ムサシ無茶ぶり
チヨとナツメの実力テストを見終えたムサシは、ギルド職員から告げられた結果を聞いて、しばし黙っていた。
「Fランク……」
やがて深いため息をつき、頭を掻く。
「はぁ……ギルドは思った以上に見る目がないんですなぁ」
『wwwww』 『言ったwww』 『お爺ちゃん辛辣www』 『ギルド職員困ってるぞw』 『正論すぎて草』 『Fはさすがにないw』
コメント欄が一気に笑いで埋まる。
「お、お爺ちゃん……大丈夫なの……?」
ナツメが心配そうにムサシを見ると、ギルドのおっさんは困った顔で口を挟んだ。
「い、いや……規則なので」
「規則?」
ムサシが振り返る。
「はぁ?」
『はぁ?www』 『ムサシwww』 『ギルド職員逃げてw』 『完全に喧嘩売ってるw』 『規則にキレるお爺ちゃん』
「規則ですかな?」
ムサシは腕を組むと、今度はにこやかに笑った。
「そちらは、なりたくもないSに、Cからリゼット様とマドカを飛び級させたというではないか。それも規則なのですかな?」
「…………」
おっさんは完全に返答に困った。
「い、いや……その……まあ、規則ということには……」
「それは結構」
ムサシは頷いた。
「ただ、忘れてもらっては困りますなぁ。そちらには、CからSにするという、普通ならば批難されるような前例がありますな?」
『正論パンチwww』 『そこ持ち出すのかよw』 『ムサシ容赦ねえw』 『ギルドのおっさんかわいそうw』
その横で、チヨがぽつりと呟いた。
「マドカ殿……あのヒロバトの子」
少し考えてから、チヨは続ける。
「強かった……また戦いたい」
『え?』 『マドカ?』 『ヒロバトのマドカってこと?』 『あの幻影と戦ったの!?』 『チヨちゃんマドカ幻影と戦ってたの!?』 『待って、それ相手にあの動きだったの!?』
コメント欄がさらに沸き上がる。
「そうでしょうなぁ」
ムサシは楽しそうに笑った。
「ワシの弟子を相手出来るのは、剣術だと今のところワシだけですな」
「師匠、またそういうことを……」
ガイルが苦笑する。
「いやいや、事実ですぞ」
ムサシはヒロバトでの戦いを思い返す。
「そのマドカと、互角に近いほどの剣術をヒロバトとはいえ繰り広げたのを、ワシは見ておる。面白かった……。だからこそ、こうして配信に誘ったということですな」
『なるほど』 『実力を見た上で誘ったのね』 『そりゃ配信したくなるわ』 『Fランク……?』
「それをFスタート?」
ムサシは再びギルドのおっさんを見る。
「いや、それは登録時の規則で……」
「ほう」
ムサシは隣にいるガイルへ視線を向けた。
「では、このお嬢さん方だけではない。ワシの弟子も、その新人と同じ程度の実力と見るんですかな?」
「…………師匠、それはさすがに……」
『暴論すぎて草』 『でも確かにその通りw』 『ガイルも新人と同じFになるの?』 『実力テストとは』 『ムサシが完全にギルドを詰めにいってるw』 『でも言ってることは分かる』
おっさんは完全に板挟みになっていた。
「いや、その……」
「まあ、職員さんよ。お主が悪いのではない」
ムサシは穏やかな声で言う。
「そういうギルド規則が悪いんであってな?」
「……はい」
「だが、実力も認めないで初めからFという無駄な時間。ワシなら登録せんなぁ」
『wwwww』 『ムサシ完全にギルド批判w』 『この二人にFからやらせるのは確かに勿体ない』 『ギルドのおっさん胃が痛そうw』
ムサシはそこで、配信を見ている者たちにも聞かせるように声を張った。
「この実力で冒険者ランクFですと? 実力もわからないようなら、冒険者ギルドランクなどという制度、やめてしまえばよろしい!」
『wwwwwww』 『暴論www』 『出たwww』 『今日一番の正論と暴論が同時に来たw』 『ムサシ無双』 『でもこの二人Fはおかしいw』
ひとしきり笑ったムサシは、改めてチヨとナツメを見る。
「さて、お嬢さん方。どうするかね?」
するとチヨが少し考えてから、ムサシに尋ねた。
「……お爺ちゃんの弟子になったら、どういう事をするの?」
「そうですなぁ」
ムサシは二人の実力を思い返す。
「お嬢さんたちの実力は、もう最難関ダンジョンのかなり奥地でも問題ないと思うておる。どうじゃ、ガイル?」
「そうですね」
ガイルも二人を見ながら頷いた。
「君たち、故郷でも相当な時間、剣に励んできたのだろう?」
「ふむ……」
チヨは少し考えてから答える。
「私が十九歳。妹が十四歳。実家の道場は五歳から……」
「十年ほどか」
「はい。剣だけでなく、体力づくりもしています」
「やはりな。モンスターとの実戦もしている剣術だと思ったが?」
「そうですねー」
ナツメが答える。
「私達の和の国は、サムライが国に仕える武家となるんですが、冒険者ギルドがないので、サムライの方がモンスター討伐してます。後は道場の仕事もありますけどね!」
『サムライがモンスター討伐するのか』 『和の国めっちゃ気になる』 『冒険者ギルドがない国って珍しいな』 『文化そのものが違うんだな』
「なるほど。ならば基礎は十分ですな」
ムサシは満足そうに頷いた。
「ワシの修行法は、見て覚える」
「見て覚える……」
チヨが呟く。
「……得意」
『チヨちゃん向いてるじゃんw』 『見て覚えるの得意なの強い』 『説明されるより実戦派か』
「おや、それはちょうどよい」
ムサシは笑った。
「ただし、ワシは一切説明はせんよ?」
「え?」
『え?w』 『師匠が説明しないタイプw』 『弟子育成ハードモード』 『でもチヨちゃんには合ってそう』
「見て覚えるのですからな。あとは、ずっと打ち合いです」
「ずっと?」
「何時間でも」
『何時間でも!?』 『スパルタだw』 『剣聖の修行こわい』 『でも強くなりそう』
ガイルが続ける。
「本人の体力づくりもそうだが、モンスター討伐は最近、仕事にもなるダンジョンへ登録せずに潜っている。これはランクなど必要ない」
「冒険者登録しなくていいの?!」
ナツメが目を丸くする。
『登録しなくてもダンジョン行けるの!?』 『じゃあFランク問題そのものが消えるw』 『ムサシさん最初から別ルート提示してて草』 『ギルド涙目』
「まあ、初めから師もギルドに喧嘩を売るつもりはないさ」
ガイルは苦笑しながら説明する。
「最高効率で私たちが指導して、ダンジョンにも通う。そこで得た素材はエキドナが買い取ってくれる。今、私たち二人が所属している――」
そこで少し考え込む。
「ふ……なんだろうな。家族経営のファミリーってやつさ」
「ファミリー……」
ナツメの目が輝いた。
「イイネ……」
『ファミリーwww』 『急にマフィア感』 『でもエキドナってそういうところあるなw』 『二人とも気に入ってるw』
「ムサシさんが直々に教えてもらえる?!」
ナツメが身を乗り出す。
「そうじゃなぁ。ワシが直々に教えてやろう」
『剣聖直伝!?』 『贅沢すぎる』 『この二人、今日すごいことになってない?』
「ただし、ワシは一切説明はせんよ?」
「さっきも言った!」
『ナツメちゃんのツッコミ好きw』 『姉より妹がしっかりしてるw』
「何時間でも打ち合い稽古はしてやれる。そして時間がある時は、ダンジョンで実践ですな!」
「面白そう……」
チヨは素直に興味を示したものの、少し考えてから不安そうに続けた。
「でも……私は人と話すのが遅いって言われる……」
「なんとなく分かるがね」
『今の間が証明してるwww』 『考えてから喋るタイプなんだな』 『かわいい』
チヨが少ししょんぼりすると、ムサシは笑って言った。
「多くは語らない剣士。かっこよくないかね?」
「……かっこいい」
『落ちたw』 『チヨちゃん即納得w』 『剣士としてそれ言われたら弱いw』
チヨの顔が少し明るくなる。
「では決まりですな!」
「まだ決まってないよ、お爺ちゃん!」
ナツメが慌てて止める。
『決まってないwww』 『ナツメちゃん現実担当』 『師匠が勝手に弟子入り確定させてるw』
「それに、リゼット様に弟子候補を連れて来たと言えば、屋敷に住むことは可能であるな」
「それは助かる……」
チヨがほっとした顔をする。
「本当ですか?!」
ナツメも驚いた。
「宿代が、ギルドで仕事しないと駄目だと思ってた!」
『あー、そこも問題だったのか』 『Fランクで依頼こなして宿代稼ぐのは確かに大変』 『エキドナの屋敷なら安心だな』 『話がどんどん決まっていくw』
「よかったね、姉様!」
「……うん」
チヨは嬉しそうに頷いた。
その様子を見ながら、ムサシは満足そうに笑う。
「はっはっは!」
『ムサシさん楽しそうw』 『今日一番得してるのムサシでは?』 『弟子二人ゲットしそうw』 『最初Fランクで荒れてたの忘れそうになるw』




