姉妹と夕食
夕食の時間。
エキドナの屋敷の食堂には、いつもより少し多くの人が集まっていた。
チヨとナツメも席につき、用意された料理を眺めている。
マドカは二人の向かいに座ると、さっそく口を開いた。
「ねえねえ、チヨさん、ナツメさん」
「ん?」
「和の国って、どんなところなの?」
「……和の国?」
チヨが少し考える。
するとナツメが先に答えた。
「この大陸の上にある小島だよー!」
「小島なんだ」
「うん。人は二千人くらいかな?」
「二千人!?」
マドカが驚く。
「結構少ないんだね」
「島だからね。海があるから漁業が盛んだよ」
ナツメが説明する。
「たまに外国の船が来るけど……たまたまたどり着いたってのが多いみたい」
「たまたま?」
「うん。和の国を目指して来る船なんて、ほとんどないから」
「なるほど……」
ヒナタも話を聞きながら頷く。
「じゃあ、他の国との交流はあまりないんだ?」
「そうだねー。だから他の国からの輸入が期待できないから、自国で完結できるように色々がんばってるよ!」
「へえ……」
マドカが興味深そうに頷く。
「じゃあ、次!」
「次?」
チヨが少し首を傾げる。
「和の国の人って、どんな人が多いの?」
「そうだなー」
ナツメが考える。
「私達姉妹はサムライの家系だけど、全部が全部じゃないね!」
「他は……農業したり、魚捕ったり……」
チヨが少し考えながら補足する。
「普通に暮らしている人も多いよ」
「なるほど」
マドカが頷く。
「でも、刀の御前試合とか人気だよ」
「刀の御前試合?」
「うん。刀は国民的に人気のある武器だから、色々な種類があるね!」
ナツメが楽しそうに話す。
「一番有名なのは国宝備前長船長光かな!」
「……ん?」
マドカが反応した。
「備前長船長光……?」
「そうそう」
「それって……小次郎?」
「え?」
ナツメが固まる。
「え? なんで知ってるの?!」
「いや、なんでって……」
マドカも困った顔をする。
「佐々木小次郎の武器って、そんな感じじゃ?」
「え?!」
ナツメが勢いよくチヨを見る。
「なんでご先祖様の名前、マドカちゃんが知ってるの!?」
「……」
チヨも黙ってマドカを見る。
「マドカ殿……?」
「えーっと……」
マドカが言葉に詰まる。
「まぁまぁ、ナツメよ」
ムサシが落ち着いた声で口を挟む。
「ワシもあとで聞きたいことがある。次を教えておくれ」
「ムサ師匠がそう言うなら……」
ナツメは少し困惑しながらも、話を続ける。
「じゃあ次は食べ物!」
「食べ物!」
マドカの目が輝く。
「なんか納得いかないけど……食べ物かー」
ナツメが苦笑する。
「魚もあるし、米もあるし。私は刺身と天ぷらが好き!」
「私は……」
チヨが少し考える。
「……握り飯に味噌をつけて焼いたの……」
「焼きおにぎり?」
「そういうの」
「醤油もいけるよねー!」
ナツメが言う。
「……マジかー」
マドカがヒナタを見る。
「あるのかー……」
「あるみたいだね」
ヒナタも少し驚いている。
マドカが小声で言う。
「ヒナタ、これ行くしかないんじゃ……」
「そうだね」
ヒナタも頷く。
「マドカちゃん、日本の料理を再現するのが楽になるよね!」
「日本?」
ナツメが反応する。
「ヒナタちゃん、日本って知ってるの?!」
「……あ」
ヒナタが止まる。
マドカも「あ」と声を漏らす。
「まぁまぁ、それもあとであるな……」
ムサシが二人を見る。
「……あとで教えて…?」
チヨも二人をじっと見る。
「なんなの……」
少し考えてから、ぽつりと呟く。
「なんか、和の国のこと知らないって知ってるんじゃないの!?」
「それは最後にまとめさせてくれない?」
マドカが笑って誤魔化す。
「わかったー」
ナツメはまだ気になっている様子だったが、いったん話を戻す。
「他には酒とかどうなのかな?」
「んー」
チヨが少し考える。
「お酒は姉様の方が詳しいかも」
「お酒……」
チヨが少し遠くを見る。
「……米で作ったお酒がおいしい……」
「日本酒か……」
マドカが呟く。
「なんなの!」
ナツメがとうとう声を上げる。
「さっきからマドカちゃん、和の国のこと知りすぎじゃない!?」
「だから最後に!」
「……あとで、ちゃんと聞くからね」
「わかったって!」
マドカが笑う。
そして次の質問へ移る。
「じゃあ、文化!」
「文化かー」
ナツメが考える。
「まず国のトップがお殿様で、その下に将軍がいて……」
「へぇ」
ヒナタが頷く。
「私達の実家は剣術指南役って役目をもらってるかな」
「剣術指南役?」
「うん。お殿様が、こっちでいう領主みたいな立場かな」
「なるほど」
ヒナタが頷く。
「分かりやすいな」
「そして国を守るのがサムライと陰陽師!」
ナツメが続ける。
「陰陽師って?」
「式神っていう、使役したモンスターを従える魔法使いがいるの」
「式神……」
マドカが興味を示す。
「ヒロバトに近い……人型の式神もいるし獣型もいるよ…」
チヨが補足する。
「へえ!かっこいい!」
「モンスター討伐なんかもしてるよ」
「それはこっちの冒険者みたいな感じなのかな?」
「ちょっと違うけど、似てるところはあるかも」
ナツメが頷く。
「それとね!」
「まだあるの?」
マドカが聞く。
「九尾の狐っていう、すごい神獣を祀った神社があるの」
「九尾の狐……」
「そこの巫女様が、なんと尻尾があるの!」
「尻尾!?」
マドカが食いつく。
「九本!」
「九本!?」
「伝説では、人化した九尾様が……」
ナツメが話す。
「子をなして、代々その家系にはたまに出るみたい」
「……」
マドカとヒナタが顔を見合わせる。
「ケモミミ……」
「この世界にいないと思ってた……」
「行くしかないね……」
「何しに?」
ヒナタが呆れたように聞く。
「見に行く!」
「そこは即答なんだ……」
チヨはそんな二人を見ながら、少しだけ首を傾げた。
「……神社、そんなに気になる?」
「めちゃくちゃ気になる!」
マドカが即答する。
「そう……」
チヨは少し考えてから、次の話へ進める。
「じゃあ、次は私達がどうしてここに来たか……かな」
「うん、それ聞きたい!」
マドカが頷く。
「武家では、最終試練として外の国で名を上げろっていうのがあるの」
ナツメが説明する。
「だから今、私達はここにいるの!」
「なるほど」
「和の国には冒険者ギルドがないから、向こうでは冒険者ランクってものはないんだけど……」
「でも、Sランクとかがすごいっていうのは、過去に帰ってきた人の強さでみんな知ってるね」
チヨが続ける。
「冒険者ランクが高いと、いいサムライでもいい身分がもらえるみたい」
「へえ」
「まぁ、それも武家の生まれだけだけど」
ナツメが付け加える。
「私達は子供の頃から強者になるために、モンスター討伐とか剣の修行とかしてたよ!」
「だから二人ともあんなに強いんだ」
マドカが納得する。
「そういうこと」
ナツメが胸を張る。
「じゃあ次!」
マドカが楽しそうに言う。
「和の国には、どんな場所があるの?」
「そうだなー」
ナツメが少し考える。
「一番すごいのは、情報塔より高い滝!」
「情報塔より!?」
「うん。あそこはすごくいい景色」
ナツメが両手を広げる。
「ぶおーって感じ!」
「どんな感じ!?」
マドカが笑う。
「町かぁ……」
チヨが少し考える。
「ここと比べると、田舎くさいねぇ……」
「でも美味しいものはいっぱい!」
ナツメが続ける。
「団子とか、あんみつとか……」
「団子!」
「甘いもの!」
マドカの反応が早い。
「食べたい!」
「マドカちゃん、食べ物ばっかりじゃん」
ヒナタが笑う。
「だって気になるじゃん!」
「まあ、私も気になるけど」
「ヒナタもじゃん!」
二人が笑い合う。
そして最後に、マドカがチヨとナツメを見る。
「じゃあ最後!」
「最後?」
「二人はこれから何がしたいの?」
「んー……」
ナツメが考える。
「まだちゃんとは考えてないけど」
少しだけ考えてから、笑う。
「EVって便利だと思うんだよね!」
「EV?」
「うん。あれって自分の今をみんなに知ってもらえるでしょ?」
「そうだね」
「すごく有名になったりして!」
ナツメが楽しそうに言う。
「まずはダンジョン……」
チヨが小さく頷く。
「……そこで、私達のことを知ってもらえたらいいかな」
「いいね!」
マドカも嬉しそうに頷く。
「じゃあ、ダンジョン一緒に行こうよ!」
「本当?」
「うん!」
ナツメが笑う。
「それなら楽しそう!」
チヨも少し考えてから、頷いた。
「……うん」
食事を続けながら、四人の会話はまだまだ続いていった。
ただ――
「日本」
「佐々木小次郎」
その二つの名前だけは、チヨとナツメの中に強く残っていた。
そしてムサシもまた、何も言わずに二人の様子を見ていた。
その表情には、先ほどまでとは違うものが浮かんでいた。




