配信 エチゴ屋
和の国に来て二日目。
今日はマドカ、クリスティーナ、ルーデウスの三人で、和の国の町を観光しながら配信をすることになった。
町の通りには、見慣れない店がずらりと並んでいる。
木造の建物に掲げられた看板。
軒先に並べられた色鮮やかな布。
店先から聞こえてくる商人たちの声。
昨日も歩いた町だが、今日は映像結晶を浮かべながら歩いているため、マドカはいつも以上に楽しそうだった。
「みんなー! お待たせー!」
マドカが映像結晶へ向かって大きく手を振る。
「今日は和の国観光だよ!」
『待ってた!』
『和の国観光きたー!』
『町並みめっちゃ綺麗』
『今日は三人なんだ!』
『マドカちゃん今日はどこ行くの?』
コメントが一気に流れていく。
「今日はね、まずエチゴ屋っていうところに行ってみようと思ってる!」
「エチゴ屋?」
ルーデウスが聞き返す。
「そう! 昨日聞いたんだけど、和の国ではかなり有名なお店なんだって!」
「昨日、町を歩いているときに何人かの方から名前を聞きましたものね」
クリスティーナが思い出すように言う。
「着物や簪、それから巾着なども扱っているそうですわ」
「そうそう! あと生地もいっぱいあるんだって!」
マドカが嬉しそうに続ける。
「和の国でしか買えないものもあるみたいだから、今日はそこを見てみよう!」
『着物!?』
『和の国の着物見たい!』
『簪も見たい』
『エチゴ屋ってそんなに有名なの?』
『高級店だったりする?』
「えーっと……」
マドカがコメントを見ながら首を傾げる。
「私も昨日聞いただけだから、どのくらい有名なのかはまだよく分かってない!」
「そこは調べてから配信しないのか……」
ルーデウスが呆れたように言う。
「だって、実際に見たほうが楽しいじゃん!」
「まあ、それもそうですわね」
クリスティーナがくすっと笑う。
「私も実物を見るのが楽しみですわ。昨日、町を歩いていても綺麗な生地がたくさんありましたもの」
「お母さん、昨日から生地見るときだけ目がちょっと違うんだよね」
「まあ、マドカちゃん。そんなことありませんわよ?」
「ほんとー?」
「ええ」
「じゃあ今日はいっぱい見よう!」
「もちろんですわ」
「……母さんも買う気じゃないか」
ルーデウスが小さくため息をつく。
『クリスティーナ様も買い物するの?』
『マドカちゃん親子で着物選んでほしい』
『お揃いとか見たい!』
『ルーデウスお兄ちゃんは何か買うの?』
「俺?」
ルーデウスがコメントを見る。
「俺は……まあ、必要なものがあれば」
「お兄ちゃん、和服似合いそう!」
「そうか?」
「うん! 甚平とか似合いそう!」
「甚平……」
ルーデウスが少し考える。
「……まあ、見てみるか」
「よし! 三人とも買い物する可能性あり!」
マドカが勝手に宣言すると、クリスティーナも笑う。
「ふふ。では、今日は少しお財布を緩めましょうか」
「母さんまで乗るのか……」
そんなやり取りをしながら通りを進んでいく。
やがて、前方にひときわ大きな看板が見えてきた。
木造の立派な店構え。
入口には色鮮やかな布や簪が並び、店の中にも多くの客が出入りしている。
「あっ!」
マドカが声を上げた。
「あれじゃない!?」
「おそらくそうでしょうね」
「エチゴ屋……!」
ルーデウスも看板を見上げる。
「確かに、かなり大きな店だな」
『おおおお!』
『ここがエチゴ屋か!』
『思ってたよりデカい!』
『なんか高級そう』
『着物いっぱいありそう!』
「じゃあ、行ってみよう!」
マドカが先頭に立って店へ向かう。
「今日は和の国の着物、いっぱい見てみるぞー!」
「マドカちゃん、走らないでくださいね」
「走ってないよー!」
「今、走りかけていましたわよ」
「……ちょっとだけ!」
「やっぱりな」
三人の笑い声とともに、映像結晶がゆっくりと店先へ近づいていった。
店の中へ入ると、すぐに色とりどりの衣服が目に飛び込んできた。
壁際には畳んだ着物が並び、その隣には浴衣や甚平が整然と並べられている。
さらに奥には帯や巾着、簪などの小物が並んでいた。
「わぁ……!」
マドカの目が輝く。
「すごい! いっぱいある!」
「これは見応えがありますわね」
クリスティーナも並んだ品々を眺めながら、ゆっくり店内を歩いていく。
「お母さん、こっち見て!」
「まあ、綺麗な柄ですわね」
「これも可愛い!」
「マドカちゃん、少し落ち着いて見ましょうね」
「だっていっぱいあるんだもん!」
『マドカちゃん完全に買い物モードで草』
『目がキラキラしてるw』
『どれ着るの!?』
『和服マドカ見たい!』
マドカはコメントを見て、さらに嬉しそうに笑った。
「そうだ! せっかくだし、今日は着替えてみようよ!」
「着替える?」
ルーデウスが振り返る。
「うん! このお店、試着できるみたいだよ!」
店員に確認すると、一般向けの既製品なら試着できるとのことだった。
「じゃあ決まり!」
マドカはさっそく浴衣の並ぶ場所へ向かった。
「これ!」
手に取ったのは、明るい色合いの浴衣だった。
「これ可愛い!」
「マドカちゃんらしい色ですわね」
「でしょ!」
マドカは嬉しそうに浴衣を広げる。
「これにする!」
「決めるの早いな……」
ルーデウスが苦笑する。
「お兄ちゃんも選ぼうよ!」
「俺は……」
ルーデウスは男性用の服が並ぶ棚へ向かい、しばらく眺める。
そして紺色の甚平を手に取った。
「これでいいだろ」
「おおー! やっぱり甚平!」
「動きやすそうだしな」
「似合いそう!」
「まだ着てないだろ」
その間にも、クリスティーナは女性用の棚をゆっくり見ていた。
「お母さんは?」
「そうですわね……」
いくつかの品を見比べてから、クリスティーナが手に取ったのは、落ち着いた色合いの着物だった。
「これにしましょうかしら」
「おおっ!」
マドカが振り返る。
「お母さん、それ綺麗!」
「そう? では、これにしましょう」
『三人とも着替えるの!?』
『楽しみすぎる』
『マドカちゃんの浴衣絶対似合う』
『クリスティーナ様も絶対似合う』
『ルーデウス甚平かw』
「じゃあ、着替えてくるね!」
三人はそれぞれ選んだ服を持って、店員に案内された試着室へ向かった。
しばらくして――。
「お待たせー!」
最初に出てきたマドカが、くるりと一回転する。
「どう!?」
明るい色合いの浴衣が、マドカの雰囲気によく合っている。
『かわいい!』
『似合ってる!』
『和の国感すごい!』
『そのまま観光してほしい!』
「えへへー!」
マドカが満足そうに笑う。
続いてクリスティーナが姿を見せる。
落ち着いた色合いの着物を優雅に着こなし、いつもの上品な雰囲気がさらに引き立っていた。
「まあ……!」
マドカが目を丸くする。
「お母さん、すっごく似合ってる!」
「ありがとう、マドカちゃん」
クリスティーナが嬉しそうに微笑む。
『クリスティーナ様綺麗すぎる』
『これは強い』
『親子で和装いいな』
『二人で歩いてるところ見たい』
「そして最後は俺か」
ルーデウスが少し照れた様子で出てくる。
紺色の甚平姿になったルーデウスを見て、マドカが声を上げた。
「お兄ちゃんも似合ってる!」
「そうか?」
「うん! すごく和の国っぽい!」
「なら、これでいいか」
「三人並ぶと、ちゃんと観光客って感じするね!」
「マドカちゃん、それは褒めているのかしら?」
「もちろん!」
『三人ともめちゃくちゃ似合ってる』
『このまま町歩いてほしい』
『それ普通に買える服なの?』
『高級品じゃないの?』
『着物って全部高いイメージある』
マドカがコメントを読み上げる。
「あっ、それ気になるよね!」
クリスティーナも頷いた。
「そうですわね。せっかくですから、そのあたりも店員さんに聞いてみましょうか」
「うん!」
マドカが店内を振り返る。
「じゃあ次は、和の国の着物について聞いてみよう!」
三人はそのまま店員のいる売り場へ向かった。三人はそのまま店員のいる売り場へ向かった。
「すみませーん!」
マドカが声をかけると、店員が笑顔で近づいてくる。
「はい。何かお探しでしょうか?」
「今着てるこれって、普通に買えるものなんですか?」
マドカが自分の浴衣の袖をつまんで見せる。
「はい。そちらは一般向けの既製品でございます。町の者でも普通に購入できますよ」
「おおー!」
マドカが振り返る。
「だって! みんな、普通に買えるんだって!」
『なるほど!』
『じゃあ高級着物ではないのか』
『浴衣って普通に売ってるんだな』
『着物って全部高いのかと思ってた』
「私も最初はそう思ってた!」
マドカがコメントを見ながら頷く。
「でも昨日町を歩いてたら、普通に浴衣着てる人もいたし、こういうのは日常的に着るものなんだね」
「ええ。浴衣や甚平などは、普段着として使われるものも多いですわね」
クリスティーナが店内を見回す。
「このあたりに並んでいるものは、一般のお客様向けの商品ということですか?」
「はい。こちらは通常の流通品になります」
店員が並んだ浴衣を示す。
「色や柄も多くございますし、お値段も手頃なものから少し上等なものまでございます」
『じゃあ今着てるのもそんなに高くない?』
『マドカちゃんの浴衣いくらくらい?』
「えっ、値段聞く?」
マドカが自分の浴衣を見る。
店員が価格を伝えると、マドカは目を丸くした。
「えっ、思ったより普通だ!」
「そうでしょう?」
ルーデウスが腕を組む。
「和服だから全部高い、というわけではないんだな」
「そういうことですわね」
クリスティーナも頷く。
「普段使いのものと、特別なものは分けて考えたほうがよさそうですわ」
『じゃあ特別な着物ってどんなの?』
『高級な生地とかあるの?』
『この店にも置いてある?』
そのコメントを見たマドカが、すぐに店員へ顔を向けた。
「ねえねえ! 高級な生地っていうのもあるの?」
店員の表情が少し変わる。
「はい。もちろんございます」
そう言って、店の奥へ視線を向ける。
「ただし、すべての商品が同じように販売できるわけではございません」
「ん?」
マドカが首を傾げた。
「どういうこと?」
「こちらの店にも、一般のお客様がご購入いただける生地とは別に、特別な扱いとなる生地がございます」
クリスティーナがその言葉に反応する。
「特別な扱い、ですか?」
「はい」
店員は少し声を落とした。
「和の国には、特定の産地や職人によって作られる、とても上質な生地がございます。織りや染めにも長い歴史がありまして……そういった品は、誰でも自由に購入できるものではないのです」
『えっ、誰でも買えるわけじゃないの?』
『高級ブランドみたいな感じ?』
『普通の浴衣の生地とは別物なのか』
『どれくらい違うんだろう』
「へえ……」
マドカが並んだ普通の浴衣を見て、それから店の奥を見る。
「じゃあ、今着てるのとは全然違うんだ?」
「はい。そちらは一般流通品ですので」
「なるほどな」
ルーデウスも少し興味を持ったように奥を見る。
「つまり、和の国では普段使いの生地と、特別な生地がちゃんと分かれているわけか」
「左様でございます」
「面白いね!」
マドカが笑う。
「じゃあ、その高級な生地って見せてもらえる?」
店員は一瞬だけ迷うような表情を見せた。
「……通常のお客様には、少々難しいのですが」
「あっ」
マドカが止まる。
クリスティーナはその様子を見て、穏やかに微笑んだ。
「まあ。許可の件でしたら、もう城には届けを出してありますわ」
「……はい?」
店員が目を瞬かせる。
「ノイティス家の名でお願いしております」
「ノ、ノイティス家……?」
店員の表情が明らかに変わった。
ルーデウスが小さく息を吐く。
「母さん、やっぱりその話をするのか」
「せっかくですもの」
「まあ……それでしたら」
店員は慌てて店の奥へ向かう。
マドカはその背中を見送りながら、映像結晶へ向かって笑った。
「なんかねー、和の国の高級生地は限られた身分の人しか買えないみたいなんだよね」
「一般流通している生地は問題ないんですけれどね」
クリスティーナが続ける。
「ええ。そして昨日、この国を統治されている義経様と謁見して、エキドナとの取引についてお約束したんですわ」
『えっ、昨日の城の話ここにつながるの?』
『高級生地ってそんなに特別なの?』
『エキドナだから買えるってこと?』
『じゃあ普通の商人は無理なのか』
マドカがコメントを拾う。
「そうそう。私たちはチヨさんやナツメの着てる生地が気に入ったから、ちゃんと城で話をして、エキドナで取引する権利をもらったんだよ」
「ただし、その権利を得たからといって、生地が無料になるわけではありませんわ」
クリスティーナがさらりと付け加える。
「実際に生地を購入する際には、もちろん代金をお支払いしますの」
『あ、権利と商品代は別なのか』
『なるほど』
『じゃあ権利を取るための条件があるってこと?』
「そういうことだな」
ルーデウスが頷く。
「ヒロバト十台、モンバト、EV、それから今後の商品提供。今回こちらから提示したのは、そういったものだ」
『ヒロバト十台!?』
『そこまで出すの!?』
『モンバトとEVも!?』
『普通の商人じゃ絶対無理じゃない?』
「まあ、俺たちもそう思う」
ルーデウスが苦笑する。
「そもそも、同じ条件を普通の商人が提示するのは難しいだろう」
「エキドナだからこそ、こちらが提供できるものもありますからね」
クリスティーナが穏やかに続ける。
「和の国には和の国の技術や文化があり、エキドナにはエキドナの技術や商品がある。今回は、それをお互いに交換する形になったんですわ」
「うん!」
マドカも頷く。
「だから、高級生地をタダでもらえるって話じゃないよ!」
『なるほどなー』
『高級生地そのものを買うための権利なのか』
『エキドナと和の国でちゃんと取引してるんだな』
『じゃあ普通の人はどうすればいいの?』
その質問を見て、マドカが店内を振り返った。
「普通の人なら?」
店員が戻ってくる。
その手には、一枚の美しい生地が抱えられていた。
「こちらでしたら……」
マドカの目が輝く。
「わぁ……!」
三人の視線が、その生地へ集まった。店員が戻ってくる。
その手には、一枚の美しい生地が抱えられていた。
「こちらでしたら……」
マドカの目が輝く。
「わぁ……!」
三人の視線が、その生地へ集まった。
光の加減で表情を変えるような、落ち着いた色合いの生地。
派手な装飾があるわけではない。
それでも、近くで見ると細かな織りが一つ一つ丁寧に揃っていて、先ほどまで見ていた一般向けの生地とは明らかに雰囲気が違っていた。
「綺麗……」
マドカがそっと生地へ手を伸ばす。
「これ、さっきの浴衣の生地とは全然違うね」
「ええ」
クリスティーナも興味深そうに眺める。
「細かなところまで、とても丁寧に作られていますわ」
「こちらは、和の国でも特別な扱いとなっている生地でございます」
店員が説明する。
「産地や織り方、染め方にも決まりがありまして、職人が一枚一枚仕上げ




