勇者VS幻影
翌朝。
ジャスティスは宿を出ると、ゴールの街を歩いていた。
昨日のモンバトの興奮がまだ残っている。
そして今日は、冒険者ギルドへ向かっていた。
「ここが冒険者ギルドか……」
中へ入ると、朝から多くの冒険者で賑わっている。
依頼を確認する者。
仲間と食事をする者。
そして、その一角に人だかりができていた。
「ん?」
近づいてみると、冒険者たちが手のひらに収まるほどの端末を持っている。
「これが……ヒロバトか」
モンバトの存在は知っていた。
だが、ヒロバトを実際に見るのは初めてだった。
「おい、兄ちゃん。ヒロバト初めてか?」
近くにいた冒険者が声をかけてきた。
「ああ。名前は知っているが、実物を見るのは初めてだ」
「なら、ちょっと見ていけよ」
ジャスティスは冒険者が持っている端末を覗き込む。
画面の中では、二人の幻影が向かい合っていた。
「今、誰と戦ってるんだ?」
「ムサシだな」
「ムサシ……?」
その名前を聞いた瞬間。
ジャスティスの表情が変わった。
「……ムサシ?」
画面に表示されている名前。
《ムサシ・ミヤモト》
「まさか……」
ジャスティスは画面を見つめる。
「宮本武蔵……?」
「知ってるのか?」
「宮本武蔵?生きてる?」
周囲の冒険者たちも反応する。
「おう。剣聖ムサシ・ミヤモトだ」
「有名な剣士だよな」
「俺でも名前くらいは知ってるぞ」
ジャスティスは画面から目を離せない。
「……やはり、本物……?」
「ん?」
「いや……」
ジャスティスは小さく首を振る。
「だが、俺の時代から五百年くらい前だろ?」
異世界へ転生する前。
自分が生きていた時代。
そのさらに遥か昔に存在したはずの人物。
「ありえるのか……?」
「兄ちゃん、何をぶつぶつ言ってるんだ?」
「いや、何でもない」
ジャスティスは剣を握る。
「それでも……確かめる価値はある」
端末の中で、ムサシの幻影が構えた。
ジャスティスも構える。
「剣士? いや、サムライ? まぁどっちでもいい」
ニヤリと笑う。
「俺の剣に届くか試してみろ!」
「おっ、兄ちゃんやる気だな」
「Aランクくらいありそうじゃね?」
「そのくらいはあるんじゃないか?」
周囲の冒険者たちも興味深そうに見守る。
戦闘が始まる。
ジャスティスは素早く距離を詰める。
一撃。
二撃。
三撃。
「なかなか……!」
ムサシの幻影も、それを正確に捌いていく。
「こいつ……!」
ジャスティスは一歩下がる。
そして、再び踏み込んだ。
だが――
ムサシの一閃が、ジャスティスの攻撃を完全に読み切った。
「なっ……!」
決着。
「うおっ!」
周囲から声が上がる。
「今の見たか?」
「ムサシ、やっぱ強いな」
「初見であそこまでやる兄ちゃんもすげえけどな」
ジャスティスは画面を見つめたまま、息を吐いた。
「……」
そして、小さく呟く。
「やはり……本物なのか……?」
だが、その答えは分からない。
次の幻影が表示される。
そこに現れたのは、一人の少女だった。
「次は女の子か。やれやれ」
ジャスティスは少し気を抜いた。
しかし――
「早い……!」
一瞬だった。
少女の姿が消えたかと思った次の瞬間、ジャスティスの目の前に現れる。
「何だこのかわいい子は! バケモンすぎるだろ!」
「おいおい、今の見えたか?」
「俺には全然見えなかったぞ」
「兄ちゃん、よく反応できたな」
それでもジャスティスは善戦する。
何度も攻撃をかわし、反撃を狙う。
だが、最後には敗北。
「……速すぎるだろ」
そして次。
現れたのは魔法使いの幻影。
「ほう。魔法タイプか」
ジャスティスは距離を取る。
「ならば接近すれば――」
次の瞬間。
大量の魔法が飛んできた。
「ちょっ……!」
一発。
二発。
三発。
さらに大量の魔法が降り注ぐ。
「うおおおおお!?」
周囲の冒険者たちは大騒ぎ。
「やべえ、全部食らってるぞ!」
「避けろー!」
「もう無理だろこれ!」
やがて魔法が止まる。
そこには、全身を塗料まみれにしたジャスティスが立っていた。
「…………」
しばらく沈黙。
「……まだ、その時ではない……か」
「いや、今のは完全に負けだろ」
冒険者の一人が思わずツッコむ。
「うるさい!」
ジャスティスは最後の幻影を見る。
そこに現れたのは――
マドカ。
「……」
ジャスティスは構える。
「こいつは……」
踏み込む。
だが、読めない。
速いわけでもない。
力が圧倒的というわけでもない。
なのに、次にどこへ動くのかがまるで分からない。
「なぜだ……!」
攻撃を避けられる。
反撃される。
距離を取る。
また踏み込む。
それでも読めない。
そして――
決着。
ジャスティスはしばらく画面を見つめていた。
「こいつは……危険だ……」
周囲の冒険者たちもざわつく。
「全部やったのか?」
「ああ」
「どうだった?」
「……俺もまだまだだな」
ジャスティスは立ち上がる。
そして、少しだけ遠い目をした。
「だが……あいつら本当に人間なのか?」
「いや、人間だろ」
「たぶん」
「少なくとも俺は人間だと思うぞ」
「そこ疑うところか?」
周囲からツッコミが飛ぶ。
ジャスティスは気にせず、ギルドの中を見回した。
「……」
昨日のモンバト。
そして今日のヒロバト。
異常なほど強い冒険者たち。
さらに、街そのものの発展ぶり。
「この町は要チェックだな」
ジャスティスは腕を組む。
「これだけ栄えていると……闇組織が関わっているかもしれん……な……」
「闇組織?」
近くの冒険者が首を傾げる。
「そんな話、聞いたことないぞ」
「俺もないな」
「まあ、ゴールだしなぁ」
ジャスティスは真剣な顔で頷いた。
「……そうか」
しかし、その表情とは裏腹に。
ゴールという街への興味は、ますます強くなっていた。




