入国審査
「さて、ここからですね」
和の国の港へ到着したビアンチは、情報塔の端末に向かって話していた。
「ここから入国審査がありますので、撮影はちょっと難しいかもしれません」
少しだけカメラを下げる。
「許可が取れたら、また配信を再開しますね」
『了解』
『さすがに入国審査は映せないか』
『和の国初上陸なのに配信切るのか』
『まあそこは仕方ない』
『ちゃんと許可取ってからなの偉い』
「では、一旦失礼します」
ビアンチは配信を終了した。
◆
入国審査を終えたビアンチは、港から少し離れた場所へ移動していた。
人目につきにくい場所を確認すると、持ってきた装置を地面へ置く。
「では、こちらを起動しましょう」
今回ビアンチが持ってきたのは、これまでエキドナに設置されていたものとは少し違う。
持ち運びを前提にした転移装置。
本体はエキドナ側に設置されており、こちらの装置と位置情報をリンクさせることで、エキドナから直接こちらへ転移できる。
「エキドナの本体とリンク……」
装置を操作する。
「よし。繋がりました」
転移装置が淡く光る。
そして――
「お、来ましたな」
最初に姿を現したのはリゼットだった。
「無事に着いたわね」
「はい。問題なく設置できました」
続いて、マドカ。
「ビアンチ、お疲れさま!」
「マドカさんもお疲れ様です」
さらに、クリスティーナ、ルーデウス、エレノア、そして他のエキドナメンバーたちも次々と転移してくる。
「おお……」
ルーデウスが周囲を見る。
「ここが和の国か」
「思ったより普通の港だね」
マドカも周囲を見回す。
「でも、ちょっと雰囲気が違う気がする」
「そうね」
クリスティーナも穏やかに頷く。
「以前来た時とは、また少し変わったようにも見えるわ」
「さて」
ビアンチが装置を確認する。
「これでエキドナとの往来も可能になりました」
「便利ね」
リゼットが頷く。
「これなら、帰りも船を使わなくて済むわ」
「船旅は一回で十分だね」
マドカが笑う。
「そうね」
クリスティーナも微笑む。
「私は最初から船には乗らないと言っていましたけれど」
「お母さん、ずるい!」
「ふふっ」
「では、まず入国審査です」
ビアンチが一行を見る。
「チヨさん、ナツメさん。お願いできますか?」
「うん」
ナツメが頷く。
港の入国審査所へ向かうと、係の者がこちらに気づいた。
「……おや?」
チヨとナツメの姿を見る。
「剣術指南役のところのお嬢さん方では?」
「はい...」
チヨが頭を下げる。
「こちらの方々は、私たちの客人です…」
「客人?」
係の者が一行を見る。
「修行先の怠惰でお世話になってる方々です」
「なるほど」
係の者は納得したように頷いた。
「それでしたら、簡単に確認だけさせてください」
「はい」
「滞在の目的は?」
「交流と商談です」
ビアンチが答える。
「和の国の文化や特産品などを見せていただきたいと思っています」
「滞在期間は?」
「今のところ、具体的には決めておりません」
「なるほど……」
係の者は書類を確認する。
「剣術指南役のお嬢さん方の客人ということであれば、問題ありません」
「ありがとうございます」
ビアンチが頭を下げる。
「では、どうぞ和の国へ」
一行はそのまま入国を許可された。
「思ったより早かったね」
マドカが小声で言う。
「チヨちゃんとナツメちゃんがいてくれて助かったね」
「そうね」
クリスティーナも微笑む。
「こちらとしても、余計な手続きをせずに済むのはありがたいわ」
「まあ、正式な交渉はこれからですけどね」
リゼットがビアンチを見る。
「そうですね」
ビアンチも頷く。
「まずは、それぞれの目的を果たしましょう」
一行は港を離れ、町へ入っていく。
しばらく進んだところで、ビアンチが立ち止まった。
「では、ここで分かれましょうか」
「道場へ行く人と、町を見て回る人?」
マドカが確認する。
「はい」
ビアンチが頷く。
「道場へ向かうのは――」
クリスティーナ、エレノア、マドカ、ルーデウス、リゼット、ビアンチ。
そして、ムサシ、チヨ、ナツメ。
「この九人ですな」
「了解!」
マドカが頷く。
「私たちは、町の特産品を調べてくるね」
ナナリーが手を上げる。
「お土産も探していい?」
「もちろんよ」
セシリアが微笑む。
「マドカ様がお好きそうなものも、探しておきましょう」
「セシリア、よろしく!」
「はい」
他のエキドナメンバーもそれぞれ町を見回す。
「じゃあ、行ってきます」
「おう!」
「気をつけてな」
こうして一行は二手に分かれた。
道場へ向かうのは、和の国との正式な交流を進めるための一行。
そしてもう一方は――
和の国の町に何があるのか。
どんな食べ物があるのか。
どんな特産品があるのか。
それを実際に見て回る調査隊だった。




