勇者配信する
エキドナ館を見て回ったジャスティスは、ある店の前で足を止めた。
そこには、見慣れない機械が並んでいる。
「……これか」
店員から説明を受け、ジャスティスはしばらく考え込む。
そして――
「EVと配信カメラ……」
提示された金額を見て、少しだけ顔を引きつらせる。
「日本円で四十万円くらいしたぞ……」
決して安い買い物ではない。
しかし。
ジャスティスはカメラを持ち上げた。
「だが、これがあれば……」
真剣な表情になる。
「悪者の悪事も証拠に残るだろう!」
ぐっと拳を握る。
「いい買い物をした!」
店員は少しだけ困った顔をした。
「配信って、そういう使い方をするものでは……」
「何?」
「いえ、何でもありません」
ジャスティスは気にせず、カメラを眺める。
「さて……」
機械を操作する。
「これが配信ボタンか」
指を近づける。
「……」
少しだけ緊張する。
「やってみるか」
ボタンを押す。
配信開始。
「……」
ジャスティスはカメラを見つめる。
「まずは視聴者が面白そうと思わなければ、掴みはとれないな」
腕を組む。
「ふーむ……」
しばらく考える。
「いや、その前に決め台詞が先だな」
「決め台詞……」
ジャスティスは真剣に考える。
「悪を断つ!」
首を振る。
「普通すぎる」
「闇に潜む悪党よ、震えて眠れ!」
「……悪くない」
さらに考える。
「炎の中で震えて眠れ!」
「……」
ジャスティスは眉をひそめる。
「いや、炎の中で眠れるのか?」
少し考える。
「そもそも熱すぎるな」
首を振る。
「却下だ」
そして、再び考える。
「……悪を見つけたら、その時に考えるか」
カメラを見る。
「では……始めよう」
一度、咳払いをする。
「諸君!」
少し間を置く。
「俺は勇者ジャスティス!」
そこまで言ってから、ふと気づく。
「……」
「これ、視聴者いるのか?」
画面を確認する。
視聴者数は――数人。
「おお!」
思わず声が出る。
「いるじゃないか!」
少ない人数だが、確かに見ている人間がいる。
コメントも流れている。
『誰?』
『勇者って本物?』
『昨日ギルドにいた人じゃん』
「おっ、俺を知っている者もいるのか!」
ジャスティスは嬉しそうにする。
『勇者ジャスティスってあのAランクの?』
『モンバトやってた人だ』
「そうだ!」
ジャスティスは胸を張る。
「俺はAランク冒険者、勇者ジャスティス!」
少しだけ視聴者が増える。
「ふむ……」
これは悪くない。
ジャスティスは街を歩きながら話し始める。
「現在、俺はゴールという街にいる」
『ゴール?』
『何しに来たの?』
「目的は――」
一瞬考える。
「モンバトだ!」
『やっぱりw』
『勇者なのにモンバト目的なのか』
「当然だ!」
ジャスティスは堂々と言い切る。
「俺は半年間、モンバトのモンスターを探して旅をしていたからな!」
『半年!?』
『ガチ勢じゃん』
『それ勇者の旅なのか?』
「もちろん勇者の旅だ!」
ジャスティスは即答する。
「モンスターを探すことも立派な冒険だ!」
『まあ間違ってはいない』
『ゴールならモンバトの情報いっぱいあるぞ』
「そうだろう!」
ジャスティスは満足そうに頷く。
「そして、この街にはヒロバトというものまである」
『やったことある?』
「今日初めてやった」
『どうだった?』
「……」
ジャスティスの表情が曇る。
「負けた」
『www』
『誰に?』
「ムサシ・ミヤモト」
コメント欄が少し止まる。
『剣聖ムサシ?』
『あのムサシ?』
「そうだ」
ジャスティスは頷く。
「信じられないほど強かった」
『勇者でも勝てないのか』
「俺もまだまだだ」
少し悔しそうにする。
だが、その直後。
「……しかし、あのムサシは本物なのかもしれない」
『?』
『どういう意味?』
ジャスティスは少し黙る。
「いや……これはまだ俺の中でも整理できていない」
「まあいい」
再び歩き出す。
「それより、この街は面白いぞ」
『何が?』
「冷蔵庫がある」
『???』
「洗濯機もある」
『????』
「そして配信もある」
『それ普通じゃない?』
ジャスティスは画面を見て首を傾げる。
「普通……?」
少し考える。
「いや、俺の知っている世界では普通だったんだが……」
コメント欄がざわつく。
『俺の知ってる世界?』
『どういう意味?』
「……」
ジャスティスは口を止める。
「しまった」
自分で気づいた。
しかし、もう遅い。
『何それ?』
『勇者さんどこの人?』
『ゴール出身じゃないの?』
ジャスティスは少し考え――
「まあ、そのうち話そう」
そう言って笑った。
「今日はまず、この街をもっと見てみる!」
配信画面の向こうで、少しずつ視聴者が増えていく。
そしてジャスティスはまだ知らない。
この何気ない配信が――
遠く離れた和の国にいる、とある少女たちの目に留まることになるとは。




