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落内円は落ちている  作者: 七風


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お兄ちゃんの親友

「なあ、ルーデウス」


「……なんだよ」


「配信しようぜ」


「…………」


 ルーデウスは、目の前の親友を見る。


 嫌な予感しかしない。


「また何かやらかすつもりじゃないだろうな?」


「人聞き悪いな!」


「お前の場合、そういう前置きから始まると、大体ろくなことにならないんだよ」


「今回は違うって」


 クライスは楽しそうに笑う。


「俺、前から配信に興味あったんだよ」


「配信?」


「そう。エキドナのEV配信。最近すげえ人気だろ?」


「ああ……まあ」


 ルーデウスもマドカの配信をよく見ている。


 妹が出ているのだから当然だ。


「そこで思ったんだけどさ」


 クライスが身を乗り出す。


「お前の領地、弱いダンジョンあるだろう?」


「……あるけど」


「そこ攻略配信しようぜ!」


「…………」


 ルーデウスは少し考える。


「お前、大丈夫なのか?」


「何が?」


「いや……そのダンジョン、弱いって言ってもダンジョンだぞ?」


「大丈夫だって!」


 クライスは自信満々だった。


「俺だってそれなりに戦えるし、お前だっているだろ?」


「俺?」


「そうそう」


「……いや、俺はそんなに強くないぞ」


「またまた」


「本当だって」


 ルーデウスは苦笑する。


 自分がどの程度の実力なのかは、本人が一番よく分かっている。


 少なくとも、妹と同じ場所で戦えるような実力ではない。


「それに……」


 ルーデウスは少し言いにくそうに続ける。


「マドカも来るんだろ?」


「え?」


「お前、どうせ呼ぶつもりなんだろ?」


「もちろん」


「…………」


 ルーデウスの顔が微妙になる。


「なんだよ、その顔」


「いや……」


 ルーデウスは頭を抱えた。


「マドカと一緒に行ったら、俺たちの活躍なんて映らないぞ」


「なんで?」


「だって――」


 ルーデウスは真顔になる。


「マドカに、あんな弱いダンジョンなんて……」


 少し考える。


「ぼーっとしてるだけで、モンスターのほうから逃げるぞ?」


「…………」


 クライスが固まった。


「マジ?」


「マジ」


「そこまでなの?」


「そこまで」


「…………」


 クライスはしばらく黙った。


 そして、ぽつり。


「俺が活躍する配信、無理じゃん」


「だから最初から言ってるだろ」


「いや、でもマドカちゃん来るんだろ?」


「来ると思うけど」


「じゃあ無理じゃん!」


「うん」


「お前の妹、強すぎない!?」


「だから俺もそう思ってるって……」


 ルーデウスは遠い目をする。


「俺の妹、すごいんだよ……」


「お前、嬉しそうだな」


「そりゃ妹だからな」


 そう言ってから、ルーデウスは少しだけ笑った。


 だが。


「……でも、俺が一緒に行って足を引っ張ったら嫌だな」


「そこはお前が頑張れよ」


「簡単に言うなよ……」


 クライスは笑う。


「まあいいじゃん。マドカちゃんが全部倒しちゃっても、それはそれで面白いだろ」


「……それ、俺たちの攻略配信じゃなくてマドカの無双配信になるぞ」


「それも見たい人、多いだろ」


「…………」


 ルーデウスは否定できなかった。


 実際、妹の配信は人気がある。


「……まあ」


 ルーデウスは小さく息を吐く。


「マドカが一緒なら、俺も行ってみるか」


「よし!」


 クライスが嬉しそうに笑う。


「決まりだな!」


「ただし」


「ん?」


「絶対に無茶するなよ」


「お前がそれ言う?」


「俺は無茶しない」


「本当か?」


「……たぶん」


「不安だな、おい」


 二人は顔を見合わせる。


 そして――


「とりあえず、マドカちゃんに聞いてみようぜ」


「……うん」


 ルーデウスは少しだけ不安そうに頷いた。


 妹とのダンジョン。


 そして、親友が始めようとしている初めての攻略配信。


 果たしてどうなるのか。


 この時のルーデウスは、まだ知らなかった。


 自分が一番不安な立場になることを。


◆


「マドカ、紹介したい奴がいる」


「はい?」


 ルーデウスに呼ばれて、マドカが部屋に入ってくる。


 そこには、ルーデウスと同年代くらいの青年がいた。


「こちらはクライス。俺の学園時代からの親友だ」


「初めまして、マドカちゃん」


 クライスが笑顔で手を上げる。


 だが、マドカは少しだけ姿勢を正した。


「初めまして。マドカ・ノイティスです」


 丁寧に一礼する。


「兄がお世話になっているようで。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします」


「…………」


 クライスが固まる。


 ルーデウスも固まった。


「……え?」


「……何?」


 マドカが首を傾げる。


「どうしたの?」


「いや……」


 クライスがルーデウスを見る。


「お前の妹、こんな感じなの?」


「……いや」


 ルーデウスは苦笑する。


「今は公爵家の長女モードだな」


「公爵家の長女モード?」


「マドカ」


「はい?」


「クライスは俺の親友だぞ」


「…………」


「そんな畏まらなくていいって」


「……そう?」


 マドカの表情が変わる。


「じゃあ――」


 一瞬。


「クライスさん、こんにちは!」


「うわっ、戻った」


 クライスが吹き出す。


「はははは!」


「え、なに!?」


「いやいや、いいよ。いつも通りで」


 クライスは笑いながら手を振る。


「そのほうがいい。さっきの完璧な貴族様みたいなの、緊張するわ」


「だって一応、公爵家の娘だもん」


「それはそうなんだけどさ」


 クライスは笑う。


「ルーデウスの妹なら、もっと気楽でいいだろ」


「……そっか」


 マドカもほっとしたように笑った。


「じゃあ、クライスさんも普通に話してね」


「もちろん」


「よかった」


 マドカはすっかりいつもの調子に戻る。


 ルーデウスも少し安心したように笑った。


「で、クライス」


「ん?」


「マドカに話したかったんだろ?」


「ああ、そうだった」


 クライスがマドカを見る。


「マドカちゃん。俺も配信してみたいんだけどさ」


「配信?」


「そう。最近エキドナの配信って人気だろ?」


「うん。面白いよね」


「それで、俺も一回やってみたいなって」


「んー……」


 マドカが少し考える。


「クライスさんって、戦闘経験は?」


「えーっと……」


 クライスが少し考える。


「学生の時くらいしかないかな。学園の初級ダンジョンに行ったくらい」


「んー……」


 マドカはルーデウスを見る。


「お兄ちゃん。うちの領地って、どの程度なの?」


「ん?」


「ダンジョン」


「ああ」


 ルーデウスが答える。


「十層が最深部だな」


「十層?」


「確か、初心者冒険者が何とかクリアできるかってレベルだったはず」


「……なるほど」


 マドカは少し考える。


 そして、申し訳なさそうに言った。


「私、行っても意味なくない?」


「え?」


「だって、それなら私、走ってるだけで配信終わりそうだけど」


「それなんだよ!」


 クライスが食いつく。


「マドカがいると、モンスター出てこないんじゃないかってな」


「そんなに?」


「そんなに」


 ルーデウスが頷く。


「三十層とか普通に行ってるからな、お前」


「まあ……」


 マドカは少し考える。


「でも、クライスさんが初めてなら、無理に深いところへ行く必要もないよね」


「いや、俺も活躍したいんだけど」


「うん」


「マドカちゃんが全部倒したら、俺の配信にならないんだよ」


「それはそうだね」


 マドカも真剣に考える。


「……でも十層なら、お兄ちゃんとクライスさんだけでも大丈夫なんじゃない?」


「俺は大丈夫だと思うけど」


 ルーデウスが答える。


「でも俺もそんなに強くないぞ?」


「お兄ちゃんは私が守るからいいじゃん」


「……それはそれで情けないな」


「お兄ちゃんはお兄ちゃんだからいいの」


「妹に守られる兄ってどうなんだよ……」


 ルーデウスが頭を抱える。


 クライスはその二人を見ながら笑っていた。


「なんか、いいな。お前ら兄妹」


「そう?」


「そうそう」


 クライスが少し考える。


「ところで、ルーデウス。学園の仲良しって、俺だけ?」


「他にもいるぜ?」


「へえ」


「腐れ縁みたいな奴もいるし」


「腐れ縁?」


「今、宮廷魔法師やってる奴」


「へえ、すごい人じゃん」


「いや、すごいのはすごいけどな」


 ルーデウスが少し遠い目をする。


「ただ、そいつ……」


「そいつ?」


「よく『オーッホッホ』とか言ってる」


「…………」


 マドカの目が輝いた。


「なにそれ面白そう!」


「そこ食いつくのかよ!」


 ルーデウスが思わず突っ込む。


「だって『オーッホッホ』って言う宮廷魔法師でしょ?」


「そうだけど!」


「会ってみたい!」


「絶対そこだけで判断してるだろ、お前!」


「だって面白そうなんだもん!」


 マドカが楽しそうに笑う。


 クライスも堪えきれずに笑い出した。


「はははっ!」


「クライスさんまで!」


「いや、これは面白いわ」


 ルーデウスはため息をつく。


「……やっぱりこいつに会わせると、ろくなことにならない気がする」


「何言ってるの、お兄ちゃん」


 マドカは楽しそうに笑った。


「その人も一緒に配信したら、絶対面白いじゃん!」


「ほらな」


「何が?」


「こうなるんだよ……」


 ルーデウスは頭を抱えた。


 だが、クライスは嬉しそうだった。


「よし。じゃあまずは十層攻略からだな」


「うん!」


 マドカが頷く。


「でも私がいると本当にすぐ終わっちゃうかもしれないから、そこは考えたほうがいいね」


「……そこが問題なんだよなぁ」


 クライスが苦笑する。


「でも、私、戦わないっていうのはどう?」


「え?」


「お兄ちゃん達の活躍するところ、見たいし」


 マドカが笑う。


「私が戦わなければ、少しは普通の配信になるんじゃない?」


「それは助かる!」


 クライスが即答する。


「じゃあ、誰かもう一人くらい連れていければ――」


「んー……」


 マドカが考える。


「映えそうな人ねぇ」


「映えそうな人って……」


 ルーデウスが苦笑する。


「冒険者を探してるんじゃないのか?」


「配信するんでしょ?」


「まあ、そうだけど」


「だったら面白い人のほうがいいじゃん」


「それはそうだな」


 クライスも考え込む。


「あっ」


「何?」


「ヒラガ一族って知ってるか?」


「ああ」


 マドカがすぐに答える。


「ニコラの実家だったはず」


「そうそう」


 クライスが頷く。


「そこに俺の後輩がいるんだ」


「ニコラさんの弟ってことかな?」


「たぶん……そういうことになるのか?」


 クライスが少し考える。


「十九歳くらいで、メガネかけてて、勉強が好きなやつだったな」


「……へえ」


 マドカが興味深そうに聞く。


「でも、発明品を使いたがってるんだよ」


「それ絶対面白いじゃん!」


 マドカの目が輝いた。


「え?」


「発明品を使いたいんでしょ?」


「うん」


「だったら配信向きじゃん!」


「そうかな?」


「だって、普通の冒険者とは違うことできるかもしれないよ?」


 マドカは楽しそうに笑う。


「お兄ちゃん達が戦って、クライスさんが配信して、その子が発明品使って――」


「俺も配信する側なのか?」


「もちろん」


「いや、俺も戦いたいんだけど」


「そこは頑張って」


「急に雑になったな!?」


 クライスが笑う。


 ルーデウスも呆れたように笑った。


「まあ……でも、面白そうではあるな」


「でしょ?」


 マドカが嬉しそうに頷く。


「じゃあ、その子にも声かけてみようよ!」


「名前は?」


「えーっと……」


 クライスが少し考える。


「確か――」


 そして、ふと思い出したように笑った。


「発明品を見つけると、目を輝かせてた奴だったな」


「ますます面白そう!」


 マドカは完全に乗り気になっていた。


 ルーデウスはそんな妹を見て、少しだけ苦笑する。


「……最初は俺とクライスの配信だったはずなんだけどな」


「いいじゃん、お兄ちゃん」


「よくないとは言ってないけどさ……」


◆


「ニコラって弟いる?」


 マドカが聞く。


「ん~?」


 ニコラが少し考える。


「それ、いとこだね~」


「いとこ?」


「うん~。しばらく会ってないなぁ~」


 ニコラは眠そうに首を傾げる。


「どうしたの~?」


「ん」


 マドカがニコラに事情を説明する。


「お兄ちゃんの親友のクライスさんが、配信で弱いダンジョンの攻略配信をしたいらしくてねー」


「なるほど~」


 ニコラは少し考える。


「でも運動神経なかったはず~」


「やっぱり?」


 クライスが苦笑する。


「発明品を使いたがってるみたいで、その公開場所に配信はどうかなぁって」


「ん~」


 ニコラは少し考える。


「程度による~」


「程度?」


「使えない発明だったら、ルー君に迷惑かけるでしょ~?」


「え?」


 ルーデウスが振り向く。


「俺?」


「ルー君には結構な装備は作ってあげたけど~」


「そうだったな」


 ルーデウスは自分の装備を見る。


 確かに、ニコラに作ってもらったものはかなり性能がいい。


「どんな発明品か、だね」


 ニコラが呟く。


「攻撃力なかったら困るよね」


「まあ、それはそうだな」


 クライスも頷く。


「でも、発明品を使いたいっていうなら、見てみる価値はあるんじゃない?」


「ん~」


 ニコラは少しだけ考えた。


「まあ~、久しぶりに顔見てみるか~」


「いいの?」


「うん~」


 ニコラはいつもの眠そうな顔で頷く。


「その時、みんなと顔合わせしてみようかな」


「みんな?」


 マドカが首を傾げる。


「あと一人いるの?」


「なんか……」


 クライスが少し考える。


「おーっほっほの人だって」


「なにそれ~?」


 ニコラが首を傾げる。


「わかんないw」


「…………」


 ニコラがじっとクライスを見る。


「知らない人を連れてくるの~?」


「いや、俺の学園時代の腐れ縁」


「おーっほっほって言う人?」


「そう」


「なにそれ~」


 ニコラは眠そうなまま、少しだけ笑った。


「面白そうだね~」


 マドカも笑う。


「でしょ?」


 ルーデウスだけが、少し嫌な予感を覚えていた。


「……なんか、どんどん話が大きくなってないか?」


「お兄ちゃん」


「ん?」


「面白そうだからいいじゃん!」


「お前はそればっかりだな……」


 こうして。


 ルーデウスとクライスの小さな攻略配信の計画は、少しずつ形を変えながら、参加者を増やしていくことになった。


 ――まずは、ニコラのいとこ。


 そして、クライスの言う「おーっほっほの人」。


 果たして、どんな配信になるのか。


 この時のルーデウスは、まだ知らなかった。


 自分の周囲に、さらに濃い連中が集まってくることを。


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