レベル測定
ダンジョン攻略まで、あと四日。
ニコラの家では、朝から慌ただしい音が響いていた。
「できた~」
ニコラが作業台から顔を上げる。
その横には、大きな黒い箱。
「……何それ?」
マドカが覗き込む。
「新しい兵器~」
「兵器!?」
エレノアが反応する。
「はい~。今回のダンジョン用」
「大きすぎませんか?」
「そうでもないよ~」
ニコラが箱を軽く叩く。
ガコン。
内部から複数の金属板が展開される。
「うわ……」
カトリーヌが思わず目を輝かせる。
「魔力炉が二基?」
「そう~」
「出力は?」
「前の三倍くらい~」
「三倍!?」
ブリジットが顔を引きつらせる。
「それ、ダンジョンで使って大丈夫なんですか?」
「たぶん~」
「たぶん!?」
リゼットが紅茶を飲みながら口を挟む。
「ニコラ」
「なに~?」
「威力を抑える機構は?」
「あるよ~」
「ならいいわ」
「えっ」
エレノアがリゼットを見る。
「それでいいのですか?」
「ええ」
「本当に?」
「ニコラは一応、周囲を巻き込まないようには作るから」
「一応!?」
ニコラが眠そうに笑った。
「失礼だな~」
「信用できないのよ、あなたの場合」
カトリーヌがぼそりと呟く。
「ひどい~」
「昨日まで普通の護身用魔道具だったものが、どうして一晩で兵器になるのよ……」
「研究者の努力~」
「努力の方向がおかしいのよ」
◆
その頃。
マドカは一人で庭にいた。
「……よし」
木剣を握る。
「今日はちゃんと訓練しよう」
前回、ブリジットとの模擬戦では圧倒的な身体能力を見せた。
だが。
「私って、結局どれくらい強いんだろ?」
マドカには分からない。
今まで、自分の強さを誰かと比較する機会などほとんどなかった。
「なんとなく強い……?」
「なんとなくじゃ困るでしょう?」
「わっ!」
振り返ると、リゼットが立っていた。
「お姉ちゃん」
「それなら、測ってみればいいわ」
「測れるの?」
「簡易鑑定器があるのよ」
リゼットが小さな魔道具を取り出す。
「手を乗せて」
「はーい」
マドカが触れる。
魔道具が淡く光る。
そして。
文字が浮かび上がった。
【名前:マドカ】
【LV:1】
「……え?」
マドカが固まる。
「LV1?」
「そうね」
「私、めちゃくちゃ弱いじゃん!」
「違うわ」
リゼットが笑う。
「レベルが低いだけよ」
「どういうこと?」
「この魔道具が示しているのは、あくまで経験による成長度合い」
「じゃあ、強さは別なの?」
「ええ。少なくとも、あなたの場合はね」
「じゃあ見てみよう!」
「そうね」
文字が追加される。
【筋力:A】
【耐久:A】
【敏捷:S】
【魔力:B】
【精神:B】
【知力:A】
【運:C】
「…………」
マドカが首を傾げる。
「AとかSって何?」
「この時代の一般的な基準なら、かなり高いわね」
「じゃあ強い?」
「強いわよ」
「やった!」
マドカが喜ぶ。
その横で、ブリジットがいつの間にか覗き込んでいた。
「LV1……」
「うん」
「私より七十三も低い……」
「うん」
「なのに私が吹き飛ばされた……」
「……うん」
ブリジットが遠い目をする。
「レベルとは……」
ニコラが横から口を挟む。
「参考値だね~」
「その通りよ」
リゼットが頷いた。
「経験を積めば上がるものだから、単純な戦闘能力とは一致しないわ」
「なるほど……」
ブリジットが真剣に頷く。
「つまり、私はまだまだ成長できるということですね!」
「そういうこと」
「では、もっと鍛えます!」
「……元気ね」
リゼットが苦笑する。
◆
次にブリジットが測定する。
【名前:ブリジット】
【LV:74】
【筋力:A】
【耐久:S】
【敏捷:B】
【魔力:C】
【精神:A】
【知力:C】
【運:B】
「おお……」
マドカが感心する。
「やっぱり強いんだ」
「当然です!」
ブリジットが胸を張る。
「私は王国でも――」
「でもマドカに負けた」
「…………」
ブリジットの動きが止まる。
「マドカ……」
「ご、ごめん!」
「いえ」
ブリジットは拳を握る。
「まだ負けただけです」
「前向き……」
「次は勝ちます」
「うん!」
ブリジットが立ち上がる。
「精進します!」
「そんなに落ち込んでないじゃん!」
◆
続いてニコラ。
【名前:ニコラ】
【LV:28】
【筋力:D】
【耐久:D】
【敏捷:C】
【魔力:A】
【精神:A】
【知力:S】
【運:B】
「おお!」
マドカが驚く。
「ニコラ、知力S!」
「そう~?」
「すごいじゃん!」
「まあ、研究してるしね~」
カトリーヌが呟く。
「問題は、本人の戦闘能力だけどね」
「そこは兵器で補うから~」
「……そういうところよ」
ニコラが笑う。
◆
そして。
エレノア。
「私も測るんですか?」
「もちろん」
エレノアが魔道具に手を乗せる。
光が浮かび上がった。
【名前:エレノア】
【LV:46】
【筋力:C】
【耐久:C】
【敏捷:B】
【魔力:A】
【精神:S】
【知力:A】
【運:A】
マドカが目を丸くする。
「エレノア強い!」
「王族として最低限の鍛錬はしておりますから」
「最低限……?」
ブリジットが遠い目をする。
「私より精神が高い……」
「そこは誇るところでしょうか?」
「重要です!」
エレノアが苦笑する。
「ブリジットは少し気にしすぎですよ」
「ですが!」
「私は精神力を鍛える訓練をした覚えはありません」
「……そうなんですか?」
「王族として、様々な場面で耐えてきただけです」
「…………」
カトリーヌが小さく呟く。
「それはそれで大変そうね……」
「ええ」
エレノアが微笑んだ。
◆
最後に。
リゼット。
「私も?」
「うん!」
「仕方ないわね」
リゼットが魔道具に触れる。
光る。
文字が浮かぶ。
【名前:リゼット】
【LV:――】
【測定不能】
「…………」
「…………」
「…………」
全員が沈黙する。
「やっぱりか~」
ニコラが言う。
「壊れてないよね?」
マドカが魔道具を確認する。
「壊れていないわ」
リゼットが答える。
「昔からこうなのよ」
「なんで?」
「この魔道具が想定している範囲を超えているからでしょうね」
「便利な言葉だなあ……」
マドカが呟く。
その時。
魔道具がもう一度光った。
【警告】
【対象の解析を中断】
【基準値を超過】
【測定不能】
そして。
煙を吐いた。
「…………」
ニコラが拾い上げる。
「壊れたね~」
「壊れてないって言ったじゃん!」
「今壊れた~」
「お姉ちゃん……」
リゼットは何でもないように紅茶を飲んでいた。
「買い替えればいいわ」
「そういう問題なの!?」
◆
その夜。
王城。
「報告を」
国王が尋ねる。
「はい」
騎士団長が答える。
「リゼット様たちの戦力について、簡易的な確認を行いました」
「それで?」
騎士団長が少し言葉を選ぶ。
「……数値化する意味があまりないかと」
「……そうか」
「はい」
「マドカは?」
「LV1です」
「……LV1?」
「はい」
国王が眉をひそめる。
「それでブリジットを吹き飛ばしたのか?」
「はい」
「…………」
国王は天井を見る。
「ニコラは?」
「LV28」
「戦闘力は?」
「本人より兵器のほうが強いかと」
「……」
「そしてリゼット様は測定不能です」
「…………」
国王はしばらく沈黙した。
「やはり」
「何でしょう?」
「私は、とんでもない者たちを呼び戻したらしい」
騎士団長が苦笑する。
「今さらでは?」
「……それもそうだな」
国王は笑った。
◆
翌朝。
マドカは目を覚ます。
「よーし!」
今日も訓練。
そう思ってベッドから降りる。
そして。
「――あっ」
ドサッ。
「…………」
床に落ちた。
「……LV1だからかな?」
「関係ないわ」
隣の部屋からリゼットの声が飛んできた。
「知ってる!」
マドカの声が響く。
ダンジョン攻略まで。
あと三日。




