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落内円は落ちている  作者: 七風


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お母さんダンジョン配信

「……あ!」


 マドカが突然、顔を上げた。


「どうしたの?」


 リゼットが尋ねる。


「配信しよう!」


「配信?」


「うん!」


 マドカがEVを取り出す。


「お母さん、冒険者デビュー!」


「ちょっと待ってくださいませ」


 クリスティーナが苦笑する。


「私、冒険者ではありませんわよ?」


「え?」


「冒険者登録をしていませんもの」


「あ」


「ですが、何かダンジョンに入ってはいけない理由でもあるのですか?」


「特にないですねー」


 ヒナタが答える。


「行きたければ行ってもいいんですよ?」


「そうなのですか?」


「ええ」


 リゼットも頷く。


「ダンジョンへ入るのに、冒険者登録が必須というわけではないわ」


「なるほど……」


 クリスティーナが納得したように頷く。


「それなら、今回は冒険者ではなく、ただのダンジョン見学ということですわね」


「でも、戦うよ?」


 マドカが言う。


「……見学ではありませんわね」


 クリスティーナが苦笑する。


「まぁ、それならそれで構いませんわ」


「よし!」


 マドカがEVを操作する。


「じゃあタイトルは――」


 少し考えて。


「『お母さん、ダンジョンデビュー!』」


「そのままね」


 リゼットが笑う。


「分かりやすいじゃん!」


 配信が始まる。


『始まった!』


『今日は何の配信?』


『マドカちゃんいる?』


『リゼットさんもいるじゃん』


『ヒナタさんまでいる!』


「今日はねー」


 マドカがカメラに向かって笑う。


「お母さんをダンジョンに連れていきます!」


『お母さん!?』


『クリスティーナ様!?』


『公爵夫人ダンジョン行くの!?』


 コメントが一気に流れ始める。


「そうですわ」


 クリスティーナがカメラに向かって微笑む。


「本日、ダンジョンへ初めて行くことになりましたの」


『初ダンジョン!?』


『本当に初心者じゃん!』


『大丈夫なのか?』


「もちろん!」


 ヒナタが手を挙げる。


「今回、クリスティーナ様は私のバリアで守ります!」


「ありがとうございます、ヒナタちゃん」


 クリスティーナが嬉しそうに微笑む。


「私、魔法が全然だめだからさ。ヒナタ、回復とバリアお願いね!」


「魔力Aなのだから、今回は夫人はバリアの中から撃ちなさいな」


 リゼットがさらりと言う。


「魔力は十分すぎるほどあるけれど、実戦経験がないものね」


「だからこそ、今日は安全第一ですわ」


 クリスティーナが胸を張る。


「ヒナタ」


「はい?」


「お母さん、死なないようにお願いね!」


「もちろんですよー」


 ヒナタが笑う。


「私のバリアを破られるような攻撃は、五層程度ならまずないと思います」


『五層程度w』


『この人たち五層をお散歩扱いしてない?』


『クリスティーナ様だけ普通の感覚で安心するw』


『ヒナタさんのバリアってそんなに強いの?』


「外からの攻撃は、私のバリアが全部受けます」


 ヒナタが説明する。


「クリスティーナ様は中から普通に攻撃できますよ」


「それなら安心ですわね」


 クリスティーナが魔法銃を確認する。


「では、今日はこれで戦ってみますわ」


『その銃かっこいい!』


『公爵夫人の装備めちゃくちゃ似合ってる』


『パンツスタイルいいな』


『魔法銃ってどうなってるんだ?』


「魔力を使って弾を作るんだよ!」


 マドカが説明する。


「だから弾切れしない!」


「魔力が続く限り、ね」


 リゼットが補足する。


「今日は私も、できるだけ近くで見ているわ」


「私もいますからねー」


 ヒナタが笑う。


「では――」


 マドカが立ち上がる。


「行こう!」


     ◆


 エキドナの屋敷。


 普段なら、最難関ダンジョンへ向かう時はゲンナイの部屋を経由する。


 しかし――。


 今日、カメラが向けられているのは別の場所だった。


 屋敷の一角に設置された転移陣。


 その先は、最難関ダンジョンの入口へと繋がっている。


「ここから?」


 クリスティーナが周囲を見る。


「うん!」


 マドカが転移陣へ乗る。


「一瞬だよ!」


「そんなに簡単に……」


 クリスティーナが言い終える前に、視界が変わった。


     ◆


 最難関ダンジョン。


 入口。


「……」


 クリスティーナが目を丸くする。


「本当に一瞬でしたわ」


「でしょ?」


 マドカが笑う。


『え?』


『もうダンジョン!?』


『転移した?』


『エキドナの移動方法どうなってるんだよw』


「じゃあ、さっそく一層へ!」


「ええ」


 四人はそのまま進んでいく。


 そして――。


「いましたわ」


 クリスティーナが前方を見る。


 一匹のスライム。


「では、夫人」


 リゼットが一歩下がる。


「まず試しに撃ってみなさいな」


「分かりました」


 クリスティーナが魔法銃を構える。


「……」


 狙いを定める。


 学生時代以来、久しぶりの実戦。


「久しぶりですけれど……」


 クリスティーナが小さく息を吐く。


「こう、ですわね」


 引き金を引く。


 ――ドンッ!


「え?」


 スライムのいた場所が吹き飛んだ。


「……」


「……」


「……」


 一瞬、全員が黙った。


 マドカが目を輝かせる。


「すごい!」


『!?』


『え、今の何!?』


『スライム一発!?』


『やべぇ威力w』


『魔法銃ってそんな威力出るのかよw』


『クリスティーナ様、魔力Aってマジだったのか』


 クリスティーナ自身も、少し驚いている。


「……あら?」


 銃を見る。


「こんな威力でしたかしら?」


「エキドナ製だからね」


 リゼットが淡々と答える。


「それに、あなたの魔力も高い」


「なるほど……」


 クリスティーナはもう一度銃を見る。


「これは……」


 少しだけ口元が上がった。


「なかなか楽しいですわね」


『お?』


『クリスティーナ様ちょっと調子乗ってきた?w』


『さっきまで初心者だったのにw』


「お母さんすごい!」


 マドカが嬉しそうに笑う。


「魔力Aってすごいね!」


「ふふ」


 クリスティーナも少し得意そうに胸を張る。


「学生時代には、それなりに魔物も倒していましたから」


『学生時代に魔物倒してたの!?』


『貴族学校どうなってるんだよw』


『クリスティーナ様、普通に才能あるじゃん』


「では――」


 ヒナタが周囲を確認する。


「今日ここへ来た理由も説明しましょうか」


「そうだったね」


 マドカが頷く。


「何しに来たの?」


「新しい料理の開発で使うオーク肉が、そろそろ在庫切れなんですよ」


 ヒナタが答える。


『オーク肉!?』


『料理のためにダンジョン来たのw』


「それなら――」


 クリスティーナが少し考える。


「オークなら、五層くらいがよろしいのでは?」


「そうそう!」


 マドカが頷く。


「五層ならオークいるよ!」


「夫人も安心でしょう?」


 リゼットがクリスティーナを見る。


「この威力なら、余裕かもしれませんわ」


 クリスティーナは魔法銃を構え直す。


「ええ」


 少し楽しそうに笑った。


「思っていたより、ずっと面白そうですわね」


『クリスティーナ様、もう慣れてきてるw』


『さっき「無理ですわ!」って言ってた人とは思えない』


『魔法銃の威力が完全に初心者向けじゃないw』


「ん?」


「どうしたの?」


 クリスティーナが尋ねる。


「これ、ルーデウスですか?」


『お母さん!?』


『マドカもいるのか!?』


『なんでダンジョンに!?』


 マドカが笑う。


「お兄ちゃん?」


 クリスティーナも画面を見る。


「あら……」


 少し考えてから、ふっと笑った。


「ルーデウスでしょうか?」


『そう!』


『ルー:お母さん、何してるの!?』


『ルー:マドカまでダンジョン行ってるの!?』


「ルー?」


 マドカがコメントを読み上げる。


「なんでわざわざ『ルー:』って書くの?」


『ルー:分かりやすいだろ!』


『ルー:妹と母親がダンジョンにいるんだから心配するだろ!』


「お兄ちゃん、心配性だなぁ」


 マドカが笑う。


「でも、ヒナタがいるから大丈夫だよ!」


『ルー:そういう問題じゃない!』


『ルー:そもそもどこまで行く気なんだよ!』


「五層だよ?」


『ルー:五層!?』


 コメント欄がさらに加速する。


 クリスティーナはその様子を見ながら、思わず笑った。


「ふふ……」


「お母さん?」


「いえ」


 クリスティーナは魔法銃を構え直す。


「息子が心配してくれているのが、少し嬉しいだけですわ」


「じゃあ、安心させるためにもいっぱい狩ろう!」


「そうですわね」


 クリスティーナが頷く。


「せっかくですもの。オーク肉も、しっかり確保いたしましょう」


『ルー:だからそういう問題じゃないって!』


『ルー:誰か止めてくれ!』


『ルー:ヒナタさん、母を頼みます!』


「はいはーい」


 ヒナタが笑う。


「ちゃんと守りますよー」


『ルー:お願いします!!』


 こうして――。


 クリスティーナの初めてのダンジョン探索は、息子の心配するコメントを横目に、予定通り五層を目指して始まった。


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