公爵家初訪問
数日後。
マドカはリゼットとともに、ノイティス公爵家を訪れていた。
「着いたー!」
転移装置を抜けたマドカが、目の前の屋敷を見上げる。
「わぁ……」
「ようこそ、マドカちゃん」
玄関では、クリスティーナが嬉しそうに待っていた。
「お母さん!」
マドカが駆け寄る。
「今日はゆっくり見ていってくださいね」
「うん!」
その後ろから、リゼットも屋敷へ入る。
「……」
静かに周囲を見回す。
「リゼット様?」
「別に」
クリスティーナが苦笑する。
「今日はかなり確認するつもりなのでしょう?」
「当然でしょう?」
リゼットは平然と答えた。
「妹が暮らす場所なのだから」
「ふふ。では、どうぞ」
「ええ」
マドカは二人を見比べる。
「お姉ちゃん、何するの?」
「あなたが安心して暮らせる場所か確認するのよ」
「私はもう安心してるけど?」
「あなたの感覚だけでは判断しないわ」
「そっかー」
マドカはあっさり納得した。
◆
「ここがマドカちゃんのお部屋です」
クリスティーナが扉を開く。
「わぁ!」
マドカが部屋へ入る。
広い。
大きなベッド。
机。
本棚。
衣類を収納する家具。
窓からは庭が見える。
「すごい!」
マドカが部屋を見回す。
そして、棚に並んだ品々を見つけた。
「これ、ちゃんと置いてくれてる!」
エキドナの商品。
モンバトのグッズ。
ナナリーのグッズ。
トライアングルのグッズ。
マドカが好きなものが、きちんと部屋の中に収められている。
「お母さん、これ全部?」
「ええ」
「いいね!」
マドカが嬉しそうに笑う。
その様子を、リゼットは黙って眺めていた。
「……ふぅん」
「お姉ちゃん?」
リゼットが部屋全体を見る。
「マドカの好きなものを、ちゃんと分かっているのね」
「もちろんです」
クリスティーナが微笑む。
「公爵令嬢の部屋にするだけなら、こんなものは必要ないでしょう?」
リゼットが棚を見る。
「でも、マドカの部屋にするなら必要よ」
「はい」
「……分かってるわね」
リゼットが小さく笑った。
「合格」
「何の合格?」
マドカが首を傾げる。
「あなたの部屋として、ちゃんと考えられているかよ」
「へー」
マドカは気にせず、グッズを眺めている。
◆
次にリゼットが確認したのは、防犯だった。
「窓は?」
「警備魔法を施しています」
「夜間も?」
「常時です」
「侵入された場合は?」
「屋敷の警備と連動します」
「使用人が勝手に入ることは?」
「ありません」
リゼットが頷く。
「合格」
「二回目!」
マドカが笑う。
「お姉ちゃん、今日いっぱい合格出すね」
「まだ終わっていないわ」
「まだあるの!?」
マドカが苦笑した。
◆
使用人たちへの確認も終わり、最後に専属侍女が紹介された。
「では、セシリア」
「はい」
一人の女性が前へ出る。
姿勢は完璧。
歩き方も、礼も、視線も隙がない。
「初めまして、マドカお嬢様」
セシリアが深く頭を下げる。
「本日より、お嬢様の専属侍女を務めさせていただきます。セシリアと申します」
「マドカです!」
マドカも頭を下げる。
「よろしくお願いします!」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
セシリアは完璧な笑顔を浮かべた。
リゼットがじっと彼女を見る。
「あなた、マドカとは今日が初対面なのよね?」
「はい」
「それなのに、ずいぶん準備しているようだけれど」
「奥様から事前に、お嬢様について伺っております」
「どこまで?」
「生活習慣、好まれるもの、苦手なこと。エキドナでの活動についても、可能な限り把握しております」
「なるほど」
リゼットの目が細くなる。
「マドカの予定管理も?」
「はい」
「エキドナへ行く時も?」
「必要であれば同行いたします」
「劇や配信の予定も?」
「お嬢様から確認し、必要に応じて公爵家側との調整を行います」
リゼットが少し笑った。
「……しっかりしてるわね」
「ありがとうございます」
「合格」
「また合格!」
マドカが笑う。
「お姉ちゃん、今日何回目?」
「いいじゃない」
リゼットは満足そうだった。
「これなら安心して任せられるわ」
◆
夕方。
一通り屋敷を見終えた頃、クリスティーナがマドカへ尋ねた。
「マドカちゃん」
「なに?」
「今日は、このまま泊まっていきませんか?」
「泊まる?」
「ええ。せっかく来たのですもの」
マドカがリゼットを見る。
「お姉ちゃんは?」
「私も泊まるわ」
「やった!」
マドカが嬉しそうに笑う。
「じゃあ今日は、お母さんの家でお泊まり会だね!」
「ふふ。そうですね」
リゼットも小さく笑った。
「では、私も準備をいたします」
セシリアが静かに頭を下げる。
「明日の予定も確認しておきます」
「明日?」
マドカが振り返る。
「はい。お嬢様がエキドナへ戻られるのでしたら、私も同行いたします」
「セシリアも来るの?」
「専属侍女ですから」
セシリアは完璧な笑顔で答えた。
「お嬢様のご予定を把握し、必要なところへ同行するのも私の仕事です」
「そっか!」
マドカが嬉しそうに笑う。
「じゃあ、明日からよろしくね!」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いいたします」
その日の夜。
マドカは初めて、自分のために用意された部屋で眠ることになった。
そして――。
明日からは、この専属侍女もエキドナへ同行することになる。




