お兄ちゃん達のダンジョン配信
配信が終わりニコラの屋敷に、先ほどの配信参加者が集まっていた。
「いやぁ……面白かったですわ!」
ビアンカが満足そうに胸を張る。
「まさか発明品対決の次が、実戦テストになるとは!」
「ぼ、僕の発明品を実際のダンジョンで使えるんですよね!?」
エジソンも目を輝かせている。
「絶対面白い配信になりますよ!」
「おう。お前ならそういうと思った!」
クライスが笑う。
「実際に使ってみないと分からないこともあるしな」
「俺は……別にいいけど」
ルーデウスは少し困ったように言う。
「ダンジョン配信って、そんなに大げさにするものなのか?」
「しますわ!」
ビアンカが即答する。
「ルーデウス様が参加するだけで、ものすごく豪華な配信になりますもの!」
「そうかな……」
「そうだよ、お兄ちゃん」
マドカが笑う。
「なんだかんだ、楽しそうにしてるし」
「……そう見える?」
「見えるよ」
「……なら、まあ」
ルーデウスは少しだけ笑った。
「やってみるか」
「決まりですわ!」
ビアンカが勢いよく手を上げる。
「では、次回は実戦配信!」
「場所は?」
クライスが尋ねる。
「ルーデウスの領地にある初心者向けダンジョンでいいんじゃないか?」
「十階までしかないけどな」
「それくらいでちょうどいいですわ!」
ビアンカが頷く。
「まずは発明品が実戦でどれくらい使えるのかを見る配信ですもの」
「僕もいろいろ試してみたいです!」
エジソンが嬉しそうに言う。
「レーザー銃だけじゃなくて、他の発明品も持っていきます!」
「おう、期待してるぜ」
クライスが笑った。
その横で、マドカが手を挙げる。
「私は行くけど、戦わないからね」
「もちろんですわ」
ビアンカが頷く。
「マドカ様が戦ったら、またモンスターが逃げますもの」
「そうなんだよね」
「ニコラも?」
「うん。ニコラも見てるだけ」
「じゃあ二人は屋敷から配信を見る形か」
クライスが確認する。
「それがいいと思う」
マドカが頷いた。
「二人が行ったら、たぶん本当にモンスターが出てこなくなるから」
「それはそれで見てみたいですけどね」
クライスが笑う。
「一階から十階まで、モンスター一匹も出ませんでした! っていう配信になる」
「それはもうダンジョン配信じゃないよ」
マドカが苦笑した。
こうして、配信は二日後に決まった。
◆
二日後。
「さあ、本日は!」
クライスがカメラに向かって声を上げる。
「貴族メンバーによる、初心者ダンジョン実戦配信です!」
『来たー!』
『発明品実戦編!』
『エジソンの武器を実際に使うのか』
『ビアンカ様いるじゃんw』
『ルーデウス様もいる!』
『今日は何階まで?』
『初心者ダンジョンってことは弱め?』
「はい、今回のダンジョンは十階までです」
クライスが説明する。
「そして本日は、前回の発明品対決で登場したエジソン君の発明品を、実際のダンジョンで使ってみます!」
「僕の出番です!」
エジソンがレーザー銃を構える。
「おおーっ!」
ビアンカが声を上げる。
「本当に実戦で使いますのね!」
「はい!」
「では、行きましょう!」
クライスが手を上げた。
四人は転移装置へ向かう。
「まずはゴールへ移動して――」
次の瞬間。
景色が変わった。
「おお……」
ルーデウスが辺りを見る。
「やっぱり一瞬だな」
「そうなんです」
クライスがカメラに向かって話す。
「エキドナからゴールへ。そしてゴールからルーデウス様の領地へ。こういう移動も今回の配信の見どころですね」
『また瞬間移動w』
『これ普通に便利すぎる』
『エキドナ何でもあるな』
『ダンジョンより転移のほうが気になる』
「そしてここからダンジョンです!」
四人はダンジョンへ入っていった。
その頃。
配信を見ていたマドカとニコラもコメント欄へ参加していた。
『マドカ【エキドナ公式】:お兄ちゃん、頑張ってね』
『おおおおお!』
『マドカちゃん来たwww』
『本人!?』
『お兄ちゃん頑張ってねw』
『妹から応援コメント来てるぞルーデウス様w』
さらにコメントが流れる。
『ニコラ【エキドナ公式】:ルー君、装備ちゃんと使ってね~』
『ニコラ博士もいるw』
『博士から直接指示w』
『エジソンの発明品も見てます?』
『ニコラ博士、エジソンの武器どうですか?』
『ニコラ【エキドナ公式】:ちゃんと動けばいいんじゃない~?』
『適当www』
『博士らしい』
『現地にいないのにコメントだけ参加してるの面白い』
クライスがコメントを見て笑った。
「お、マドカさんとニコラさんも来てますね」
「本当に?」
エジソンが反応する。
「ニコちゃん、見てる!?」
『ニコラ【エキドナ公式】:見てるよ~』
「よし!」
エジソンが気合を入れる。
「頑張ります!」
『エジソンめっちゃ嬉しそうw』
『ニコちゃん呼びw』
◆
一階。
最初のモンスターが現れた。
「来ましたわ!」
ビアンカが杖を構える。
「お任せください!」
魔法が放たれる。
一撃。
モンスターが吹き飛んだ。
「……強」
クライスが呟く。
『一階からオーバーキルw』
『初心者ダンジョンとは』
『ビアンカ様つよい』
『火力が初心者じゃない』
「では、僕も!」
エジソンがレーザー銃を構える。
光が走る。
もう一体のモンスターが倒れた。
「おお!」
クライスが声を上げる。
「ちゃんと使えるじゃないか!」
「ですよね!」
エジソンが嬉しそうにする。
「威力も問題ありません!」
『エジソン普通に強い』
『発明品すげえ』
『前回はニコラの幻影がおかしかっただけでは?』
『ニコラ【エキドナ公式】:うん。エジソンの発明品はちゃんと使えるよ~』
『博士のお墨付ききた』
『これは発明家として嬉しいやつ』
「ありがとうございます、ニコちゃん!」
エジソンがさらに張り切る。
その直後。
別のモンスターが横から飛びかかってきた。
「うわあああ!?」
エジソンが慌てて後ろへ飛び退く。
「近い近い近い!」
「おい!」
クライスが剣を振る。
モンスターを斬り倒した。
「大丈夫か?」
「は、はい……」
「遠距離なら強いんだけどな、お前」
「……近距離は苦手です」
『エジソン近づかれると弱いw』
『発明家の弱点が明確すぎるw』
『レーザーは強いのに本人が逃げる』
『これは今後の課題だな』
『マドカ【エキドナ公式】:エジソンさん、頑張って』
『優しいw』
『マドカちゃん応援してる』
『エジソンよかったなw』
「頑張ります!」
エジソンは改めて銃を握った。
◆
二階。
三階。
四階。
敵は少しずつ強くなっていく。
しかし――
「問題ないですわ!」
ビアンカの魔法が炸裂する。
「そこだ!」
クライスが敵の隙を突いて斬る。
「これで!」
エジソンのレーザーが敵を貫く。
『マドカ【エキドナ公式】:お兄ちゃん、結構強いよ』
『妹から評価されたw』
『ルーデウス様!』
『さすがノイティス家!』
ルーデウスが少し照れる。
「……まあ、これくらいなら」
マドカが続ける。
『マドカ【エキドナ公式】:ただし、装備が』
『wwwww』
『そこかよw』
『ルーデウス様、装備頼みw』
『ニコラ博士の装備が強いだけ説』
『ニコラ【エキドナ公式】:ルー君用だからね~』
「……ニコラさんまで」
ルーデウスが苦笑する。
「でも、助かってるのは本当だ」
◆
五階。
「少し広くなってきましたね」
クライスが辺りを見る。
「敵もまとまって出てきそうです」
「では、私の出番ですわね!」
ビアンカが杖を掲げる。
「炎よ――」
「待って!」
クライスが止める。
「ここダンジョンだからな!?」
「え?」
「いや、火は便利だけどさ!」
『ダンジョン内で火w』
『酸素大丈夫?w』
『ビアンカ様、容赦ない』
『全部焼けばいいと思ってそう』
ビアンカが胸を張る。
「大丈夫ですわ!」
「何が大丈夫なんだよ……」
ルーデウスが呆れる。
それでもビアンカの魔法は見事だった。
炎が敵の前だけを包み込み、周囲にはほとんど影響を与えない。
「……ちゃんと制御できてるな」
クライスが感心する。
「当然ですわ!」
『火力だけじゃなく制御もできるのか』
『ビアンカ様すごい』
『さっき心配して損したw』
◆
六階。
エジソンが別の発明品を取り出した。
「今度はこれです!」
「何ですの、それ?」
ビアンカが覗き込む。
「魔力弾を自動で追尾させる装置です!」
「ほう」
クライスが興味深そうに見る。
エジソンが装置を起動する。
魔力の球が飛び出した。
それは敵を追いかけ、曲がる。
「おお!」
クライスが声を上げる。
「ちゃんと追ってる!」
魔力弾が敵へ命中する。
「やりました!」
エジソンが拳を握る。
『これ便利じゃん』
『追尾型いいな』
『実戦向きだな』
『エジソン普通にすごい』
『前回ニコラ幻影に当たらなかっただけかw』
『ニコラ【エキドナ公式】:追尾は便利そうだね~』
『博士も評価してる』
『エジソン嬉しそうw』
「ニコちゃんに褒められた!」
「そこが一番嬉しいのかよ」
クライスが笑った。
◆
七階。
敵の数が増える。
「クライス!」
ルーデウスが叫ぶ。
「右!」
「分かってる!」
クライスが振り向きざまに斬る。
その隙に別の敵がルーデウスへ飛びかかる。
ルーデウスが受け止める。
「くっ……!」
「お兄ちゃん!」
マドカからコメントが入る。
『マドカ【エキドナ公式】:お兄ちゃん、後ろ』
「分かってる!」
ルーデウスが振り返る。
そのまま一撃。
敵を倒した。
『反応はやw』
『マドカちゃん実況参加してるw』
『現地にいないのに普通に戦況見てる』
『公式コメント欄便利だな』
「妹に心配されてるぞ、ルーデウス」
クライスが笑う。
「……別に心配されるような状況じゃないだろ」
「そういうことにしておくか」
◆
八階。
今度は複数の敵が一気に現れた。
「これは少し多いですわ!」
ビアンカが魔法を構える。
「僕も援護します!」
エジソンが装置を起動する。
追尾弾が次々と飛ぶ。
「右は俺が取る!」
クライスが走る。
「じゃあ左は俺が!」
ルーデウスも前へ出る。
四人がそれぞれの役割を分担する。
敵の数は多い。
だが――
「そこ!」
「くらえ!」
「これで!」
次々と敵が倒れていく。
最後の一体をクライスが斬った。
「よし!」
『おおー!』
『ちゃんとパーティー戦闘になってる』
『最初より連携よくなってない?』
『エジソンもちゃんと援護できてる』
『発明品が普通に戦術に入ってるな』
『マドカ【エキドナ公式】:いい感じだね』
『マドカちゃんからも合格判定w』
◆
九階。
「ここまで来ましたね」
クライスが息を整える。
「次が十階です」
「いよいよラスボスですわ!」
ビアンカが楽しそうに言う。
「どんな敵が出てくるんでしょう?」
エジソンも少し緊張した顔になる。
「……強いのかな」
「初心者ダンジョンだろ?」
ルーデウスが苦笑する。
「そこまでじゃないと思うけど」
『ラスボス期待』
『ここまでサクサクだったからな』
『十階だけ強敵来るか?』
『エジソン逃げる準備しとけw』
『ニコラ【エキドナ公式】:ラスボス楽しみ~』
『博士も見てるw』
『マドカ【エキドナ公式】:お兄ちゃん頑張って』
『また妹w』
『マドカちゃんお兄ちゃん好きすぎるw』
「……なんか俺よりマドカのほうが楽しんでないか?」
ルーデウスが呟いた。
「それはそうかもな」
クライスが笑った。
そして――
四人は十階へ降りた。
◆
十階。
そこは、それまでの階層より広かった。
静かだ。
「……」
誰も喋らない。
奥から――
ドン。
地面が揺れた。
「……何?」
ビアンカが目を細める。
ドン。
また地面が揺れる。
そして――
巨大な影が現れた。
「……でか」
クライスが呟く。
そこにいたのは、大きな猿だった。
巨大な身体。
鋭い牙。
そして両手には、身体に似合う巨大な一本の棒。
「うおおおお!」
大猿が吠える。
棒を振り上げる。
「来ますわ!」
ビアンカが叫ぶ。
大猿が棒を振り下ろした。
ドゴォン!
地面が大きく揺れる。
「うわっ!」
クライスが飛び退く。
「見た目は怖いな!」
「ですね!」
エジソンも慌てて距離を取る。
「でも――」
ルーデウスが大猿を見る。
「動き、結構分かりやすいぞ」
大猿がまた棒を振る。
横薙ぎ。
四人が一斉に避ける。
「……あ」
クライスが気づく。
「これ、意外と遅いな」
「ですわね」
ビアンカも少し拍子抜けした顔になる。
大猿は再び棒を振り回す。
ドゴン!
「危なっ!」
エジソンが逃げる。
「エジソン、そこじゃない!」
クライスが腕を引っ張る。
「す、すみません!」
『エジソンwww』
『最後まで近距離苦手w』
『ラスボスよりエジソンのほうが危ない』
『大猿「俺よりこいつを殴りたい」』
『マドカ【エキドナ公式】:大きいね』
『そこ!?w』
『マドカちゃん冷静すぎる』
『ラスボス見て大きいねだけw』
『ニコラ【エキドナ公式】:棒が長いね~』
『博士もそこかよw』
『二人とも余裕すぎるw』
「コメント欄が完全に観客になってるな……」
クライスが苦笑する。
「では!」
ビアンカが杖を構える。
「私から行きますわ!」
炎が大猿へ向かって飛ぶ。
大猿が棒を振り回す。
炎が少し散る。
「効いてますわ!」
「じゃあ俺も!」
クライスが走る。
足元へ回り込み、斬撃を入れる。
「よし!」
大猿が吠える。
「グオオオ!」
棒を振り回す。
クライスが後ろへ跳ぶ。
「ルーデウス!」
「分かった!」
ルーデウスが前へ出る。
装備に魔力が流れる。
一撃。
大猿の身体が大きくよろめいた。
「……結構効くな」
「じゃあ僕も!」
エジソンがレーザー銃を構える。
「行きます!」
レーザーが大猿へ直撃する。
「グオオオ!」
大猿がさらによろめく。
「当たった!」
エジソンが喜ぶ。
『エジソン普通に活躍してるw』
『最後はちゃんと決めたな』
『発明品強い』
『本人も戦えるじゃん』
「よし……!」
エジソンが一歩前へ出る。
大猿がこちらを見る。
「……」
「……」
エジソンが固まる。
「やっぱり近いのは無理です!」
逃げた。
「おい!」
クライスが叫ぶ。
『出たwww』
『最後までそれかよw』
『エジソン逃走w』
『でもレーザーは強いから許す』
クライスが笑いながら大猿の攻撃を避ける。
「じゃあ最後は俺たちで!」
「はい!」
ルーデウスが頷く。
ビアンカも杖を構える。
「行きますわ!」
三人の攻撃が同時に入る。
炎。
斬撃。
そして魔法装備による一撃。
大猿は大きくよろめき――
そのまま倒れた。
ドォン……。
静寂。
「……」
「……」
「……終わった?」
エジソンが恐る恐る顔を出す。
「終わったな」
クライスが答える。
「思ったより普通だったな」
ルーデウスが大猿を見る。
「見た目は怖かったですけど」
ビアンカも頷く。
「ええ。かなり大きかったですわね」
『ラスボス撃破!』
『普通に倒したw』
『思ったより弱いw』
『見た目だけは強そうだった』
『でも初心者ダンジョンならこんなもんか』
『大猿かわいそうw』
『エジソンだけ最後まで逃げてたw』
『マドカ【エキドナ公式】:みんなお疲れ様』
『ニコラ【エキドナ公式】:発明品ちゃんと使えてたね~』
「ありがとうございます!」
エジソンがコメント欄へ向かって頭を下げる。
「もっと改良します!」
「お前、まだ改良するのか?」
クライスが笑う。
「もちろんです!」
「いいじゃないか」
ルーデウスも笑った。
「実際、役に立ってたし」
「本当ですか!?」
「ああ」
ルーデウスが頷く。
「遠距離から攻撃できるのは助かった」
「やった!」
エジソンが嬉しそうにする。
「ただし――」
クライスが続ける。
「近距離対策は必要だな」
「……はい」
『そこだけは課題w』
『次回までに近距離対策頼む』
『エジソン専用逃走装置を作ろう』
『それもう発明品なのか?w』
『ニコラ【エキドナ公式】:逃げる用の発明なら作れるんじゃない~?』
「ニコちゃん!?」
エジソンが驚く。
『wwwww』
『博士から逃走用発明の提案w』
『エジソン専用装備きたw』
クライスが笑いながらカメラを見る。
「というわけで!」
「今回は十階まで無事に攻略できました!」
ビアンカが胸を張る。
「発明品も十分実戦で使えることが分かりましたわ!」
「はい!」
エジソンが頷く。
「もっといろんな場所で試したいです!」
「またやるか」
クライスが笑う。
「次はもう少し難しいところでもいいかもな」
「えっ」
ルーデウスが振り返る。
「もう少し難しくするの?」
「もちろんですわ!」
ビアンカが即答した。
「面白くなってきましたもの!」
「……まあ、いいけど」
ルーデウスも苦笑する。
コメント欄も一気に流れていく。
『次回も期待!』
『エジソンの新発明待ってる』
『ビアンカ様また出て』
『クライスさん実況うまかった』
『ルーデウス様も普通に強かった』
『マドカちゃんとニコラ博士もコメントお疲れw』
『現地にいない二人がコメント欄にいるの面白かった』
『次はもっと深いところ行ってくれ!』
『マドカ【エキドナ公式】:お兄ちゃん、お疲れ様』
『ニコラ【エキドナ公式】:ルー君、お疲れ~』
「……ありがとう」
ルーデウスが少し照れながら答える。
「では、本日の配信はここまで!」
クライスが締める。
「皆さん、ご視聴ありがとうございました!」
「ありがとうございましたですわ!」
「ありがとうございました!」
「ありがとうございました」
最後まで元気なビアンカとエジソン。
そして少し疲れたルーデウス。
その様子を見ながら、コメント欄は最後まで盛り上がっていた。
こうして、発明品の実戦テストを兼ねた貴族たちのダンジョン配信は、思った以上の好評のうちに幕を閉じた。




