トンカツ
エキドナの屋敷。
午後の穏やかな時間。
テーブルの上には、揚げたばかりのトンカツが並んでいた。
「んー……」
マドカがトンカツを眺めながら、首を傾げる。
「普通に食べても美味しいんだけど、これ使って何か別の料理にできないかな?」
「そうねぇ」
隣に座っていたヒナタが、トンカツを一切れ手に取る。
「パンに挟むとか?」
「それはもう美味しそう!」
「じゃあ、薄く切って野菜と一緒に――」
「待って」
リゼットが口を挟んだ。
「あなた達、また新しい料理を作ろうとしているの?」
「うん!」
マドカが即答する。
「トンカツいっぱい作ったから!」
「いっぱい作った理由がそれなのね」
「そうそう」
マドカは嬉しそうに頷いた。
その向かいでは、クリスティーナが紅茶を飲みながら二人の様子を眺めていた。
「トンカツという料理も、こちらに来てから初めていただきましたけれど……」
クリスティーナは皿の上のトンカツを見る。
「本当に美味しいですわね」
「でしょ?」
マドカが嬉しそうに笑う。
「お母さんも気に入った?」
「ええ。とても」
「じゃあ、何にしたらもっと美味しくなると思う?」
「私に聞きますの?」
「うん!」
あまりにも自然に尋ねられて、クリスティーナは少しだけ目を丸くした。
「そうですね……」
改めてトンカツを見る。
「パンに挟むというのは、とても美味しそうですわ」
「でしょ!」
「それなら、少し甘いソースを合わせても良いかもしれませんね」
「ソースかぁ」
マドカが考え込む。
「ヒナタ、作れる?」
「作れると思うよ」
「じゃあ決まり!」
「決まるの早いですね」
リゼットが苦笑する。
「でも、そういうところがマドカらしいわね」
「だって、美味しそうじゃん!」
マドカは当然のように答えた。
ヒナタは早くも別の皿を用意している。
「パンは焼いた方がいいかな?」
「焼こう!」
「キャベツも欲しいね」
「うん!」
「あと、トンカツは少し薄く切った方が食べやすそう」
「それもいい!」
次々と話が決まっていく。
クリスティーナはその様子を眺めながら、ふっと笑った。
「……楽しそうですわね」
「うん」
リゼットも紅茶を飲みながら、二人を見る。
「こういうことをしている時のマドカは、いつも楽しそうよ」
「お母さんも一緒に作ろうよ!」
「私も?」
「うん!」
マドカが隣の席を指差す。
「ここ座って!」
「ふふ。では、お言葉に甘えて」
クリスティーナがマドカの隣へ移動する。
「それで、私は何をすれば?」
「んー……」
マドカが少し考える。
「お母さんは、食べて美味しいか確認する係!」
「まあ」
クリスティーナが笑った。
「それは重要なお仕事ですわね」
「そうだよ!」
「では、責任重大ですわ」
「うん!」
ヒナタがパンを焼き始める。
マドカはキャベツを切る。
クリスティーナは完成した料理を想像しながら、二人の作業を眺めていた。
「……こういう時間も、いいものですわね」
「何か言った?」
マドカが振り返る。
「いいえ」
クリスティーナは微笑んだ。
「とても楽しいですわ、と言っただけです」
「そっか!」
マドカは満足そうに笑った。
そして――。
「じゃあ、次はトンカツ丼も作ってみよう!」
「まだ増やすの?」
リゼットが呆れた声を上げる。
「だってトンカツあるんだもん!」
エキドナの午後は、まだまだ終わりそうになかった。




