↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落内円は落ちている  作者: 七風


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
36/529

俺達必要か?

第八階層。


 巨大な扉を抜けた先には、これまでの狭い通路とはまるで違う、広大な空間が広がっていた。天井は遥か高く、視線を上げてもその先は暗闇に覆われている。壁には青白い鉱石が無数に埋め込まれ、床には薄い霧が漂っていた。


「……広い」


 マドカが思わず呟く。


「綺麗……」


 セリナも周囲を見渡した。


「ダンジョンって、こんな場所もあるんだね」


「ちょっと観光したい」


「ここ、観光地じゃないわよ」


 リゼットが即座に返す。


「でも綺麗だよ?」


「……否定はしないけど」


 そう言いながらも、リゼットはどこか懐かしむように周囲を見渡していた。


     ◆


 その時。


 遠くから、ズシン、と地面を揺らす音が響いた。


「……来るぞ」


 ガレスが剣を抜く。


 霧の向こうから、次々と影が現れた。一体、二体、十体……やがて二十体近い魔物が姿を現す。


「多い!」


 セリナが声を上げる。


 巨大な狼に、鎧をまとった骸骨。翼の生えたトカゲや炎をまとった猿、さらには巨大な虫までいる。種類も大きさも様々で、どの魔物も明らかにこちらを狙っていた。


「この数は……」


 クロードが顔を引きつらせる。


「全員、戦闘態勢!」


 ガレスの号令に、《銀翼の黎明》が一斉に動いた。


 セリナが弓を構え、クロードが短剣を抜く。ヴァルトは大盾を構え、ガレスも大剣を握り直した。


 マドカも木剣を手に取る。


「私もやる!」


「待って」


 セリナが止めた。


「今回は私たちが――」


「大丈夫」


 マドカが笑う。


「これくらいなら、ちょっと試したいことがあるの」


「……?」


 リゼットが目を細める。


「時間停止ね」


「うん」


「なら、好きにしなさい」


「やった!」


 マドカが嬉しそうに手を上げる。


「じゃあ――」


 パチン。


 指を鳴らした。


     ◆


 世界が止まった。


 炎の揺らめきも、舞い上がった砂も、ニコラの髪も、セリナが引き絞った弓も、すべてが静止している。


 目の前にいたグレイブハウンドの群れも、まるで時間そのものを切り取られたかのように動かない。


「……」


 動いているのは、マドカだけだった。


「やっぱり便利だなぁ」


 マドカは魔物たちの間を歩き始める。


 まず一体目。


「ここが弱点かな」


 首元を確認する。


 二体目は脚。


「こっちは脚」


 三体目は目。


「この子は目かな」


 四体目の前では足を止めた。


「わあ、牙大きい」


 五体目を眺めて、少し考える。


「……普通に可愛いかも」


 マドカは止まったままのグレイブハウンドを撫でてみた。当然、反応はない。


「……起きてると怖いんだけどね」


 少し笑ってから、マドカは木剣を構え直した。


「じゃ、終わらせよう」


 それぞれの急所へ、軽く一撃ずつ加えていく。


 そして。


「終わり!」


 時間停止を解除した。


     ◆


 ドドドドドドドドッ!!


 魔物たちが一斉に倒れた。


「…………」


「…………」


「…………」


 《銀翼の黎明》の全員が、武器を構えたまま固まっている。


 ガレスがゆっくりと剣を下ろした。


「……何が起きた?」


「私も知りたい」


 セリナが答える。


 マドカが振り返った。


「倒したよ!」


「それは分かる」


「じゃあ問題ないね!」


「問題しかないと思う」


 セリナは頭を抱えた。


     ◆


「今の……」


 クロードが周囲を見渡す。


「全員、同時に倒れたぞ」


「そうね」


 リゼットは平然としている。


「マドカが時間を止めたから」


「……時間を?」


 ガレスが黙り込む。


「それって……」


「そんなに珍しい?」


「珍しいどころじゃない!」


 ガレスが思わず声を上げた。


「時間を止めるなんて聞いたことがない!」


「そう?」


 マドカは首を傾げる。


「便利なのに」


「その感覚がおかしい!」


 ニコラも頷いた。


「私も欲しい~」


「ニコラは駄目」


「なんで~?」


「あなたが持ったら、研究室から出てこなくなるでしょう」


「……」


「図星ね」


「時間止めて、ずっと研究できるのに~」


「やっぱり駄目」


     ◆


 その後も魔物は現れたが、今度はブラッドスライムだった。


「今度は?」


 セリナが弓を構える。


「ブラッドスライムだ」


 クロードが答えた。


「物理攻撃が効きにくい。炎か氷を――」


「時間停止!」


 マドカが手を上げる。


「ちょっと待って!」


 セリナが慌てて止めた。


「私たちにも戦わせて!」


「え?」


「さっきから全部あなた一人じゃない!」


「でも楽だよ?」


「そういう問題じゃないの!」


 マドカは少し考えた末に、木剣をしまった。


「……じゃあ、今回はみんなに任せる!」


「そう、それでいいの」


 セリナが笑った。


     ◆


 ブラッドスライムを相手に、《銀翼の黎明》はそれぞれの役割を分担して戦った。


 ガレスが前衛で動きを抑え、ヴァルトが盾で攻撃を防ぐ。その隙にセリナが氷矢を撃ち込み、魔術師が火球を重ねる。最後はクロードが魔石を狙い、スライムの核を正確に捉えた。


「今!」


 氷矢が突き刺さり、スライムの動きが鈍る。


「そこだ!」


 続けて火球が炸裂し、表面が固まった。


「最後!」


 ガレスが剣を突き立てる。


 ――パァン!


 スライムが弾け飛んだ。


「よし!」


 マドカが嬉しそうに拍手する。


「すごい!」


 セリナも笑った。


「こういうのも楽しいでしょう?」


「うん!」


 マドカは素直に頷いた。


     ◆


 さらに奥へ進むと、今度は巨大な蜘蛛が天井から姿を現した。


「アラクネウィーバーだ」


 クロードが警戒する。


「糸を吐くから注意して」


「糸?」


 その言葉が終わるより早く、シュッ、と糸が飛んできた。


「わっ!」


 マドカの足に絡みつく。


「捕まった!」


 そのままズルズルと引っ張られる。


「マドカ!」


 セリナが駆け寄る。


「大丈夫!」


 マドカは絡みついた糸を掴むと、そのまま力任せに引き千切った。


 ブチッ。


「……」


 クロードが呟く。


「今、糸を力で切った?」


「うん」


「そう……」


 クロードは、それ以上何も言わなかった。


     ◆


 しばらくして、マドカが先頭を歩いていた。


「次は何が出るかな~」


「気をつけてね」


 セリナが後ろから声をかける。


「うん!」


 マドカが一歩、二歩と進んだところで――


 ズボッ。


「え?」


 足元の床が抜けた。


「きゃああああ!」


「マドカ!?」


 そのまま数メートル下へ落下し、ドスンと地面に尻餅をつく。


「……痛い」


「また!?」


 ブリジットが慌てて穴を覗き込む。


「大丈夫ですか!?」


「うん!」


 ブリジットが頭を抱える。


「どうしてあなたは、そんなによく落ちるのですか!」


「私も知りたい!」


 セリナが深いため息をついた。


「……もう、マドカの前は私が歩くわ」


「え?」


「あなた、先頭禁止」


「そんなぁ」


 ミレイユも頷く。


「賛成」


「ミレイユまで!」


 少し離れたところから様子を見ていたリゼットが、淡々と言った。


「これも才能ね」


「褒めてないよね?」


「ええ」


     ◆


 その夜。


 安全地帯で、マドカが料理の準備を始めた。


「今日は何?」


 セリナが尋ねる。


「今日はアイス!」


「……」


 女性陣が一斉に集まった。


「アイス!?」


「どうやってダンジョンで作るの?」


「ニコラが魔道具を作ってくれた!」


 ニコラが手を上げる。


「冷却装置~」


「仕事が早い……」


 マドカが器を並べる。


 バニラ、チョコ、いちご。


 セリナは真剣な顔で悩んでいた。


「……どれにしよう」


「全部食べれば?」


「それだわ」


「セリナ?」


「何?」


「最近ちょっと食いしん坊じゃない?」


「……マドカ」


「うん?」


「あなたのせいよ」


「私!?」


 ブリジットが笑った。


「では、私は三ついただきます!」


「多いよ!」


「今日も頑張りましたので!」


「それなら仕方ないか……」


 マドカがアイスを手渡す。


「はい!」


「ありがとうございます!」


 ブリジットが満面の笑みを浮かべる。


 セリナも、ミレイユも、それぞれのアイスを受け取って嬉しそうに食べていた。


 少し離れたところで、その様子を見ていたガレスが呟く。


「……俺たちの分もあるよな?」


「もちろん!」


 マドカが振り返る。


「よかった……」


 その瞬間、女性陣が一斉に振り返った。


「男性陣の分は少なめでいいわよね?」


「え?」


「え?」


「…………」


 ガレスたちは顔を見合わせた。


「……SランクPTって厳しいな」


 クロードが遠い目をした。


     ◆


 そして。


 第七階層のさらに奥には、巨大な扉があった。


 今まで見てきた扉とは明らかに違う。黒い金属で造られたその扉の中央には、古い文字が刻まれている。


 リゼットが文字を読み取った。


「……王家の封印術式」


「また王家?」


 マドカが尋ねる。


「ええ」


 リゼットは扉に触れた。


「でも……これは、私が知っている王家の術式より古い」


 ガレスが眉をひそめる。


「つまり?」


「今の王家より前のものね」


「そんな昔のものが……」


「そうね」


 リゼットはしばらく扉を見つめていたが、やがて小さく息を吐いた。


「……開けてみましょう」


「いいの?」


「ええ」


 リゼットが魔力を流す。


 ゴゴゴゴゴ……。


 重い音を響かせながら、巨大な扉がゆっくりと開いていく。


 その向こうには、さらに広大な空間が広がっていた。


 中央に、一つの石碑が立っている。


 そして、その石碑には古代文字で一行だけ刻まれていた。


 ――《時を喰らう者》。


「…………」


 マドカが首を傾げる。


「何それ?」


 リゼットは答えなかった。


 いや、答えられなかった。


 その名を目にした瞬間、彼女の表情から、ほんの僅かに余裕が消えていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。