ビアンチ呼び出しくらう
その日。
ビアンチはリゼットの執務室に呼ばれていた。
「リゼットさん、何か私に御用ですか?」
「ええ。あなたには出張に行ってもらいたいのよ」
「出張ですか?」
ビアンチが首を傾げる。
「珍しいですね。何かあるんです?」
「五日後、和の国への定期船が出るらしいの。それに乗って、和の国に渡ってくれる?」
「和の国……!」
ビアンチの目が輝く。
「姉妹から聞いていましたが、いよいよ向かうんですね!」
「ええ」
リゼットは頷く。
「あなた、和の国で配信なさい?」
「配信ですか?」
「そう。実際に現地の人たちを撮影して、『こういう国ですよ』って宣伝してほしいのよ」
「なるほど!」
ビアンチの顔が一気に明るくなる。
「おもしろそうですね!」
「でしょう?」
「しかし、どうして私なんです?」
「この大陸の人って、滅多に船に乗って旅をするなんてことないでしょう?」
「……確かにそうですね」
「だから旅行配信だと思えばいいわ。食費と滞在費はエキドナ持ちだから、観光しながら和の国を目指しなさい?」
「旅行配信……!」
ビアンチが嬉しそうに頷く。
「このビアンチに任せていただければ、和の国の魅力をしっかりお届けしますよ!」
「それで、同行者は?」
「いないわ」
「……え?」
ビアンチが固まる。
「いないんですか!?」
「いないわよ」
「みんな、あんなに行きたがっていたのにですか!?」
「だからよ」
「だから……?」
リゼットは平然としている。
「あなたにはニコラから講習を受けて、転移陣の設置ができるようになってもらうの」
「転移陣……」
「設置でき次第、私たちも和の国に入るから」
「なるほど、なるほど……」
ビアンチが何度か頷く。
「つまり、私が先に向かって――」
「ええ」
「皆さんが後から来る、と」
「そういうこと」
「……」
ビアンチはしばらく考える。
「……あれ?」
そして、リゼットを見る。
「リゼットさん、これ……私一人で和の国を独占配信ですよ?いいんです?他の人も出たいんじゃ?」
「おいしいわよ?」
「……確かに」
「でしょう?」
「誰にも邪魔されず、私が和の国を好きなように取材できる……」
「そういうことよ」
「かなりおいしいですね!」
ビアンチはすぐに立ち直った。
「では……旅の準備をしましょうか!」
「ええ」
リゼットが頷く。
「定期船の出る港町はデジマというらしいわ」
「デジマ……」
「そこではグルメ配信なんかいいんじゃないかしらね」
「グルメ配信!」
ビアンチの目が輝く。
「港町ですからね。美味しいものがいろいろありそうです!」
「今回の目的は、和の国との取引よ」
リゼットが話を続ける。
「あちらの国には、エキドナでは作れないものが結構あるみたいね」
「なるほど。それの紹介配信もする、と」
「ええ」
「それに、エキドナの商品をあちらに売り込むという目的もあるのよ」
「商品の紹介まで……」
「あなたにピッタリの仕事ね」
「確かに!」
ビアンチは嬉しそうに頷く。
「私もお土産物には興味がありますね!」
「でしょう?」
「和の国のお土産……一体どんなものがあるんでしょう」
すでに頭の中では、旅先での光景を想像しているらしい。
「わかりました!」
ビアンチが元気よく答える。
「デジマへ向かう途中からも配信してよろしいですね?」
「ええ。任せるわ」
「ありがとうございます!」
ビアンチは嬉しそうに笑う。
「では、出発までにしっかり準備しておきます!」
「そうそう」
リゼットが思い出したように付け加える。
「アリシアに出張経費の請求をしておきなさい」
「はい!」
ビアンチは元気よく返事をした。
そして、ふと立ち止まる。
「……あの」
「何?」
「デジマまでは、走りでも馬車でも好きな方法で行っていいんですよね?」
「ええ。五日後に船へ乗れればいいから」
「なるほど」
ビアンチは少し考える。
「では、途中の町や街道なんかも配信してみましょうか」
「いいんじゃない?」
「エキドナを出てからデジマまで、道中の町を紹介して――」
ビアンチが楽しそうに指を折っていく。
「デジマに着いたら港町グルメ。そして、そこから船旅!」
「そういう流れね」
「これは結構、長い配信になりそうですね」
「無理に長くしなくてもいいわよ」
「いえいえ!」
ビアンチは笑う。
「せっかくの出張です。見せられるものは全部見せましょう!」
「……あなた、本当にこういう仕事好きね」
「もちろんですよ」
ビアンチは胸を張った。
「広報ですから!」
「そうだったわね」
リゼットは苦笑する。
「それじゃあ、よろしく頼むわ」
「お任せください!」
ビアンチは一礼する。
「和の国の魅力、しっかり宣伝してきますよ」
そして、部屋を出ていく。
扉が閉まる。
「……さて」
リゼットは一人になった執務室で、小さく笑った。
「これで先行して現地を見てもらえるわね」
一方その頃。
廊下を歩くビアンチは、すでに旅の計画を考えていた。
「デジマ……港町……和の国……」
そして――
「……怪しいです!」
突然、いつもの調子で呟いた。
「いや、何が怪しいのか自分でも分かりませんけど!」
誰もいない廊下に、ビアンチの声だけが響いた。
こうして――
エキドナの広報担当、ビアンチによる和の国への先行出張が始まることになった。




