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落内円は落ちている  作者: 七風


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305/579

ニコラ配信 有料

 その日の夜。


 エキドナの屋敷。


 いつもなら、ニコラは自分の部屋で魔道具をいじっている時間だった。


 だが今日は――。


 部屋の隅に置かれたEVの前に座り込み、ニコラが眠そうに画面を見ていた。


「……ん~」


 目が半分しか開いていない。


 髪も少しだけ寝癖が残っている。


 服も完全な部屋着だった。


「……これでいいのかなぁ~」


 EVの画面には、配信設定が表示されている。


 配信形式。


 有料。


 料金。


 銀貨一枚。


「……まぁ、見たい人だけ見ればいいよねぇ~」


 ニコラはそのまま配信開始を押した。


     ◆


『配信始まった!』


『ニコラさんだ!』


『今日は有料配信!?』


『銀貨一枚払ってきたぞ』


『ニコラさんいつもより眠そうじゃない?』


『寝起き?w』


 画面に映るニコラは、普段より明らかに眠そうだった。


「こんばんはぁ~」


 小さく手を振る。


「今日はぁ……質問に答えるだけだよぉ~」


『だけw』


『もう眠そうw』


『銀貨一枚払ったぞ!』


「ん~……」


 ニコラはコメント欄を眺める。


「銀貨一枚……高いかなぁ~?」


『むしろ安い』


『ニコラさんの個人配信なら払う』


『魔道具の話聞けるなら全然いい』


『寝落ちしても許す』


「そっかぁ~」


 ニコラは少し嬉しそうに笑った。


「じゃあ、質問ある人は書いてねぇ~」


     ◆


『ニコラさんが一番気に入ってる魔道具って何ですか?』


「ん~?」


 ニコラが少し考える。


「モンバトかなぁ~」


『やっぱりモンバト!?』


『魔道具じゃなくてゲームじゃんw』


「でも、作ったの私だしねぇ~」


「マドカが、こういうの欲しいって色々言ってきたからぁ~」


『マドカさんの無茶振りw』


『何を言われたの?』


「ん~……」


 ニコラは少し考え込む。


「面倒な仕様いっぱい~」


『具体的にw』


「でも作ってたら楽しかったからぁ~」


「それで、なんかモンスターの危険度を判定する機能も入ってた~」


『え?』


『そんな機能あったの!?』


『普通に便利じゃん』


「うん~」


「私、どうやって作ったか覚えてないんだけどねぇ~」


『!?』


『作った本人が分からないw』


『ニコラさん怖いw』


「でも、もうモンバト本体に標準で入ってるしぃ~」


「まぁ、いいかぁ~って」


『いいのかよw』


『それがニコラさんなんだよなw』


「結局、作ってて楽しかったから、これが一番好きかなぁ~」


     ◆


『新しい魔道具を作る時、何を基準に考えてるんですか?』


「今までにないのを~」


 ニコラは即答した。


「今まであるのを作っても、つまんないしぃ~」


『なるほど』


『新しいものを作りたいタイプなんだ』


「あと、かわいいのも好き~」


『かわいい魔道具?』


「うん~」


「錬金獣に猫が欲しいなぁ~って思ったからぁ~」


『猫!?』


『それで猫カフェ!?』


「そう~」


 ニコラは眠そうな顔のまま答える。


「猫がいたらかわいいじゃん~」


『理由がニコラさんすぎるw』


『錬金獣の猫から猫カフェに飛ぶの意味分からないw』


「だから作った~」


『作れるのも意味分からないw』


     ◆


『魔道具って、完成までどのくらい時間がかかるんですか?』


「最初から何もないところで作るなら、そんなに早くないよぉ~」


「設計図とかがない状態で、一発で完成とかは無理~」


『意外』


『ニコラさんでも無理なのか』


「簡単なのでも三日くらいかなぁ~」


『三日!?』


『それでも早くない?』


「ん~?」


 ニコラが首を傾げる。


「三日って普通じゃないのぉ~?」


『普通じゃないですw』


『ニコラ基準がおかしい』


『本人だけ普通だと思ってるw』


     ◆


『ニコラさんって料理できますか?』


「食べるだけ~」


『即答w』


『作らないんだw』


「料理はヒナタとかアーノルドに任せればいいからぁ~」


「私は食べる係~」


『それでいいと思うw』


『エキドナの分業体制』


「料理してる時間があったら、魔道具作る~」


『合理的』


     ◆


『今まで作った魔道具で、一番大変だったものは?』


「転移装置かなぁ~」


 その質問だけ、ニコラの目が少し開いた。


『おお』


『王都とゴールのやつ?』


「うん~」


「エキドナが引っ越した時に作ったやつ~」


「珍しい素材いっぱい使ったしぃ~」


「かなり苦労した~」


『ニコラさんでも苦労するのか』


『どれくらい?』


「……」


 ニコラが少し黙る。


「頑張って作ったんだけどぉ~」


「ゲンナイがぁ~」


 一拍。


「『あ、それ俺ならすぐ作れるぞ?』って~」


『wwwww』


『ゲンナイwww』


『それは腹立つw』


「……ちょっとムカついたぁ~」


『でしょうねw』


『ニコラさんが珍しく感情出したw』


「だからぁ~」


「今度もっと難しいの作る~」


『負けず嫌い出たw』


「でもゲンナイに作らせればいいじゃん」


『マドカさん!?w』


「それはそれでムカつく~」


     ◆


『マドカさんから最近どんな無茶振りされました?』


「最近はぁ~」


 ニコラが少し考える。


「装備の即時変更システム~」


『何それ!?』


『装備を一瞬で変えるの?』


「うん~」


「いくつか装備を登録しておいて、すぐ着替えられるようにするやつ~」


『便利すぎる』


『何に使うんだw』


「多分アイドル~」


『あっ』


『衣装チェンジ!?』


『マドカさんまたアイドル絡みw』


「戦闘にも使えるけどねぇ~」


「マドカはぁ……」


 ニコラが少し考える。


「思いついたらすぐ欲しがるからぁ~」


『ニコラさん大変だなw』


「でも、面白いから作る~」


     ◆


『グレタさんとは仲いいんですか?』


「ん~」


 ニコラが少し考える。


「鍛冶と魔道具って、結構近いからぁ~」


「武器をグレタが作ってぇ~」


「そこに魔道具の核とか付けたりするの~」


『なるほど』


『魔法武器ってそうやって作るのか』


「だからぁ~」


「こっちの設計が複雑だと、怒られるかなぁ~って」


『www』


『グレタさん怒るんだw』


「でも自分専用の魔法武器とか欲しいからぁ~」


「形は凝りたい~」


『ニコラさん、武器のデザインも凝るタイプなのか』


「うん~」


「だからグレタには、まぁ……頑張ってもらう~」


『他人事w』


     ◆


『ニコラさん自身が欲しい魔道具はありますか?』


「枕~」


『!?』


『そこ!?』


「すぐ眠れる枕が欲しい~」


『それ今のニコラさんに必要なやつではw』


『今すぐ作ってw』


「それがあればぁ~」


「すぐ寝られるからぁ~」


『配信終わったら作ってくださいw』


「ん~……」


 ニコラがEVを見つめる。


「明日でいい~」


『寝る気満々w』


     ◆


『魔道具作りで失敗することってありますか?』


「爆発~」


『即答w』


『やっぱりw』


「結構するよぉ~」


『怖いw』


『エキドナの工房大丈夫なの?』


「爆発したらぁ~」


「また作ればいいし~」


『逞しい』


『それで済むのニコラさんくらいだろw』


「でもぉ~」


「失敗した時にぃ~」


「なんで失敗したか分かると、次は直せるからぁ~」


『ちゃんと研究者してる』


『眠そうなのに急にまともw』


「だから失敗も嫌いじゃないよぉ~」


     ◆


『魔道具を作っていて、一番嬉しい瞬間は?』


 ニコラが少し考える。


「売れた時じゃないかなぁ~?」


『違うの!?』


「売れるのも嬉しいけどぉ~」


「思ってたより、みんなが喜んでくれた時かなぁ~」


「予想よりずっと反応が良くてぇ~」


「え、そんなに喜ぶのぉ~?ってなると、ちょっと嬉しい~」


『いい話だ』


『ニコラさん、ちゃんと嬉しいんだな』


『本人が一番淡々としてるから分かりにくいw』


「だからぁ~」


「面白いもの作るの、好きなんだよねぇ~」


 ニコラはそう言って、少しだけ笑った。


     ◆


『最後に一つだけ!』


『今日の配信、銀貨一枚払ってよかったです!』


『また有料配信やってください!』


『次は魔道具制作の作業配信してほしい』


『ニコラさんの工房見たい』


『寝落ち配信でもいいぞw』


 コメント欄を眺めていたニコラが、眠そうに目を細める。


「ん~……」


「じゃあ、今日は終わりにするねぇ~」


『お疲れ様でした!』


『ありがとうございました!』


「見てくれてありがとぉ~」


「また、気が向いたらやるねぇ~」


 最後に小さく手を振る。


 配信終了。


 画面が暗くなる。


「……ふぁ」


 ニコラは大きく欠伸をした。


「寝よぉ~」


 EVをそのまま机の上に置き、ニコラはベッドへ倒れ込んだ。


 銀貨一枚。


 その金額以上の内容を詰め込んだつもりは――本人には、まったくなかった。


 ただ眠い中で、好きな魔道具の話をしただけだった。


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