勇者ゴールへ
久しぶりに王都へ戻ってきた。
勇者ジャスティスは、いつも世話になっている宿屋へと足を運んでいた。
「おっ、勇者様じゃねえか!」
「よう。久しぶりだな」
宿屋の主人と挨拶を交わし、ジャスティスはいつもの席に腰を下ろす。
酒を注文し、しばらく他愛のない話をしていると、ふと思い出したように口を開いた。
「そういえば、最近何か変わったことはあるか?」
「変わったこと?」
「ああ。俺がいない間にな」
主人は少し考える。
「……あんた、どのくらいいなかったんだっけ?」
「半年くらいだな」
「半年!?」
「モンバトのモンスターを探して、あちこち行ってたからな」
「物好きだなぁ」
「まあな」
ジャスティスは笑う。
「まだ見たことのないモンスターが結構いるんだ。せっかくなら集めておきたいだろ」
「だったらよ」
主人が何かを思い出したように言った。
「モンバトのデータが欲しいなら、ゴールに行けばいいんじゃないか?」
「ゴール?」
「そう。何回か聞いたことあるだろ?」
「その町の名前はな」
「最近すげえぞ、あそこ」
主人は楽しそうに話す。
「王都から一瞬でその町まで行けるように、転移陣ができたからな」
「一瞬?」
「ああ。今じゃ第二の王都だぜ?」
「ほう……」
ジャスティスは興味を示した。
「行ってみるか」
「おう。行ってみろよ」
「通行料はあるのか?」
「銀貨一枚だな」
「銀貨一枚……」
ジャスティスは少し考えた。
「まあ、安いな」
「馬車だと二、三日はかかるけどな」
「……それ」
ジャスティスは主人を見る。
「絶対、転移陣の方が得だろ!」
「はっはっは……まあ、そうなんだよな」
主人は苦笑する。
「途中の町の連中からは、観光客が減ったってぼやかれてるらしいぜ」
「そりゃそうだろうな」
「便利だから仕方ねえけどな」
「なるほど」
ジャスティスは酒を飲み干した。
「一度、行ってみるか」
こうして勇者ジャスティスは、これまで一度も訪れたことのない町――ゴールへ向かうことになった。
◇
「ここが……ゴールか」
転移陣から出たジャスティスは、目の前に広がる街並みを見渡した。
「……なるほど」
人が多い。
店も多い。
そして何より、活気がある。
「第二の王都、か」
宿屋の主人が言っていた意味が、少し分かった気がした。
「まずはモンバトの情報を探してみるか」
ジャスティスは街へと歩き出した。
◇
一方その頃。
ゴールのモンバトコロシアム。
「……つまんないですわね~」
ガブちゃんが、頬杖をついていた。
いつもならマドカたちや他の仲間たちがいる。
だが今は、みんな和の国。
「せっかくですから、わたくしも和の国に行きたかったですわ……」
そんなことをぼやいていたところだった。
「すみません。ここでモンバトの対戦ができると聞いたんですが」
聞き慣れない声。
ガブちゃんが顔を上げる。
「はい?」
そこにいたのは、旅装の男だった。
「モンバトの対戦をご希望ですの?」
「ああ。せっかくゴールに来たからな」
「……」
ガブちゃんは男を見る。
そして、少しだけ笑った。
「よろしいですわ。お相手いたします」
「助かる」
こうして――
ゴールに初めてやってきた勇者ジャスティスと、ガブちゃんのモンバト対戦が始まった。
◇
「……ほう」
ジャスティスはカードを構える。
「なかなかやりますわね」
ガブちゃんも相手の動きを見ながら、楽しそうに笑った。
ジャスティスは強かった。
さすがはAランク冒険者。
モンバトでも、それなりの実力を持っている。
「まだだ!」
モンスターを巧みに動かし、ガブちゃんへ食らいつく。
「おっと」
ガブちゃんも簡単には崩れない。
「そこですわ!」
反撃。
「なにっ!?」
ジャスティスのモンスターが吹き飛ぶ。
だが、まだ終わらない。
「ならば……!」
ジャスティスがさらに攻める。
「……!」
ガブちゃんの表情が少し変わった。
「なかなかやりますわね、本当に」
そして――
最後の一手。
「これで終わりですわ!」
「ぐっ……!」
ジャスティスのモンスターが倒れる。
勝負あり。
「…………」
ジャスティスはしばらく無言だった。
そして、ゆっくりと顔を上げる。
「ふ……」
「?」
「俺の腕がささやいている……」
「…………」
「貴様が本気を出すべき相手だとな!」
「…………」
ガブちゃんは無言でジャスティスを見る。
「ふ……まだ時は来ていないようだ」
「……あの」
「風が吹いている」
「はい?」
「今は、その時ではないな……」
「…………」
ガブちゃんは、なんとも言えない顔になった。
そして。
「あ、配信回しますがよろしくて?」
「……配信?」
「ええ。せっかくの対戦ですもの」
「ほう……」
ジャスティスは興味を示した。
「それが、ゴールで流行っているという配信か?」
「そうですわ」
「なるほど……」
ジャスティスは腕を組む。
「面白そうだな」
ガブちゃんが配信を開始する。
『お、ガブちゃんだ!』
『今日は誰と対戦?』
『知らない人いるぞ』
『え、勇者じゃね?』
『勇者ジャスティス!?』
コメントが一気に増えていく。
「……」
ジャスティスは画面を見る。
「これが……配信……」
その隣で、ガブちゃんがため息をついた。
「はぁ……」
『ガブちゃん元気ない?』
「みんな和の国に行ってしまいましたからね~」
『あーw』
『マドカたち今和の国だもんな』
『ガブちゃんお留守番か』
「そうなんですの~」
ガブちゃんは少し寂しそうに言う。
その横で、ジャスティスは配信画面を眺めていた。
「……なるほど」
そして彼はまだ知らない。
この町には――
自分が想像している以上のものが、いくつも存在していることを。




