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落内円は落ちている  作者: 七風


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321/555

お母さん ダンジョンを再開する

 六層。


 七層。


 八層。


 九層。


 階層が進むたび、クリスティーナの動きはさらに洗練されていった。


「そこですわ!」


 氷の弾丸がモンスターを吹き飛ばす。


「こちらも!」


 魔法陣が展開され、逃げようとしたモンスターの足元が凍りつく。


「おおー!」


 マドカが楽しそうに声を上げる。


「お母さん、かっこいい!」


「ふふ。ありがとうございます」


『お母さん無双w』


『もう完全に慣れてるな』


『初見六層からこの動きはすごい』


『前回のクリスティーナ様とは別人』


『レベルもかなり上がってそう』


 そして――。


 十層への道を進んでいたマドカが、突然足を止めた。


「……あ」


「どうしたの?」


 クリスティーナが聞く。


「なんかある」


 前方。


 そこには、これまでの階層では見たことのない巨大な扉があった。


「……」


 マドカがじっと見る。


「こんなの、前はなかったよね」


「ええ」


 ヒナタも扉を見る。


「私も見たことないなー」


「階層主でしょうね」


 リゼットが淡々と答える。


「たぶん、あいつの仕業ね」


「最近、冒険者もこの辺りまで来られるようになったからでしょう」


「なるほど」


 マドカが頷く。


「追加されたやつかー」


 クリスティーナは三人の会話を聞いていた。


 そして――。


「……ああ」


 少しして、扉を見る。


「分かりましたわ」


『え?』


『何が分かったの?』


『クリスティーナ様も理解した!?』


『あいつって誰だよw』


 マドカがカメラを見る。


「それは質問には答えないよ?」


『なんでw』


『気になるw』


「三十層まで行けば分かる情報だからね!」


『三十層!?』


『また30層基準かよw』


『10層でその会話するなw』


 クリスティーナが少しだけ笑う。


「では――」


 魔法銃を構える。


「ここは私が仕留めますわね」


「お母さん一人で?」


「ええ」


 クリスティーナは巨大な扉を見る。


「ここまで来たのですもの」


 そして、少しだけ得意そうに笑った。


「私も、もうすぐレベル五十ですわ」


「うん!」


 マドカが嬉しそうに頷く。


「じゃあ、お母さんに任せよう!」


『クリスティーナ様ソロ!?』


『いけるのか?』


『ここまでの感じなら余裕そう』


『でも階層主だぞ』


『初見冒険者には結構きつそう』


『新しく配置されたボスならなおさらだな』


 巨大な扉が開く。


 ズン……。


 重い足音が響いた。


「……」


 姿を現したのは、巨大なオーガだった。


「オーガっぽいね」


 マドカが呟く。


「豚の次はオーガかー」


 ヒナタも魔物を見る。


「ふふ。これも定番だね」


『オーガ!?』


『10層の階層主か』


『これ初見パーティーだと普通に危ないやつじゃね?』


『新規配置なら情報もないしな』


『見た目はめっちゃ強そう』


 オーガが咆哮する。


 ――グオオオオオッ!


 広間が震える。


 それでも。


 クリスティーナは動かなかった。


「……」


 オーガをじっと見つめる。


「……あら」


 そして、少し首を傾げた。


「思ったより――」


 魔法銃を構える。


「見掛け倒しですわね」


『www』


『言ったw』


『お母さん強気w』


『これは期待』


『オーガさん、完全に舐められてます』


 クリスティーナの魔法銃、その銃口に――。


 これまでとは明らかに違う巨大な魔法陣が展開された。


 青白い光が十層の広間を照らす。


「……!」


 マドカが目を輝かせる。


「お母さん、あれ使うんだ!」


「ええ」


 クリスティーナが微笑む。


「まだ、皆さんにはお見せしていませんでしたもの」


『え!?』


『新技!?』


『初公開きた!』


『クリスティーナ様の新魔法!?』


『これは見たい』


 オーガが咆哮し、突進する。


 地面が大きく揺れる。


 しかし――。


 クリスティーナは一歩も動かなかった。


 静かに、引き金へ指をかける。


「――氷よ」


 次の瞬間。


 巨大な魔法陣が激しく輝いた。


 無数の氷槍が一斉に放たれる。


 ――ズドドドドドッ!!


 氷の奔流がオーガへ殺到する。


 腕。


 脚。


 胴体。


 巨大な氷槍が次々と突き刺さり、オーガの巨体を瞬く間に氷で覆っていく。


「……!」


 マドカが目を輝かせる。


「すごーい!」


『うおおおお!』


『派手だ!』


『これが未公開魔法か!』


『めちゃくちゃかっこいい!』


『オーガが何もできてないw』


『クリスティーナ様つよw』


 そして最後に――。


 クリスティーナがもう一度、引き金を引いた。


 巨大な氷塊がオーガを完全に包み込む。


 ――パキィン!


 氷が砕ける。


 巨体が、そのまま崩れ落ちた。


「……」


 静寂。


「……終わった?」


 マドカが目を丸くする。


「終わりましたわ」


 クリスティーナが魔法銃を下ろした。


「お母さん、かっこいい!」


『え?』


『終わったw』


『階層主一瞬!?』


『クリスティーナ様強すぎるw』


『まだ初見10層だよな?』


『オーガさんかわいそう』


『初見冒険者にはきついボスなのにw』


『エキドナ基準だとザコだった』


 クリスティーナはステータスを確認する。


「……あら」


「どうしたの?」


「レベルが――」


 少し笑う。


「五十になりましたわ」


「やった!」


 マドカが飛び跳ねる。


「お母さん、目標達成!」


「ええ」


 クリスティーナも嬉しそうに頷く。


「今回の目標は達成できましたわね」


 そして、倒れたオーガを見る。


「……」


 少し考えてから、マドカを見る。


「では――」


「ん?」


「もう少し続けます?」


『お?』


『まだ行くの!?』


『クリスティーナ様やる気満々w』


 マドカは少し考えてから笑った。


「今日は帰ろう?」


「そうですの?」


「うん。今日は皆でお茶を楽しもうよ!」


「ああ、それならいいねー」


 ヒナタも頷く。


「今日は結構進んだわね」


 リゼットも微笑む。


「そうね。十層まで来たのなら十分よ?」


「……では」


 クリスティーナが少し残念そうにしながらも頷く。


「今日はここまでにしましょうか」


「うん!」


 マドカが頷く。


「それに、十層で魔法陣の登録もしたからね!」


「あ」


 クリスティーナが思い出したように顔を上げる。


「そういえば、そうでしたわね」


「次に来るときは、十層の入り口から始められるよ!」


「なるほど」


 クリスティーナが納得する。


「それなら、次回は最初の五層を走らなくてもいいのですわね?」


「うん!」


「……」


 クリスティーナがほっと息を吐く。


「それは良かったですわ……」


『wwwww』


『そこ!?』


『今日一番嬉しそうw』


『五層ダッシュが一番の敵だった』


『クリスティーナ様お疲れ様でしたw』


『次回は10層からか』


『続きが楽しみ』


 マドカがカメラを見る。


「じゃあ、今日はここまで!」


「ご視聴ありがとうございました」


 クリスティーナもカメラへ向かって微笑む。


「それでは皆さん――」


 優雅に一礼して。


「ごきげんよう」


『ごきげんよう!』


『お疲れ様でした!』


『今日も面白かったw』


『クリスティーナ様また来てくれ!』


『次回10層から楽しみ!』


 こうして――。


 クリスティーナの二度目のダンジョン探索は、十層の階層主を倒し、レベル五十へ到達したところで終了した。


 そして彼女はまだ知らない。


 エキドナにとって、この先こそが――本当のダンジョン探索になることを。


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