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落内円は落ちている  作者: 七風


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お母さん 劇に出たい

 なんだかんだで――。


 クリスティーナは、すっかりダンジョン探索を気に入ってしまった。


 マドカたちがダンジョンへ行く日。


「今日も行きますわ!」


「お母さん、今日も来るの?」


「ええ。マドカちゃんとのダンジョン探索、楽しいですもの」


 時間が空いていれば参加する。


 最初は一度きりのつもりだったはずなのに、気がつけばすっかり配信の常連だ。


 そして、クリスティーナが来るとマドカも嬉しそうだった。


「お母さん、今日はどこまで行く?」


「そうですわね。今日は少し遠くまで――」


 そんな二人のやり取りも、今ではすっかり配信のお馴染みになっている。


『最近、お母さんとマドカちゃん一緒にいること多くない?』


『普通に親子みたいになってきたなw』


『クリスティーナ様、完全にダンジョン気に入ってる』


『マドカもお母さん来ると嬉しそう』


『この二人のダンジョン回好きだわ』


 そんな声も増えていた。


 そして、ある日のエキドナ。


 この日は劇の企画について話し合うため、配信はしていなかった。


 集まっているのは、マドカ、アリシア、ナナリー、リゼット、ヒナタ、そしてクリスティーナ。


 すでに劇の大まかな内容は決まっている。


 そんな話し合いの中で――。


「そうですわ」


 クリスティーナが、ぽんと手を叩いた。


「劇を作るのでしょう?」


「うん。今、その話をしてるところ」


「でしたら――」


 クリスティーナは、当然のように言った。


「私がお母さん役で劇に出ましょう」


「え?!」


 マドカが目を丸くする。


「お母さんが?」


「そうですわ」


 クリスティーナはにっこり笑った。


「マドカちゃんが劇の中で家出した貴族の娘になって、冒険者をしているのでしょう?」


「うん」


「でしたら、その娘を探して旅をしている母親という役はどうですの?」


「……なるほど」


 マドカが少し考える。


「もしものゴールなら、ありえるんじゃない?」


「そうでしょう?」


 クリスティーナは楽しそうだ。


「娘を探してゴールまで来るんですわ」


「じゃあ、ゴールで私を見つけるみたいな話にして――」


 マドカも話に乗っていく。


「でも、娘が楽しそうに冒険者をやってたら、お母さんも途中で認める感じがいいんじゃない?」


「まあ、それは素敵ですわ」


「最後は……」


 マドカが少し考える。


「『仕方ないから、たまにでいいので帰っていらっしゃい』って言うのは?」


「まあ!」


 クリスティーナの顔がぱっと明るくなる。


「それ、とても良いですわ!」


「でしょ?」


「娘が自分の人生を楽しんでいるなら、それを無理に変えさせる必要はありませんもの」


「じゃあ、それでいこう」


 クリスティーナはすっかり乗り気になっていた。


 だが――。


「ただね、お母さん」


「はい?」


「大体の役割はもう決まってるの」


「あら」


 クリスティーナが少し驚く。


「では、どんな物語なんですの?」


「えーっとね」


 マドカが説明を始める。


「私たちトライアングルと、ライバルパーティーのガブちゃんたち、モンバト部がパーティーを組んでて、どっちが先にSクラスにいけるかっていう競争がテーマなんだ」


「なるほど」


 クリスティーナは頷く。


「ガブリエルがライバルなのですね」


「うん」


 そこでクリスティーナが、ふっと笑った。


「ふっ。ガブリエルではマドカちゃんに勝てませんわね」


「まぁ、そうなんだけど劇だからさ!」


 アリシアが小さく笑う。


 ナナリーも楽しそうに二人の会話を聞いていた。


「それで、劇に出るのは実際の本人役なんだけど、職業が違うの」


 クリスティーナが興味深そうに身を乗り出す。


「では、エキドナでのマドカちゃんとは違う人生を送っているということですの?」


「そうそう」


「マドカちゃんがエキドナをしていない世界なのですね」


「うん。トライアングルの三人で冒険者をする話」


 マドカが続ける。


「歌ったり踊ったりも披露しながら冒険者をしてる、人気パーティーって設定」


「なるほど。それはおいしい設定ですわね」


「でしょ?いろんなイベントをやりながら、エキドナのみんなも他の職業をして町と関わってるの」


「私はギルドマスター役ね」


 リゼットが軽く補足する。


「うん。ギルドで冒険者たちと関わる役」


「私は薬屋さんだから、冒険者が薬を買いに来たりする場面に出る感じだね」


 ヒナタも続ける。


「エレノアは領主役みたいな感じかな」


「まあ。皆さん、それぞれ違う立場になるのですね」


「そう」


 マドカが頷く。


「そして物語の終盤には、ダンジョンからモンスターが溢れる」


「危険ではないのです?」


 クリスティーナが少し心配そうに聞く。


「モンスターをテイムするわけではないのでしょう?」


「そこはモンバトでモンスターを出すんだ!偽物だから怪我しないしね!」


「さすがマドカちゃんですわ。そこまで考えていたのですね」


「えへへ、それで、トライアングルとガブちゃんたちがダンジョンへ向かうんだよ」


 マドカが話を続ける。


「町のみんなも、それぞれ町の防衛で活躍するんだ!」


「それは賑やかになりそうですわね」


「うん。それで終わる予定」


 マドカが少し考える。


「大体二時間くらいで終わらせたいから、所々カットでいきたいんだよねー」


「まあ……そんなに短いのですか?」


「一回だけ情報塔で流して、あとは映像結晶を買ってもらうの」


「外で大きい画面で見たい人もいるから、二時間が限度じゃないかなって」


「なるほど」


 クリスティーナが頷く。


 すると――。


「マドカ」


「何? お姉ちゃん」


「今の脚本ではニ時間に収まらないわ」


「……え?」


 マドカが固まる。


「今の内容だけでも、二時間ではかなり厳しいでしょう」


「……確かに、じゃあ、所々カットして――」


「連続販売で構成してみたらいいんじゃないかしら」


 リゼットが言った。


「連続販売?」


「ええ。二時間で終わるか分からない物語を、最初から一本にまとめる必要はないでしょう?」


「なるほど……」


「まず第一話だけ公開するのよ」


「うんうん」


「そして、その続きは次の映像結晶として販売する」


 リゼットは淡々と続ける。


「第一話の続きは、公開しない。続きが見たい方には第二話を買ってもらうのよ」


「なるほどなるほど……」


 マドカがしばらく考える。


 そして――。


「ロードオブザリングかよ!」


「ぷっ!」


 ヒナタが吹き出した。


「そこに行くんだ」


 ナナリーも笑う。


「でも、それなら一話ごとの長さは二時間以内にできるね」


「うん」


 アリシアも頷く。


「劇を無理に一本に詰め込む必要もなくなる」


「そうそう!」


 マドカが嬉しそうに笑った。


 クリスティーナも楽しそうに頷いている。


「まあ、続きが気になるところで終わらせるというのも、面白そうですわね」


「お母さん、劇そのものより販売方法のほうが楽しそうじゃない?」


「そんなことありませんわ」


 クリスティーナは笑顔のまま答えた。


「ただ――」


「ただ?」


「続きが気になるところで終わらせるというのは、少々楽しそうですわね」


「やっぱり楽しんでるじゃん!」


 部屋に笑い声が広がった。


 こうして――。


 クリスティーナの出演も決まり、劇の大まかな形はさらに固まっていった。


 あとは、実際に台本を作っていくだけだ。


「じゃあ、まずは台本だね!」


 マドカが立ち上がる。


「お母さん役、任せてくださいませ」


「そこはもう決定なんだ……」


 ヒナタが笑う。


「当然ですわ」


 クリスティーナは胸を張った。


「せっかくですもの。娘を探す母親を、最後までしっかり演じますわよ」


 こうして、劇作りは本格的に始まることになった。


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