配信 寒中水泳
「お兄ちゃん」
マドカがルーデウスに声をかける。
「ん?」
「そういえばさ」
「うん」
「最近、お兄ちゃんのかっこ悪いところしか見てない気がする」
「……」
ルーデウスの動きが止まった。
「え?」
「配信中に転んだり」
「……」
「変なところで驚いたり」
「……」
「あと、この前も――」
「もういい」
ルーデウスが顔を覆う。
「十分だ……」
マドカは首を傾げる。
「でもね!」
「?」
「もうすぐ、和の国で男の人たちの度胸試しみたいな名物行事があるんだって!」
ルーデウスの目が変わった。
「……ほう」
「男の人たちが参加するんだって」
「なるほど」
「みんなで参加するらしいよ」
「……」
ルーデウスが腕を組む。
「マドカ」
「なに?」
「それ、俺も参加しよう」
「いいの?」
「もちろんだ」
ルーデウスは立ち上がった。
「ここで兄として、妹にいいところを見せてやろうじゃないか!」
「おお!」
マドカが嬉しそうに拍手する。
「頑張って、お兄ちゃん!」
「ああ!」
その様子を少し離れたところから見ていたナナリーが、ぽつりと言った。
「……ちなみに、その度胸試しって何をするんですか?」
マドカが首を横に振る。
「私も詳しく知らない!」
「ルーデウスさんも?」
「うん!」
「……」
ナナリーはルーデウスを見る。
本人は完全にやる気になっている。
「まあ……本人が参加するなら、当日のお楽しみですね」
「うん!」
ルーデウスは拳を握る。
「待っていろ、マドカ!」
「うん!」
「必ず兄の威厳を取り戻してみせる!」
その頃。
ムサシはすでに参加を決めていた。
「今年もやるのか! 楽しみだな!」
ガイルは嫌そうな顔をしている。
「……なんで俺まで」
ビアンチは何も知らずに参加者名簿に名前を書いていた。
そしてアーノルドは、いつものように黙っている。
誰もルーデウスには詳しい内容を教えなかった。
――当日までのお楽しみ。
ルーデウスだけが、勝手に壮大な試練を想像していた。
当日。
和の国の名物行事ということもあり、エキドナでは特別に配信を行うことになった。
「みんなー! 今日は和の国の名物行事、男たちの度胸試しを見ていきまーす!」
マドカはEVを手に、女性陣と一緒に配信を見ていた。
『男たちの度胸試しって何するんだ?』
『初めて見る』
『和の国の恒例行事らしいぞ』
カメラが参加者たちを映す。
ムサシ。
ガイル。
ビアンチ。
アーノルド。
そしてルーデウス。
全員、異世界版のスパッツのような水着姿だ。
「お兄ちゃん、頑張ってー!」
マドカが手を振る。
ルーデウスもこちらに気づき、手を振り返した。
そして――
合図とともに、男たちが一斉に水へ飛び込んだ。
「おおっ!」
マドカが身を乗り出す。
カメラが先頭を追う。
その中にルーデウスの姿があった。
「……え?」
マドカが目を丸くする。
「お兄ちゃん、速くない?」
ナナリーもEVを見る。
「本当ですね……」
アリシアも驚く。
「かなり速いです」
コメント欄も一気に流れ始めた。
『ルーデウス様速っ!』
『え、こんなに泳げるの!?』
『めちゃくちゃ速いじゃん!』
『かっこいい!』
『いつもと印象違う!』
『ルーデウス様かっこいい!』
「お兄ちゃん、すごいじゃん!」
マドカが嬉しそうに笑う。
その頃、映像の中ではムサシが楽しそうに泳いでいる。
アーノルドは見事な筋肉を見せながら力強く進み、ガイルは明らかに嫌そうな顔をしながら泳いでいる。
そしてビアンチ。
「……あれ?」
マドカが眉をひそめる。
「ビアンチ沈んでない?」
映像の中で、ビアンチが水面から顔を出す。
「た、助けて……!」
『ビアンチさん!?』
『泳げないのかよ!』
『誰か助けて!』
すぐに係員が助けに入る。
「大丈夫かな……」
ナナリーが心配そうに見つめる。
その横で、マドカは再びルーデウスを見る。
「それにしても、お兄ちゃん速いなぁ」
女性コメントはさらに増えていた。
『ルーデウス様、今日めちゃくちゃかっこいい』
『こういうところもっと見たい』
『普段とのギャップがすごい』
『これは惚れる』
マドカはコメント欄を見て、にこっと笑った。
「ふふっ」
「お兄ちゃん、今日はかっこいいって言われてるよ!」
その声がEV越しに届いたのか。
ルーデウスが一瞬だけこちらを見る。
そして、少しだけ得意げな顔をした。
「……!」
マドカが笑う。
「嬉しそう!」
ナナリーも笑った。
「よかったですね、お兄さん」
男たちの度胸試しは、まだ続いている。
だが今日ばかりは――
ルーデウスの株が、かなり上がっていた。




