お母さん無双
「……さくさくですわね」
しばらく歩いたところで、クリスティーナがぽつりと呟いた。
目の前には、倒されたモンスターが何体も転がっている。
「こんなものよ」
マドカが何でもないことのように答える。
「あなたのレベルは三十って言ったでしょう?」
「ええ」
「それなら、一層から五層くらいなら普通に進めるわ」
リゼットも淡々と続ける。
「それに、あなたは魔力Aでしょう?」
「そうですわね」
クリスティーナが魔法銃を見る。
「この銃のおかげもあるのでしょうけれど……」
「それだけじゃないよ!」
マドカが嬉しそうに言う。
「お母さんの魔力がすごいんだよ!」
「ふふ。そう言ってもらえると嬉しいですわ」
クリスティーナは少し得意そうに笑った。
「私達も、エレノアとブリジットがレベル70程度の頃に二十層まで行ったけれど、そこまで苦労しなかったわね」
リゼットが昔を思い出すように続ける。
「もちろん、今のエキドナと比べれば当時は大変だったけれど」
「二十層まで?」
クリスティーナが目を丸くする。
「ええ」
リゼットが頷く。
「ただ、他の冒険者がどの程度のレベルで、どこまで行けるのかまでは知らないわ」
『出たw』
『また基準を知らないw』
『エレノアさんとブリジットさん、70で20層!?』
『それを「そこまで苦労しなかった」って言うの怖い』
『クリスティーナ様の感覚が一番まともだw』
「でも、これなら五層は本当に余裕そうですわね」
クリスティーナが魔法銃を見る。
「最初は少し不安でしたけれど」
「ね!」
マドカが笑う。
「だから言ったじゃん。お母さん強いよ!」
「ええ。どうやらそのようですわ」
クリスティーナも楽しそうに笑った。
「では、もう少し先へ進みましょうか」
「うん!」
四人はそのまま、五層を目指して進んでいった。
そこから先は、驚くほど順調だった。
クリスティーナが魔法銃を構える。
魔力を込める。
撃つ。
それだけ。
モンスターが倒れる。
また撃つ。
また倒れる。
五層へ向かう道中、戦闘らしい戦闘はほとんど発生しなかった。
『……』
『……』
『……』
『夫人強くね?』
『いや最初から強いって言われてたけどさ』
『思ってたよりだいぶ強い』
『一発の威力おかしくない?』
『魔法銃ってあんな威力出るもんなの?』
『いや、たぶんクリスティーナ様の魔力がおかしい』
「ふふ」
クリスティーナは少し嬉しそうに笑う。
「なんだか褒められていますわね」
「お母さん、強いもん!」
マドカが当然のように答える。
「私達も最初はびっくりしたわよ」
リゼットも苦笑する。
「魔力Aなんて、そうそういないもの」
『魔力Aってそんなに珍しいの?』
『この世界のAランクって何だよ』
『ステータスの基準が分からんw』
「しかも――」
コメント欄を見ていたヒナタが口を挟む。
「クリスティーナ様、まだかなり余裕がありますよね?」
「ええ」
クリスティーナは魔法銃を確認する。
「正直、こんなに簡単だとは思っていませんでしたわ」
『余裕なのかよw』
『初ダンジョンだよね?』
『完全に観光になってる』
『マドカ達が連れてきた新人が一番強そうなんだがw』
『新人(公爵夫人)』
「でも、魔力を使っているなら疲れないの?」
マドカが尋ねる。
「まだ大丈夫ですわ」
「魔力切れには気をつけてねー」
ヒナタが言う。
「まあ、この辺ならそんな心配ないと思うけど」
『ヒナタさんの扱いが完全に「五層までの引率」なんだよなw』
『最難関ダンジョンなのに』
『一層から五層が遠足コースになってる』
やがて――。
「見えてきましたわ」
クリスティーナが前方を見る。
「五層への階段ですね」
『五層到着!』
『早すぎるw』
『戦闘ほぼ夫人の射撃だけじゃん』
『今日の配信タイトル「お母さん無双」だろこれ』
「どうする?」
マドカが聞く。
「せっかくだから、五層も少し見てみる?」
「そうですわね」
クリスティーナが頷く。
「ここまで来たのですから、もう少しだけ挑戦してみたいですわ」
『まだ行くの!?』
『夫人ノリノリじゃんw』
『初ダンジョンで五層突破しそう』
「じゃあ、五層のモンスターも見てみようか」
マドカが楽しそうに笑う。
「うん!」
四人は、そのまま五層へ降りていった。




