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落内円は落ちている  作者: 七風


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転生者達

エキドナの屋敷。


ジャスティスがマドカたちの前に立っていた。


「おい! お前、何のつもりだ!」


開口一番、ジャスティスが声を上げる。


「あら?」


ガブリエルが首を傾げた。


「今日はなんか、いつもと違いますわね?」


「この間お会いした時は――」


ガブリエルはジャスティスの顔を見ながら、楽しそうに言う。


「『俺の腕がささやいている……貴様が本気を出すべき相手だとな』とか言ってましたわよね?」


「…………」


「その後も『風が吹いている……今は、その時ではないな……』とか!」


「…………」


ジャスティスの顔が固まる。


その隣では、マドカ、ナナリー、ヒナタの三人が必死に肩を震わせていた。


「……中二病じゃん」


マドカが小声で呟く。


「ぷっ……」


ナナリーも口元を押さえる。


「ふふ……」


ヒナタも笑いを堪えている。


「お前ら笑うな!」


ジャスティスが叫ぶ。


「いや、だって……」


マドカが笑いながら顔を上げる。


「やっぱりこの方でしたのね!」


ガブリエルが嬉しそうにマドカを見る。


「村人が勇者様のようなセリフを日常的に使ってましたわ!」


「マジかよ……」


ジャスティスが頭を抱える。


「俺の知らないところで何やってんだよ……」


「でも、やっぱりジャスティス君なんだね」


マドカが改めてジャスティスを見る。


「うん。前の配信で確信したんだけど――」


マドカは少し笑う。


「勇者君が転生者だってのは、もう分かってるよ」


「……!」


ジャスティスの表情が変わる。


「お前……やっぱりそうなのか」


「うん」


マドカが頷く。


「私たちもなんだよね」


マドカの言葉に、隣のナナリーとヒナタも頷いた。


「初めまして、勇者様」


マドカが改めて名乗る。


「マドカ・ノイティス。このエキドナって組織の創立メンバーで、公爵令嬢だよ!」


「よろしくね!」


「ナナリーです」


ナナリーが続ける。


「色欲の国の聖女をしてます。今は怠惰の国と行き来しながら、アイドルグループのトライアングルをしています」


「よろしくお願いしますねー」


「私はヒナタです」


ヒナタも軽く手を上げる。


「えーっと、私は転生者じゃなくて、日本人の転移事故の被害者ですね」


「転移事故?」


ジャスティスが首を傾げる。


「はい。こっちに来た時から不老になってるので、体は十四歳のままですー」


「エキドナでは農業をしたり、ポーションを作ったりしてますよー」


「……なるほど」


ジャスティスは三人を順番に見る。


「お前たちも、この世界に選ばれたのか」


「……」


三人が一瞬、顔を見合わせる。


「まあ……そういう言い方もできるのかな?」


マドカが苦笑する。


「俺はジャスティス」


ジャスティスが胸を張る。


「よろしく頼む」


「えーっと……」


マドカが少し考える。


「ジャスティスって、正義って意味で合ってるよね?」


「ああ!」


「この世界で名付けられたの?」


「そうだ!」


ジャスティスが力強く頷いた。


「俺は正義に生きる者!」


「今世もジャスティス!」


「そして――」


ジャスティスが右手を掲げる。


「前世は『正義』と書いてジャスティスという読みだ!」


「わぁあー……」


マドカ、ナナリー、ヒナタの三人から、何とも言えない声が漏れた。


「……」


「……」


「……」


三人とも、完全に理解した。


――この人、強いけど。


――たぶん、かなり面白い人だ。


「それで……」


ジャスティスが三人を見る。


「なんで俺を呼んだ?」


「え?」


マドカが首を傾げる。


「特に何もないんだけど」


「……は?」


「ちょっと気になっただけ」


「それだけ!?」


ジャスティスが目を見開く。


「だって、和の国って呼ばれてる国に行った時にも、地球っぽい人? 妖怪? みたいなのがいたしさー」


「妖怪?」


ジャスティスの表情が変わる。


「悪い奴なのか?」


「いや、あれはなんだろう?」


マドカが少し考える。


「神獣?」


「神獣?」


「九尾の狐だったっぽいよ?」


「九尾の狐!?」


ジャスティスが勢いよく立ち上がった。


「大妖怪じゃねぇか!」


「え?」


「白面の者か!?」


「んー……」


マドカは首を傾げる。


「あそこまで邪悪ではなかったかなぁ」


「じゃあ何だよ!?」


「守り神みたいな感じだったよ」


「……」


ジャスティスが固まる。


「九尾が……守り神……?」


「うん」


「そんな世界なのか、ここは……」


ジャスティスが頭を抱える。


「獣の槍、私持ってないし」


マドカが平然と言う。


「守り神みたいなのだから、攻撃したら私捕まっちゃうよ」


「いや、そりゃそうだろ!」


「悪いことをしていないならいい」


ジャスティスは少し落ち着きを取り戻す。


「ただ……」


ジャスティスは周囲を見回す。


「この世界はなんなんだ!」


「七つの大罪が善神みたいな扱いだし、地球と真逆なんだよ!」


「まぁ、それは思いますね」


ナナリーが頷く。


「私の国、色欲は歌や踊りなんかが聖女の審査基準でしたしまるでタレント事務所みたいな教会でしたもの」


「だよね!」


マドカも頷く。


「怠惰の国教も、怠けるってのじゃなくて、のんびりって感じだもんね!」


「……お前ら、よくそんな世界で普通に暮らせるな……」


「慣れたら普通だよ?」


「それが一番怖いんだよ!」


ジャスティスの叫びが、エキドナの屋敷に響いた。


「それよりだ!お前らは、この世界で何か目的はあるのか?」


「目的?」


「そうだ。なんか地球のことを知ってほしいみたいなものもあったが……」


「このモンバトだってそうだ!」


ジャスティスが力説する。


「ほぼポケOンじゃねぇか!」


「ああ、それ?イメージして作ったし」


「やっぱりそうなのかよ!」


「私、ゲーマーだったんだよねー」


「……」


ジャスティスがマドカを見る。


「お前……」


「ん?」


「もしかして、かなり地球の知識を広めてるのか?」


「まあ、色々とね」


マドカは少し考えてから、何でもないことのように続けた。


「私、ナナリーの前世の配信ばっか見てたら大学落ちたんだよね!」


「……は?」


ナナリーがピクリと反応する。


「そして、なんか穴に落ちたら、この世界の九歳児で覚醒しちゃってさー」


「…………」


ジャスティスが完全に黙る。


マドカは楽しそうに笑った。


「落内円って名前なのに落ちてるし、ウケるよね!」


「マドカちゃん、それ笑えないよ!」


ナナリーが即座にツッコむ。


「そうですよ!」


ヒナタも苦笑する。


「大学落ちて、穴に落ちて、異世界に来てるじゃないですか!」


「落ちすぎでしょ……」


ジャスティスが呟く。


「しかも九歳児で覚醒って……」


「でしょ?」


「褒めてねぇよ!」


「ふふっ」


ナナリーが笑う。


「でも、マドカちゃんらしいですよねー」


「どこが!?」


「全部です」


「ひどい!」


マドカが頬を膨らませる。


ジャスティスは三人を見ながら、深いため息をついた。


「……俺、もっと真面目な話を聞こうと思ってたんだけどな」


「目的ならあるよ?」


マドカが笑顔で答える。


「面白いものを作ったり、遊んだり、色々な文化をこの世界に持ってきたり!」


「あと、ナナリーと一緒に配信したりねー」


ナナリーが笑顔で頷く。


「私はこの世界で普通に楽しく暮らせれば、それでいいかなぁ」


ヒナタも穏やかに笑う。


「私は農業とか料理とか、地球の知識をこっちで役立てられれば十分です」


「……」


ジャスティスは少し考える。


「なるほどな」


「お前ら、世界を変えようとか、地球に帰ろうとか、そういうのじゃないんだな」


「帰れるなら帰ってみたいけどねー。でも、今はこっちの生活も楽しいし!」


「……そうか」


ジャスティスは少しだけ笑った。


「それなら、それも悪くないのかもな」


「私は前世では、VTuberでした」


ナナリーがにこっと笑う。


「にゃにゃこちゃんって名前の」


「マジか!知ってるわ!」


「えっ?」


ナナリーの目が輝く。


「勇者さんにも知られてたんだ。ちょっとうれしいな!」


「そりゃ知ってるだろ!」


「それで、転生して十六歳の時に覚醒して、色欲で路上ライブしてたらスカウトされて聖女にされたかな」


「そこから怠惰に来たんだよね!その時、にゃにゃこちゃん時代の歌を日本語で歌ってくれててさー」


「声も同じだけど、顔だけ違う!でも動きもキレッキレで!」


マドカが当時を思い出すように笑う。


「あ、にゃにゃこちゃんだぁ……ってさ!すっごいうれしくて!」


「それで、マドカちゃんが転生者っぽい動きをしてたから気になって、会いに来たんだよ!」


ナナリーも嬉しそうに笑う。


「いやー、うれしいよね!前世の推しに、この世界で出会えるなんてさ!」


「……そうか」


ジャスティスが少し笑う。


「よかったな……」


「はい!」


ナナリーが嬉しそうに頷いた。


「私は、ちょっと特殊なんですよ」


ヒナタが苦笑する。


「私がこの世界に来たのは、多分……千九百年くらい前なんです」


「は!?」


ジャスティスが目を見開く。


「千九百年!?」


「それがですね」


ヒナタは淡々と話を続ける。


「実家丸ごと、私だけ転移されちゃって私の実家、陰陽師の家系なんでまぁ、そんなこともあるのかなって」


「いや、ねぇよ!」


ジャスティスが即座にツッコむ。


「その後、ダンジョンに大きな町を作ってるって噂を聞いて、そこに合流したわけですよ」


「結構ハードだな……」


「その後、五十年くらいたっても、ずっとそのままの体だし」


「隠れながら生きてて、その間に薬師とかしてましたねー」


「……不老って、つらいのか?」


ジャスティスが聞く。


「んー。まぁ、その後が大変だったかなー」


「私って時間系統のスキル持ってて、ダンジョンの中に、国家間の転移装置が作られてた時代があったわけですよ。そこを使って、他国が侵略してきた時がありまして」


「本当か!?やばいじゃん!」


「その時に、スリーピア王家の前身の人たちに、時間停止をずっとするように言われて装置に封印されて――」


ヒナタはさらっと続ける。


「そのまま千八百年、誰も来ませんでしたね。マドカ達が見つけてくれて解放されましたね。」


「おまえだけ、すごい重いんだが……」


「そう?」


「そうだよ!」


そこへ、ガブリエルが申し訳なさそうに口を挟む。


「まぁ……私、知りませんでしたわ……」


「ヒナタ、すみませんですの!」


「あはは」


ヒナタは笑う。


「ガブちゃんの時代の人には関係ないから、気にしないでね」


「……」


ジャスティスは三人を順番に見る。


「なんか……」


「お前だけ難易度ハードモードなんだが……」


「そうですねー」


ヒナタはいつもの調子で笑った。


「さて……それで、俺らはこれからどう動くべきだ?」


「どうって?」


マドカが首を傾げる。


「魔王とか、いるのか?俺は、俺にできるような悪者しか退治はできなかったが……一応、鍛え続けた!そしてAランクまで頑張った!」


「おおー!すごいじゃん!」


「だろう?だから、もしこの世界に魔王みたいな存在がいるなら、俺も戦うべきなのかと思ってな」


「んー……」


マドカが考える。


「魔王っているの?」


「聞いたことないですわねー」


ナナリーも首を傾げる。


「明確な危険な存在というと……」


少し考えてから、ナナリーが口を開いた。


「ゼウス教が、ちょっと怪しいかもですね」


「ゼウス教ですの?あの?」


「どんな人達なの?」


ジャスティスも身を乗り出す。


「えーっと……」


ナナリーは少し言葉を選ぶ。


「すっごく正義に執着するっていうか……なんか、行き過ぎた人達ですかね」


「正義に?」


ジャスティスが眉をひそめる。


「はい。私からすると、まるでカルト宗教のような……」


「カルト宗教!?」


ジャスティスの目が輝いた。


「なるほど!」


「おい、なんで嬉しそうなの……」


マドカが呆れた顔をする。


「いや!勇者と言えば、やっぱり悪の組織だろう!」


「だから魔王はいないって」


「ならば、正義を掲げる怪しい宗教!」


「それもまだ怪しいってだけだよ?」


マドカがツッコむ。


「……」


ジャスティスがゆっくり座り直す。


「そうか。まずは情報収集だな」


「うん」


「それなら俺にもできる!ゼウス教について調べよう」


「なんか勇者っぽくなってきたね」


マドカが笑う。


「だろう?俺は正義に生きる男だからな!」


「そこは普通にカッコいいんだけどなぁ……」


マドカが小さく呟いた。


「明確に悪い事してるというのかはわからないですけど……例えば、何か悪いことをしてるなら殺すべき! そんな奴はこの世界にはいらない! 天に返すべきだ! 犯罪? する奴は死刑だ! 盗み? 手を切り落とせばできないだろう? みたいな」


「こわっ・・・・・・なにそれ・・・・」


マドカが思わず引く。


「ちょっとそういう行き過ぎた人達が各地で問題を起こして、この世界では異端な宗教って言われているようですね」


「そうですわね。実際、わたくしも聞いたことがありますわ」


ガブリエルが頷く。


「犯罪者を庇った者まで共犯として処罰しようとしたり、犯罪を見かけても通報しなかった者を『悪を見逃した』として罰しようとしたり……」


「うわぁ……」


「一度罪を犯した者は、反省していても信用してはいけない。そんな者を雇う者も悪に手を貸している……などと言って、周囲の人まで巻き込んでしまうこともあるそうですわ」


「それもう正義っていうか……なんでもありじゃん」


マドカが呆れたように言う。


「ええ。ですから各国とも警戒しておりますの。わたくしの国でも、ゼウス教は邪教として認定されていますわ」


「邪教……」


ジャスティスがその言葉を繰り返す。


「ただ、教えの中には『悪を許すな』『罪を見逃すな』というものもありますから、そこだけを聞けば正義そのものに聞こえてしまうんですの」


ガブリエルが少し困ったように付け加える。


「問題は……その正義を実行するためなら、何をしても許されると思ってしまうところですわね」


「一応、ゴールでも警戒した方がいいかもね! 勇者君は名前がジャスティスだから、余計気を付けた方がいいかも」


「マジかー……勇者って名乗るの、そういうの引き付けるのか?」


ジャスティスが少し困ったように頭を掻く。


「そもそも、何で勇者なんて名乗ってるんですの?」


ガブリエルが不思議そうに尋ねる。


「ふ……」


ジャスティスは一瞬だけ間を置くと、胸を張って答えた。


「かっこいいからだ!」


「…………」


「…………」


「…………」


その場にいた全員が無言になる。


「そこなんですの!?」


ガブリエルが思わず突っ込んだ。


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