オーク肉いっぱい
五層を進んでしばらくすると――。
「……あら?」
クリスティーナが足を止めた。
「どうしたの?」
マドカが振り返る。
「何か、聞こえません?」
遠くから、低い唸り声のようなものが聞こえてくる。
「ブモォ……」
「……オーク?」
ヒナタが耳を澄ます。
「うん。しかも、かなりいるね」
四人が少し進む。
木々の向こうが開けた。
そこにあったのは――。
「……集落?」
クリスティーナが目を丸くした。
粗末な柵。
木で組まれた建物。
そして、その周囲を歩き回る大量のオーク。
「一、二……」
マドカが数え始める。
「多いね」
「……多すぎません?」
クリスティーナが少し引き気味に呟く。
ざっと見ただけでも、数十体。
奥にもまだいる。
「全部で八十匹くらいかしら」
リゼットが淡々と答えた。
『八十!?』
『五層にそんな集落あるのかよ』
『普通に村じゃん』
『オーク多すぎw』
『これどうするんだ?』
クリスティーナは魔法銃を構えた。
「……一匹ずつ撃つのですわよね?」
「んー」
マドカが集落を見る。
「八十匹いるよ?」
「……」
「一匹ずつは面倒じゃない?」
「それは……そうですわね」
クリスティーナが少し考える。
その時だった。
「ブモォォォォォッ!!」
一体のオークが四人を発見した。
「見つかった!」
マドカが笑う。
次の瞬間。
「ブモォォォォッ!」
「ブモォ!」
「ブモォォォ!」
集落中のオークが一斉にこちらを向いた。
そして――。
「来ますわね」
クリスティーナが魔法銃を構える。
数十体のオークが、一斉に走り出した。
『うわあああ』
『多い多いw』
『八十匹ってこういうことかよ』
『これはさすがに夫人でも大変じゃね?』
『ルー:お母さん!? 大丈夫なの!?』
『ルー:なんで五層でこんな数のオークに囲まれてるの!?』
『ルー:マドカ、母さんを守って!』
「ルーデウスお兄ちゃん、ずっと心配してるね」
マドカがコメントを見て笑う。
『ルー:笑ってる場合じゃないよ!』
『ルー:母さん、無理しないで!』
『ルー:今からそっちに行った方がいい!?』
「ふふ」
クリスティーナも少し笑った。
「心配してくれているようですわね」
『ルー:当然だよ!』
『ルー:初ダンジョンでオーク八十匹って普通じゃないから!』
「まあ、でも――」
クリスティーナが前を見る。
「これなら、少し試してみたい魔法がありますわ」
「おお!」
マドカの目が輝いた。
「何するの?」
「氷魔法ですわ」
「見たい!」
『ルー:待って、氷魔法!?』
『ルー:母さん、魔法使えるの!?』
『ルー:いや、そういう話じゃなくて数が多すぎるって!』
オークが迫る。
クリスティーナは魔法銃を腰へ戻した。
そして、両手を前へ出す。
「……少し、広い範囲で使ってみましょう」
周囲の空気が一気に冷たくなる。
「お母さん?」
マドカが目を輝かせる。
「魔力、すごいよ!」
「ええ」
クリスティーナは集中する。
地面に淡い青色の魔法陣が広がっていく。
「中級氷魔法――」
一拍。
「**氷結牢獄**」
瞬間。
地面から無数の氷柱が突き出した。
オークたちの足元を囲む。
「ブモッ!?」
氷が一気にせり上がる。
前方。
左右。
後方。
逃げ道を塞ぐように氷の壁が伸びていく。
「ブモォォォッ!?」
そして――。
パキィン!
八十体近いオークが、一斉に氷の中へ閉じ込められた。
巨大な氷の塊が、集落の中央に出現する。
「…………」
「…………」
「…………」
しばらく、誰も喋らなかった。
『…………』
『…………』
『…………』
『え?』
『一発?』
『八十匹まとめて?』
『氷結牢獄ってそういう魔法!?』
『中級!?』
『これが中級!?』
『ルー:え?』
『ルー:え?』
『ルー:マジで?』
『ルー:母さん、今の中級魔法なの!?』
「……」
クリスティーナ自身も、巨大な氷の塊を見つめていた。
「……凍りましたわね」
「凍ったね!」
マドカが嬉しそうに笑う。
「すごい!」
「私も、ここまで一度に凍るとは思いませんでしたわ」
『ルー:いやいやいや!』
『ルー:母さん、それ普通じゃないから!』
『ルー:中級魔法で八十匹まとめて凍らせるの!?』
『ルー:マドカ、ちゃんと見てて! 絶対に普通じゃないから!』
「でも、すごく綺麗だね」
マドカが氷の塊を眺める。
「うん」
クリスティーナも少し嬉しそうに笑った。
「氷魔法は、こういう使い方もできるのですわね」
「お母さん、魔法の才能あるんじゃない?」
「そうかもしれませんわ」
クリスティーナは少しだけ胸を張った。
『ルー:才能どころじゃないよ!』
『ルー:母さん、絶対自分の魔力の規模分かってないでしょ!?』
『ルー:お願いだから無茶しないで!』
「ルーデウス、ずっと心配してるね」
「愛されていますわね」
クリスティーナが嬉しそうに笑った。
「ふふ」
リゼットもコメント欄を眺める。
「まあ、心配するのも分かるわね」
「お姉ちゃんも?」
「ええ。あなた達は平気でしょうけど――」
リゼットが氷の塊を見る。
「初めて来た人間からすれば、かなり怖い光景でしょう」
「そうだね」
マドカが頷く。
「でも、これで終わり?」
「ええ」
クリスティーナが答える。
「では、素材を回収しましょうか」
「オーク肉!」
ヒナタが嬉しそうに声を上げた。
「今日は大量だね!」
「そうですわね」
クリスティーナが氷の塊を見る。
「……全部で八十匹でしたわよね?」
「うん」
「では、全部いただきましょう」
リゼットが前へ出る。
「え?」
マドカが振り返る。
「私が収納するわ」
「お姉ちゃん、インベントリ?」
「ええ」
リゼットが手を伸ばす。
氷が消える。
その中に閉じ込められていたオークも――。
まとめて消えた。
「…………」
『…………』
『…………』
『おい』
『なんだよあの量消えたぞ!?』
『八十匹全部消えた!?』
『待って待ってw』
『オークの集落が一瞬で消滅したw』
「インベントリよ?」
リゼットが不思議そうに答える。
「そこまで驚くほどのことでもないでしょう?」
『いや驚くだろwww』
『八十匹だぞ!?』
『そんな量どこに入ってんだよ!』
『冷凍庫みたいに入れてるのか?』
「これだから規格外は……」
コメント欄が一斉に流れていく。
『夫人→八十匹まとめて凍らせる』
『リゼット→八十匹まとめて収納』
『マドカ→それを普通だと思ってる』
『ヒナタ→肉の心配』
『役割分担が完成されすぎてるw』
『ルー:母さんが心配で見に来たら、八十匹のオークが消えてた』
『ルー:どういうことなの!?』
「お兄ちゃん、大丈夫だよー」
マドカがコメントに返す。
『ルー:大丈夫なのは分かってる!』
『ルー:でも何が起きてるの!?』
「お母さんが凍らせて、お姉ちゃんがしまった」
『ルー:…………』
『ルー:分かった』
『ルー:分かったけど、分かりたくない』
「ふふ」
クリスティーナが笑う。
「では、そろそろ帰りましょうか?」
「うん!」
「お肉も十分確保できたしねー」
ヒナタも満足そうに頷いた。
「今日は大収穫!」
こうして――。
クリスティーナの初めてのダンジョン探索は、五層のオーク集落を丸ごと制圧するという、予想以上の結果を残して終わることになった。




