ニコラ配信 有料
その日の夜。
エキドナの屋敷。
いつもなら、ニコラは自分の部屋で魔道具をいじっている時間だった。
だが今日は――。
部屋の隅に置かれたEVの前に座り込み、ニコラが眠そうに画面を見ていた。
「……ん~」
目が半分しか開いていない。
髪も少しだけ寝癖が残っている。
服も完全な部屋着だった。
「……これでいいのかなぁ~」
EVの画面には、配信設定が表示されている。
配信形式。
有料。
料金。
銀貨一枚。
「……まぁ、見たい人だけ見ればいいよねぇ~」
ニコラはそのまま配信開始を押した。
◆
『配信始まった!』
『ニコラさんだ!』
『今日は有料配信!?』
『銀貨一枚払ってきたぞ』
『ニコラさんいつもより眠そうじゃない?』
『寝起き?w』
画面に映るニコラは、普段より明らかに眠そうだった。
「こんばんはぁ~」
小さく手を振る。
「今日はぁ……質問に答えるだけだよぉ~」
『だけw』
『もう眠そうw』
『銀貨一枚払ったぞ!』
「ん~……」
ニコラはコメント欄を眺める。
「銀貨一枚……高いかなぁ~?」
『むしろ安い』
『ニコラさんの個人配信なら払う』
『魔道具の話聞けるなら全然いい』
『寝落ちしても許す』
「そっかぁ~」
ニコラは少し嬉しそうに笑った。
「じゃあ、質問ある人は書いてねぇ~」
◆
『ニコラさんが一番気に入ってる魔道具って何ですか?』
「ん~?」
ニコラが少し考える。
「モンバトかなぁ~」
『やっぱりモンバト!?』
『魔道具じゃなくてゲームじゃんw』
「でも、作ったの私だしねぇ~」
「マドカが、こういうの欲しいって色々言ってきたからぁ~」
『マドカさんの無茶振りw』
『何を言われたの?』
「ん~……」
ニコラは少し考え込む。
「面倒な仕様いっぱい~」
『具体的にw』
「でも作ってたら楽しかったからぁ~」
「それで、なんかモンスターの危険度を判定する機能も入ってた~」
『え?』
『そんな機能あったの!?』
『普通に便利じゃん』
「うん~」
「私、どうやって作ったか覚えてないんだけどねぇ~」
『!?』
『作った本人が分からないw』
『ニコラさん怖いw』
「でも、もうモンバト本体に標準で入ってるしぃ~」
「まぁ、いいかぁ~って」
『いいのかよw』
『それがニコラさんなんだよなw』
「結局、作ってて楽しかったから、これが一番好きかなぁ~」
◆
『新しい魔道具を作る時、何を基準に考えてるんですか?』
「今までにないのを~」
ニコラは即答した。
「今まであるのを作っても、つまんないしぃ~」
『なるほど』
『新しいものを作りたいタイプなんだ』
「あと、かわいいのも好き~」
『かわいい魔道具?』
「うん~」
「錬金獣に猫が欲しいなぁ~って思ったからぁ~」
『猫!?』
『それで猫カフェ!?』
「そう~」
ニコラは眠そうな顔のまま答える。
「猫がいたらかわいいじゃん~」
『理由がニコラさんすぎるw』
『錬金獣の猫から猫カフェに飛ぶの意味分からないw』
「だから作った~」
『作れるのも意味分からないw』
◆
『魔道具って、完成までどのくらい時間がかかるんですか?』
「最初から何もないところで作るなら、そんなに早くないよぉ~」
「設計図とかがない状態で、一発で完成とかは無理~」
『意外』
『ニコラさんでも無理なのか』
「簡単なのでも三日くらいかなぁ~」
『三日!?』
『それでも早くない?』
「ん~?」
ニコラが首を傾げる。
「三日って普通じゃないのぉ~?」
『普通じゃないですw』
『ニコラ基準がおかしい』
『本人だけ普通だと思ってるw』
◆
『ニコラさんって料理できますか?』
「食べるだけ~」
『即答w』
『作らないんだw』
「料理はヒナタとかアーノルドに任せればいいからぁ~」
「私は食べる係~」
『それでいいと思うw』
『エキドナの分業体制』
「料理してる時間があったら、魔道具作る~」
『合理的』
◆
『今まで作った魔道具で、一番大変だったものは?』
「転移装置かなぁ~」
その質問だけ、ニコラの目が少し開いた。
『おお』
『王都とゴールのやつ?』
「うん~」
「エキドナが引っ越した時に作ったやつ~」
「珍しい素材いっぱい使ったしぃ~」
「かなり苦労した~」
『ニコラさんでも苦労するのか』
『どれくらい?』
「……」
ニコラが少し黙る。
「頑張って作ったんだけどぉ~」
「ゲンナイがぁ~」
一拍。
「『あ、それ俺ならすぐ作れるぞ?』って~」
『wwwww』
『ゲンナイwww』
『それは腹立つw』
「……ちょっとムカついたぁ~」
『でしょうねw』
『ニコラさんが珍しく感情出したw』
「だからぁ~」
「今度もっと難しいの作る~」
『負けず嫌い出たw』
「でもゲンナイに作らせればいいじゃん」
『マドカさん!?w』
「それはそれでムカつく~」
◆
『マドカさんから最近どんな無茶振りされました?』
「最近はぁ~」
ニコラが少し考える。
「装備の即時変更システム~」
『何それ!?』
『装備を一瞬で変えるの?』
「うん~」
「いくつか装備を登録しておいて、すぐ着替えられるようにするやつ~」
『便利すぎる』
『何に使うんだw』
「多分アイドル~」
『あっ』
『衣装チェンジ!?』
『マドカさんまたアイドル絡みw』
「戦闘にも使えるけどねぇ~」
「マドカはぁ……」
ニコラが少し考える。
「思いついたらすぐ欲しがるからぁ~」
『ニコラさん大変だなw』
「でも、面白いから作る~」
◆
『グレタさんとは仲いいんですか?』
「ん~」
ニコラが少し考える。
「鍛冶と魔道具って、結構近いからぁ~」
「武器をグレタが作ってぇ~」
「そこに魔道具の核とか付けたりするの~」
『なるほど』
『魔法武器ってそうやって作るのか』
「だからぁ~」
「こっちの設計が複雑だと、怒られるかなぁ~って」
『www』
『グレタさん怒るんだw』
「でも自分専用の魔法武器とか欲しいからぁ~」
「形は凝りたい~」
『ニコラさん、武器のデザインも凝るタイプなのか』
「うん~」
「だからグレタには、まぁ……頑張ってもらう~」
『他人事w』
◆
『ニコラさん自身が欲しい魔道具はありますか?』
「枕~」
『!?』
『そこ!?』
「すぐ眠れる枕が欲しい~」
『それ今のニコラさんに必要なやつではw』
『今すぐ作ってw』
「それがあればぁ~」
「すぐ寝られるからぁ~」
『配信終わったら作ってくださいw』
「ん~……」
ニコラがEVを見つめる。
「明日でいい~」
『寝る気満々w』
◆
『魔道具作りで失敗することってありますか?』
「爆発~」
『即答w』
『やっぱりw』
「結構するよぉ~」
『怖いw』
『エキドナの工房大丈夫なの?』
「爆発したらぁ~」
「また作ればいいし~」
『逞しい』
『それで済むのニコラさんくらいだろw』
「でもぉ~」
「失敗した時にぃ~」
「なんで失敗したか分かると、次は直せるからぁ~」
『ちゃんと研究者してる』
『眠そうなのに急にまともw』
「だから失敗も嫌いじゃないよぉ~」
◆
『魔道具を作っていて、一番嬉しい瞬間は?』
ニコラが少し考える。
「売れた時じゃないかなぁ~?」
『違うの!?』
「売れるのも嬉しいけどぉ~」
「思ってたより、みんなが喜んでくれた時かなぁ~」
「予想よりずっと反応が良くてぇ~」
「え、そんなに喜ぶのぉ~?ってなると、ちょっと嬉しい~」
『いい話だ』
『ニコラさん、ちゃんと嬉しいんだな』
『本人が一番淡々としてるから分かりにくいw』
「だからぁ~」
「面白いもの作るの、好きなんだよねぇ~」
ニコラはそう言って、少しだけ笑った。
◆
『最後に一つだけ!』
『今日の配信、銀貨一枚払ってよかったです!』
『また有料配信やってください!』
『次は魔道具制作の作業配信してほしい』
『ニコラさんの工房見たい』
『寝落ち配信でもいいぞw』
コメント欄を眺めていたニコラが、眠そうに目を細める。
「ん~……」
「じゃあ、今日は終わりにするねぇ~」
『お疲れ様でした!』
『ありがとうございました!』
「見てくれてありがとぉ~」
「また、気が向いたらやるねぇ~」
最後に小さく手を振る。
配信終了。
画面が暗くなる。
「……ふぁ」
ニコラは大きく欠伸をした。
「寝よぉ~」
EVをそのまま机の上に置き、ニコラはベッドへ倒れ込んだ。
銀貨一枚。
その金額以上の内容を詰め込んだつもりは――本人には、まったくなかった。
ただ眠い中で、好きな魔道具の話をしただけだった。




