お母さんムサシから教わる
その日の夜。
エキドナの屋敷では、いつものようにそれぞれが自由に過ごしていた。
クリスティーナは今日のダンジョン探索で使った魔法銃を眺めながら、もう少し扱いに慣れなければと思っていた。
「……魔法銃というのも、なかなか便利ですわね」
「でしょ?」
マドカが嬉しそうに答える。
「お母さん、今日すごかったよ!」
「ありがとうございます」
クリスティーナが笑う。
「ですが――」
そこへ、少し離れた場所から声がした。
「ぬるいことをしておりますなぁ、夫人!」
「……?」
クリスティーナが振り返る。
そこにいたのはムサシだった。
「ぬるい……?」
「ええ!」
ムサシは楽しそうに笑っている。
「せっかく魔力もあり、魔法銃も扱えるというのに、それだけではもったいない!」
「ムサシ?何するの?」
「夫人に剣を教えようと思いましてな!」
「私に?」
クリスティーナが目を丸くする。
「ええ、もちろん、本格的な修行などではありませんぞ。簡単な剣の扱い方だけです」
「剣……」
クリスティーナが考える。
「私、剣はほとんど使ったことがありませんわ」
「だからこそです!」
ムサシが嬉しそうに言う。
「魔法銃を使えるのであれば、近距離での護身用に剣を覚えておくのも悪くありませんぞ」
「確かに」
リゼットも頷いた。
「クリスティーナは魔法が得意だけれど、接近された時の選択肢が増えるのは悪くないわね」
「そうでしょう!」
ムサシが勢いよく頷く。
「では、こちらを」
ムサシが訓練用の剣を一本取り出す。
「持ってみてくだされ」
クリスティーナは剣を受け取った。
「……意外と重いですわね」
「最初はそれで十分です」
「どう構えるんですの?」
「まずは――」
ムサシがクリスティーナの立ち方を確認する。
「足をこう。肩の力を抜いてくだされ」
「こうですか?」
「ええ」
クリスティーナが姿勢を変える。
「……なるほど」
マドカが横から覗き込む。
「お母さん、似合ってる!」
「そうですか?」
「うん! なんか強そう!」
「ふふ。ありがとうございます」
ムサシは満足そうに頷いた。
「では、まずは一歩」
「一歩?」
「剣を振るよりも、足です」
クリスティーナが言われた通りに踏み込む。
シュッ。
「……」
ムサシが目を細める。
「ほう」
「どうしました?」
「やはり筋がいいですな」
「そうなの?」
マドカが聞く。
「ええ。身体の使い方が素直です」
ムサシはクリスティーナを見る。
「これは少し教えれば、すぐ形になるでしょう」
「本当ですの?」
「もちろん!」
クリスティーナは少し嬉しそうに笑った。
「でしたら、もう少し教えていただいても?」
「喜んで!」
ムサシの目が輝く。
「では――」
「ちょっと待って」
マドカが割って入る。
「ムサシ、簡単って言ったよね?」
「……」
「なんか顔が楽しそうだけど」
「簡単な剣ですぞ?」
「本当に?」
「本当に!」
ムサシは胸を張る。
「基本だけです」
「ならいいか」
マドカが頷く。
クリスティーナも剣を構え直した。
「では、もう一度」
ムサシが構えを示す。
「踏み込みから、斬る」
クリスティーナが動く。
一歩。
そして――。
「えいっ」
剣が振り下ろされる。
「おお!」
マドカが声を上げた。
「いい感じ!」
「でしょう?」
クリスティーナも少し楽しそうだ。
「剣というのも面白いものですわね」
その時だった。
マドカが突然、何かを思いついたように顔を上げた。
「ねぇ」
「何かしら?」
「剣も魔法を使えばいいんじゃない?」
「魔法を?」
「うん!」
マドカが目を輝かせる。
「魔法剣!」
「魔法剣……」
クリスティーナが剣を見る。
「それは――」
ムサシが笑った。
「できますぞ」
「本当に!?」
マドカが食いつく。
「ええ。魔力を剣へ流し、刃に属性を纏わせるのです」
「かっこいい!」
マドカが嬉しそうに笑う。
「お母さん、やってみよう!」
「私がですの?」
「うん!」
「ですが、私は氷魔法しか――」
「だからいいんじゃん!」
マドカが楽しそうに言う。
「氷の魔法剣!」
「……」
クリスティーナが剣を見る。
「氷を纏わせる……」
「ええ」
ムサシが頷く。
「まずは魔力を剣へ流してみましょう」
「分かりましたわ」
クリスティーナが目を閉じる。
魔力を剣へ流す。
すると――。
刀身の周囲に、薄い氷が生まれた。
「おお……」
マドカが目を輝かせる。
「できた!」
クリスティーナも驚いたように剣を見る。
「……綺麗ですわ」
「魔法剣ですな」
ムサシが満足そうに頷く。
「夫人、これはなかなか良いですぞ」
「ありがとうございます」
「では、もう少し魔力を――」
「ちょっと待ってください」
クリスティーナが苦笑する。
「これ以上は、本当に『簡単な剣』の範囲を超えてしまいませんか?」
「……」
ムサシが少し考える。
「確かに」
「ムサシ、絶対楽しくなってたでしょ?」
マドカが笑う。
「……否定はしませんな」
「やっぱり!」
クリスティーナも思わず笑った。
「でも――」
もう一度、氷を纏った剣を見る。
「魔法銃とは違う楽しさがありますわね」
「でしょう?」
マドカが嬉しそうに笑う。
「魔法剣、かっこいい!」
その言葉に、クリスティーナも小さく笑った。
「では、もう少しだけ教えていただけます?」
「もちろんですとも!」
ムサシが嬉しそうに答える。
「ただし、簡単なところまでですぞ!」
「本当?」
「……たぶん!」
「それ絶対信用できないやつ!」
マドカの声が、訓練場に響いた。




