勇者 エキドナ館へいく
ヒロバトを終えたジャスティスは、冒険者ギルドを出た。
「さて……」
今日は特に予定がない。
せっかくゴールまで来たのだ。
もう少し街を見て回ることにした。
「それにしても……」
ジャスティスは街を歩きながら、周囲を見回す。
昨日から感じていたが、この街は明らかに普通ではない。
店の並び。
建物。
人の多さ。
そして、冒険者たちが普通に使っている様々な道具。
「……気になるな」
しばらく歩いていると、一軒の店の前で足を止めた。
そこには、見慣れたものが置かれていた。
「……ん?」
ジャスティスが目を見開く。
「まさか……」
近づいてみる。
「これ……冷蔵庫じゃん!」
思わず声が出た。
店員が振り向く。
「はい。冷蔵庫ですよ」
「いやいやいや!」
ジャスティスは冷蔵庫を指差す。
「なんで異世界に冷蔵庫があるんだよ!」
「え?」
「いや、え?じゃなくて!」
ジャスティスは頭を抱える。
「俺のいた世界の冷蔵庫とほぼ同じじゃねえか……」
「そうなんですか?」
「そうなんですよ!」
思わず素の口調になる。
「電化製品まであるのかよ、この街……」
そのまま店の中を見ていると、さらに見覚えのあるものが目に入った。
「……洗濯機?」
「はい」
「うそだろ……」
ジャスティスは洗濯機の前まで歩いていく。
「これも日本にあったぞ……」
「日本?」
店員が首を傾げる。
「あ」
ジャスティスは口を閉じる。
しかし、すぐに開き直った。
「いや、俺が前にいた世界の話だ」
「へえ」
店員は特に気にしていない。
「ゴールでは普通に売ってますよ」
「普通に売ってるのかよ……」
ジャスティスは天を仰いだ。
「異世界に来てから結構経つけど、こんなの初めて見たぞ……」
さらに歩いていると、今度は人だかりができている場所を見つけた。
「また何かあるのか?」
近づいてみる。
そこでは冒険者が小さな端末を持って、何かを見ていた。
「配信?」
「そうそう」
「……配信って、あの?」
「兄ちゃんも知ってるのか?」
「知ってるも何も……」
ジャスティスは端末を見る。
画面には、ゴールの冒険者が映っている。
「これ、動画配信サイトみたいなもんじゃん……」
「どうが?」
「あー……いや、何でもない」
ジャスティスは頭を掻いた。
「ここ、本当にどうなってんだ?」
そして、さらに歩く。
今度は服屋だった。
店先に並んでいる服を眺めていると――
「……ん?」
一枚のシャツに目が止まった。
そこには日本語が書かれていた。
「…………」
ジャスティスは固まった。
「え?」
一歩近づく。
「……日本語?」
間違いない。
ひらがな。
カタカナ。
見慣れた文字。
「ちょっと待て」
シャツを手に取る。
「これ……日本語だよな?」
「はい。人気の商品ですよ」
「人気なの!?」
ジャスティスは思わずシャツを凝視する。
「いやいやいや……」
そして、周囲を見回した。
冷蔵庫。
洗濯機。
配信。
日本語のシャツ。
そして昨日見たヒロバト。
さらに、今日戦ったムサシ・ミヤモト。
「……」
ジャスティスの顔が真剣になる。
「まさか……」
拳を握る。
「俺以外にも転生者が……?」
その可能性が頭をよぎる。
だが――
「いや、待てよ」
少し考える。
「それなら、この街の発展具合も説明がつく……」
しかし、考えれば考えるほど謎が増えていく。
「誰なんだ?」
そんなことを考えながら歩いていると、大きな建物が見えてきた。
「……なんだ、あれ?」
看板には――
『エキドナ館』
と書かれている。
「エキドナ館?」
ジャスティスは建物を見上げる。
立派な建物だ。
しかも、人の出入りが多い。
「ここも何かあるのか?」
中へ入ってみる。
すると――
「にゃー」
「……猫?」
そこには猫がいた。
何匹もいる。
「え?」
一匹。
また一匹。
猫がジャスティスの足元を通り過ぎていく。
「ちょ、待て待て」
しゃがみ込む。
猫が近づいてくる。
「かわいいな、お前!」
一瞬で顔が緩む。
「おお……」
猫を撫でる。
「異世界にも猫カフェあるのかよ……」
しばらく猫と戯れていたジャスティスは、ふと我に返る。
「……って、違う」
立ち上がる。
「俺は何をしに来たんだ」
しかし、少し歩くとまた気になるものがある。
「……あれ?」
壁に映像が流れている。
「これも配信か?」
ジャスティスはしばらく眺める。
そして、小さく笑った。
「……面白い街だな」
昨日までなら、怪しさを感じていただろう。
だが今は違う。
日本にあったもの。
日本の文字。
日本の文化に近いもの。
それが、この街にはいくつも存在している。
「もしかしたら……」
ジャスティスはエキドナ館を見回す。
「ここには、俺と同じような奴がいるのかもしれないな」
少しだけ期待する。
だが、すぐに苦笑した。
「まあ、そう簡単には会えないか」
そして猫を見る。
「……もうちょっとだけ、ここ見ていくか」
猫が「にゃー」と鳴いた。
「お前、分かってるな」
ジャスティスは再び猫を撫で始めた。




