ライブ本番
モンバトコロシアム。
この日は、普段とはまるで違う雰囲気になっていた。
入口には長い列。
会場の中では、商業ギルドの職員達が忙しそうに動き回っている。
ステージには大型の映像装置。
音響設備。
照明。
そして、これまでのモンバト大会では使われていなかった大量のライブ用機材。
「すごいねー」
マドカが舞台袖から会場を眺める。
「本当にライブ会場みたい」
「ライブ会場ですからね」
アリシアが苦笑する。
「そういえば、今まではモンバトの試合をする場所でしたものね」
「今日はトライアングルのライブ!」
ナナリーが嬉しそうに言う。
「楽しみだね、マドカちゃん」
「うん!」
その一方で――。
エキドナショップでは、別の準備が進められていた。
「配信用チケットの番号を確認してください」
スタッフが購入者へ案内する。
EVを手にした人々が、自宅や宿、友人の家など、それぞれの場所で準備をしていた。
「番号を入力して……」
「お」
画面が切り替わる。
『トライアングル特別ライブ』
その文字が表示された。
『来た!』
『見られる!』
『始まるぞ!』
今回のライブは情報塔には流れない。
無料配信でもない。
この画面を見ることができるのは、会場にいる観客か、配信用チケットを購入した人だけだった。
そして――。
「まもなく開演です!」
会場にビアンチの声が響いた。
「本日はトライアングル特別ライブにお越しいただき、ありがとうございます!」
大きな歓声が上がる。
同時に、各地のEVにも映像が映し出された。
「それでは――」
一瞬、会場の照明が落ちる。
暗闇。
そして――。
音楽が始まった。
「――!」
ステージに光が走る。
ナナリー。
マドカ。
アリシア。
三人がステージへ姿を現した。
「きゃああああ!」
観客席から歓声が上がる。
『始まった!』
『三人来た!』
『うわ、映像すごい!』
『これEVで見られるのかよ!』
会場では三人が歌い、踊る。
そして、大型映像装置に三人の姿が映し出された。
さらに――。
「来たよ!」
マドカが歌いながら笑う。
その瞬間。
ステージの横に、もう一組の三人が現れた。
「え?」
観客がざわめく。
そこにいたのは――。
ナナリー。
マドカ。
アリシア。
ただし、本人達とは違う。
三人の幻影だった。
そして幻影達は、本人達とは別の可愛らしい衣装を身につけている。
『え!?』
『幻影!?』
『もう一組出てきたぞ!』
『衣装違う!』
『可愛い!』
『本人達と同じ振り付けしてる!?』
本人達が踊る。
幻影も踊る。
完全に同じ振り付け。
しかし衣装は違う。
現実の三人はライブ用の衣装。
幻影の三人は、可愛らしい別デザインの衣装。
「おおおおお!」
会場がさらに沸く。
EVのコメント欄も一気に流れ始めた。
『マジかよ、踊ってるぞ!』
『ヒロバトの幻影ってこんなことまでできるの!?』
『本人と幻影で二組いるじゃん!』
『衣装違うのずるいw』
『現地組羨ましい!』
『いやEVでもめちゃくちゃ見えるぞ!』
『これ半額で見ていいのかよ』
幻影達は、本人達の動きを完全に再現している。
歌に合わせて身体を動かし、振り付けを揃え、三人で位置を入れ替える。
そして――。
サビ。
本人達と幻影達が同時に大きく腕を広げた。
大型映像装置にも六人の姿が映る。
会場から歓声が響き渡った。
「すごい!」
アリシアが歌の合間に声を上げる。
マドカも楽しそうに笑っている。
ナナリーは観客席を見ながら、さらに歌声を響かせた。
そしてEVの向こう側でも。
『これ、現地じゃなくても楽しいな』
『でも現地の音圧は絶対すごいだろ』
『次は現地行きたい』
『今回はチケット買って正解だった』
『無料配信じゃない理由分かったわ』
『これを無料で流したら確かに大変そう』
ライブはそのまま続いていく。
曲が変わる。
衣装が変わる。
演出も変わる。
幻影達も、三人の動きを完全に追い続ける。
会場の観客は歓声を上げ、EVの視聴者はコメントを書き込む。
誰もが、この時間だけの特別な公演を楽しんでいた。
◆
ライブが終わった。
会場では大きな拍手が鳴り響いている。
EVの画面も、最後の三人の姿を映していた。
「今日はありがとうございました!」
ナナリーが手を振る。
「またねー!」
マドカも笑う。
「ありがとうございました!」
アリシアも頭を下げた。
そして――。
映像が終了する。
画面には、ただ一つ。
『本日の配信は終了しました』
それだけが表示された。
情報塔では、ライブの映像は流れない。
後から無料で見ることもできない。
チケットを買わなかった者には、その映像を見る方法はない。
翌日。
町のあちこちで、ライブを見た者達が話していた。
「昨日のライブ見た?」
「ああ。凄かったな」
「幻影の衣装、可愛かったよな」
「六人並んだところ凄かった!」
「え?」
そこへ、別の冒険者が近づいてくる。
「何の話?」
「昨日のトライアングルライブ」
「……ああ」
冒険者が少し気まずそうにする。
「俺、見てないんだよ」
「え?」
「チケット買い忘れた」
「……」
しばし沈黙。
「……お前、昨日のライブ見てないの?」
「……うん」
「マジかよ」
その一言には、わずかな優越感が混じっていた。
「すごかったぞ」
「……そんなに?」
「ああ」
「どんな感じだった?」
「それは――」
見た者は少し考える。
「自分で見た方がいい」
「だからチケットもう売ってないんだって!」
「……あ」
そこで二人とも黙った。
もう、同じものを見ることはできない。
それこそが――。
今回の特別ライブだった。




