」
「いや、まだ何もしてないぞ」
「今の間が怪しいんだよ」
「ちゃんと請求するって!」
なんだか、契約というより注意事項の確認みたいになってきた。
「まあ、こんなところかな」
「そうだな」
俺は頷いた。
正式な契約書があるわけでもない。
細かい規則が山ほどあるわけでもない。
困ったら相談する。
地球の知識で役に立ちそうなものがあれば教える。
それをエキドナが使うなら、ちゃんと俺にも利益を返してくれる。
そして、こいつらが地球から来たことは、外には話さない。
それだけだ。
「じゃあ、これからよろしくな」
「うん。よろしく、勇者君」
こうして俺は、エキドナとゆるい協力関係を結ぶことになった。




