オーク
「そういえば――」
クリスティーナが、皿の上のトンカツを見ながら首を傾げた。
「トンカツって、オーク肉なのですか? それとも普通の豚肉ですの?」
「オークが肉としては一般的ね」
リゼットが答える。
「この辺りにはそこら中にいるわ」
「へぇ」
クリスティーナが少し驚く。
「オークのお肉って、普通に食べるものなのですわね」
「うん」
マドカが頷いた。
「私、冒険者になる前に、お姉ちゃんからオークの巣を潰してこいって言われたっけなぁ」
「……」
クリスティーナの手が止まった。
「そういえば、毎日オーク肉だったわね」
リゼットが懐かしそうに言う。
「ふふ」
「マドカちゃん……」
クリスティーナが恐る恐るマドカを見る。
「あなた、幼い頃からそんなことをしていましたの?」
「まぁー」
マドカはあっさり答える。
「配信で私の生い立ちを知ってる人もいるかもだけど、私って森で育ったからね」
「森で……」
「そうそう」
ヒナタが興味深そうに聞く。
「オークを倒して、お肉にしてたの?」
「うん」
「焼いてたの?」
「そうそう。それでね」
マドカは楽しそうに当時を思い出す。
「オークがいっぱい私の後ろについてきて、お姉ちゃんが植物を操ってさー」
「ええ」
リゼットも当たり前のように続ける。
「まとめて縛り上げて、マドカに倒させていたわね」
「……」
クリスティーナが絶句した。
「マドカちゃん……あなた、本当に幼い頃からそんなことを……?」
「だってオークのお肉、美味しいよ?」
「そういう問題ではありませんわ!」
思わずクリスティーナが声を上げる。
マドカはきょとんとした顔をする。
「そう?」
「そうですわよ!」
ヒナタがくすくす笑う。
「でも、マドカらしいね」
「でしょう?」
リゼットも笑った。
「それに、私が家事が苦手だったから、あの頃はマドカがほとんどやっていたのよ」
「……」
クリスティーナがリゼットを見る。
「リゼット様……」
「何かしら?」
「そこは反省してくださいませ」
「しているわよ?」
「本当ですの?」
「今はエキドナに料理のできる人がたくさんいるでしょう?」
「そういう問題ではありませんわ!」
マドカが笑いながら話を戻す。
「でも、オーク肉って美味しいんだよね」
「そうですわね」
クリスティーナもトンカツを一口食べる。
「確かに美味しいですわ」
「オークって、序盤のモンスターって感じだよねー」
ヒナタも頷く。
「私も採取に行くと、よく見かけるよ」
「邪魔なんだよね」
マドカが言う。
「肉は美味しいけど」
「それ、モンスターに対する感想なの?」
クリスティーナが苦笑する。
「だって採取の邪魔するんだもん」
「なるほど……」
クリスティーナは納得しかけて――。
「あ!」
マドカが突然声を上げた。
「トンカツ作ったから、肉の在庫減っちゃった?」
「んー、少し補充した方がいいかもね」
「だよねー」
マドカが考え込む。
そして――。
「そうだ!ダンジョンにオーク肉の補充に行こうよ!」
「いいね!」
ヒナタもすぐに乗った。
「ね!」
マドカがクリスティーナを見る。
「お母さんも!」
「私もなのですか!?」
クリスティーナが目を丸くする。
「私、強くないのですけど?」
「大丈夫だよ!」
「何が大丈夫なのですの!?」
クリスティーナの声が応接室に響いた。
リゼットはそんな三人を見ながら、静かに紅茶を飲んでいる。
「……まあ、いいんじゃないかしら」
「お姉ちゃん!?」
「せっかく娘と母親になったのだから、一緒に冒険するのも悪くないでしょう?」
「冒険って言いましたわよね!?」
「ええ」
リゼットはにっこり笑った。
「オーク肉の補充に行くのでしょう?」
「そうだけど!」
マドカは楽しそうに立ち上がった。
「じゃあ決まり!」
「決まってませんわ!」
「お母さん、ダンジョン行こう!」




