準備はちゃくちゃくと進む
ダンジョン攻略まで、あと三日。
ニコラの家の庭には。
朝から金属音が響いていた。
ガンッ!
ガンッ!
ガンッ!
「……何してるの?」
マドカが眠そうに庭へ出てくる。
「武器の調整~」
ニコラが答えた。
目の前には巨大な魔導兵器。
以前のものより明らかに大きい。
「これ……持っていくの?」
「もちろん~」
「どうやって?」
ニコラがリゼットを見る。
「お願い~」
「はいはい」
リゼットが指を振る。
巨大な兵器が淡い光に包まれる。
次の瞬間。
消えた。
「……え?」
マドカが目を丸くする。
「インベントリに入れたわ」
「それ便利すぎない?」
「今さら?」
ニコラが笑う。
「リゼットのインベントリ、容量どうなってるの~?」
「知らないわ」
「知らないんだ……」
マドカが苦笑する。
「じゃあダンジョンの中で必要になったら?」
「取り出せばいい」
「どこから?」
「その場で」
「便利!」
「だから言ったでしょう」
リゼットは紅茶を飲む。
「昔の冒険者は、荷物を背負って歩いていたのよ」
「……大変だったんだね」
「ええ」
「私だったら絶対無理」
「あなたは昔から楽を覚えるのが早いわね」
「褒められた?」
「褒めてないわ」
◆
「では、次は私と!」
ブリジットが盾を構える。
「マドカ!」
「うん!」
二人が向かい合う。
「今日は実戦形式です!」
「分かった!」
エレノアが少し離れた場所から見守っている。
「怪我はしないようにしてくださいね」
「はい!」
ブリジットが突進。
マドカは横へ。
盾が空を切る。
「そこ!」
マドカが踏み込む。
木剣が盾に当たる。
ガンッ!
「まだまだ!」
ブリジットが盾を振る。
マドカが跳ぶ。
そのまま空中で身体を捻り――
「……!」
着地。
「よし!」
……と思った瞬間。
マドカの足が地面の小さな窪みに入った。
「――あっ」
ズルッ。
「マドカ!」
ブリジットが慌てて盾を投げ出す。
ガシッ。
なんとか抱き止める。
「大丈夫!?」
「うん……」
「なぜ戦闘中に転ぶのですか!?」
「今のは地面が悪い!」
「地面のせいにしないでください!」
ニコラが遠くから、
「マドカは敵より地面に負けるね~」
「ニコラ!」
リゼットもため息。
「本当に不思議ね」
「何が?」
「戦闘中の回避能力は異常なのに、日常生活ではよく転ぶ」
「才能の配分がおかしくない?」
「そうね」
「認めないでよ!」
◆
昼。
マドカは一人で木剣を振っていた。
「……」
一振り。
二振り。
三振り。
そして。
「うーん」
止まる。
「もっと強い技、欲しいな」
ブリジットとの訓練。
ダンジョン。
魔物。
これから先、もっと強い敵が出てくる。
今のままでも強い。
だけど。
「一発で決められる技が欲しい」
マドカが考える。
リゼットが庭の端から見ている。
「なら、作ればいいでしょう」
「必殺技?」
「ええ」
「どうやって?」
「あなたの身体能力を全部、一つの攻撃に集中させる」
「……できるかな?」
「やってみればいいわ」
マドカが構える。
「こう?」
「違う」
「こう?」
「力みすぎ」
「じゃあ……」
深呼吸。
身体の力を抜く。
足。
腰。
肩。
腕。
木剣。
全てを一本に繋げる。
「……」
マドカが一歩踏み込む。
「――せいっ!」
ブンッ!!
空気が爆発した。
庭の土が一直線に吹き飛ぶ。
「…………」
マドカが固まる。
「……今の、何?」
リゼットが少し驚いた顔をする。
「なるほど」
「え?」
「面白いわね」
「成功?」
「原型はね」
ニコラが作業台から顔を出す。
「今の技、名前つけようよ~」
「名前?」
「必殺技なら必要でしょ~」
「じゃあ……」
マドカが考える。
「……マドカ・インパクト!」
「そのままじゃない?」
カトリーヌが即座に突っ込む。
「じゃあ、リゼット・インパクト!」
「なぜ私の名前なの?」
「強そうだから!」
「却下」
「えー」
ブリジットが真剣に考える。
「では……『神速盾破斬』など!」
「私、盾持ってないよ?」
「…………」
「却下ですね」
エレノアが笑う。
「では、技名は後で考えましょう」
「うん!」
こうして。
マドカの必殺技は。
まだ名前すら決まっていないまま。
その原型だけが完成した。
◆
一方。
王城。
「ダンジョン攻略隊の準備は?」
国王が尋ねる。
「完了しております」
騎士団長が答える。
「食料、薬品、予備装備、地図、すべて用意しました」
「うむ」
「ただ……」
「何だ?」
「リゼット様が同行されるので、通常の準備が必要なのかどうか……」
「…………」
国王が黙る。
「確かに」
「食料も大量に用意しましたが、インベントリで運べるそうです」
「…………」
「大型兵器も運べるそうです」
「…………」
「さらに、リゼット様は斥候役まで魔法で代用できると」
「…………」
国王は椅子に深く座った。
「我々が三日かけて準備したものを、一人で全部解決できるのでは?」
「……その可能性は高いかと」
「ではなぜ同行者をつける?」
騎士団長が少し考える。
「……護衛?」
「誰を?」
「…………」
「リゼット殿を護衛するのか?」
「…………」
「……必要ないな」
二人は同時にため息をついた。
◆
夕方。
王城から一通の書状が届いた。
エレノアが封を開ける。
「……ダンジョン攻略に関する最終確認です」
「何かある?」
マドカが聞く。
「王家からの要望ですね」
「どんな?」
「攻略後――」
エレノアが読む。
「『マドカ嬢について、改めて正式な能力検査を行いたい』」
「…………」
マドカが固まる。
「能力検査?」
ブリジットが眉をひそめる。
「やはり、王家は気にしているのでしょうね」
リゼットが頷く。
「LV1なのに、あれだけ強いもの」
「……魔物だと思われてるのかな?」
マドカが少し不安そうに言う。
リゼットはマドカの頭に手を置く。
「大丈夫よ」
「ほんと?」
「ええ」
「……」
マドカが笑う。
「じゃあ、ちゃんと調べてもらおう!」
「そうね」
リゼットも微笑む。
「その前に」
彼女は立ち上がった。
「ダンジョンを攻略しましょう」
「うん!」
ブリジットが盾を持つ。
「任せてください!」
ニコラが眠そうに笑う。
「兵器も完成したよ~」
カトリーヌが頷く。
「整備も終わってる」
エレノアが微笑む。
「では、明後日出発ですね」
マドカが拳を握る。
「よーし!」
そして。
誰も気づいていなかった。
王家が用意した「正式な検査」が。
マドカ自身も知らない何かを、少しずつ明らかにしていくことを




