ナナリー配信 ゲストムサシとガイル
「はい、みなさんこんばんはー!」
ナナリーがカメラに向かって手を振る。
「今日はちょっと特別なゲストが来てくれてますよー!」
隣に座っているムサシを見る。
「ムサシさんです!」
「よ、よろしくお願いしますぞ……」
ムサシが妙に姿勢を正して頭を下げる。
「そして、その隣がムサシさんのお弟子さんのガイルさんです!」
「よろしくお願いします」
ガイルも軽く頭を下げた。
『ムサシさん来た!』
『剣聖本人!?』
『なんでナナリーの配信に剣聖がいるんだよw』
『ガイルさんもいるじゃん』
『この二人、どういう組み合わせなんだw』
「今日はですねー」
ナナリーが楽しそうに続ける。
「せっかくなので、ムサシさんに色々聞いてみようかなと思います!」
「ワシに答えられることなら、何でも答えますぞ」
「ほんとですか?」
「もちろん!」
「じゃあ、まず――」
ナナリーが少しだけ笑う。
「ムサシさん、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ?」
「……」
ムサシが固まる。
「緊張?」
「してますよね?」
「い、いや……」
「さっきからずっと姿勢が固いですよ?」
「それは、その……」
ムサシが視線を逸らす。
「ナナリー殿の配信ですからな……」
『www』
『ガチガチじゃんw』
『剣聖が緊張してるw』
『ガブちゃんの時は普通だっただろw』
『ナナリー本人を前にしたらこれかよw』
「ふふ」
ナナリーが笑う。
「じゃあ、いつも通りで大丈夫ですよ」
「努力します……」
「努力するものなんですか?」
『ナナリー容赦ないw』
『ムサシさん完全にファンじゃんw』
ガイルが隣で小さくため息をつく。
「師は、ナナリーさんの配信が始まるといつもこんな感じですよ」
「ガイル!」
「事実でしょう」
「それは……そうですが!」
『ガイルさん暴露w』
『弟子が一番冷静』
『ムサシさん普段どんな感じなんだよw』
「そういえば!」
ナナリーがコメント欄を見る。
「ムサシさんって、どうしてゴールに来たんですか?」
「ああ、それはですな――」
ムサシが少し照れたように笑った。
「ナナリー殿の配信を見ましてな」
「私の?」
「ええ。次の公開配信があると知りまして、どうしても間に合わせたくなりましてな」
「それで?」
「走ってきました」
「……走って?」
「ええ」
ガイルが横から淡々と補足する。
「本当に走ってきました」
『wwwww』
『剣聖が走った!?』
『何のためにwww』
『ナナリーの配信に間に合わせるため!?』
『Sクラスのガイルさんも一緒に!?』
「師がどうしても間に合わせると言うので」
「ガイルも一緒に来てくれましたからな!」
「私は師匠が無茶をしないように付いてきただけですよ」
「無茶ではないでしょう!」
「山からゴールまで走るのは、普通は無茶だと思います」
『ガイルさん苦労してそうw』
『剣聖を止める係』
『ナナリーの配信のために山から走ってきた男w』
「でも、それだけ私の配信を見てくれてたんですね」
ナナリーが嬉しそうに笑う。
「ありがとうございます!」
「い、いえいえ!」
ムサシが急に姿勢を正した。
「こちらこそ、いつも素晴らしい配信をありがとうございます!」
『また緊張したw』
『本人からお礼言われて固まってるw』
『ムサシさんかわいいなw』
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ?」
「いや、その……」
ムサシは少し視線を逸らした。
「実物のナナリー殿を前にすると、少々……」
「ふふ」
ナナリーは楽しそうに笑う。
「じゃあ、まずは普通の質問からいきましょうか!」
ナナリーがコメント欄を見る。
「ムサシさんがゴールに来た理由も、もう分かりましたね!」
『理由がナナリーの配信w』
『剣聖の目的が平和すぎる』
『それでガイルさんまで巻き込まれたのかw』
「では、次の質問!」
ナナリーがコメントを拾う。
『エキドナ館でトライアングルを見たって本当ですか?』
「ああ、それですな!」
ムサシの顔が少し明るくなる。
「エキドナ館でナナリー殿のグッズを買っておりましたら、店内の画面にトライアングルが映りましてな」
「トライアングルも見てくれてるんですね!」
ナナリーが嬉しそうに笑う。
「ありがとうございます!」
『ナナリーめっちゃ嬉しそうw』
『トライアングルも見てたのか!』
『マドカとアリシアの感想聞きたい』
「じゃあ、せっかくだから聞いてみましょうか」
ナナリーがムサシを見る。
「マドカとアリシアの印象って、どんな感じでした?」
「ほう」
ムサシは少し考えた。
「マドカは――」
一拍。
「めんこい娘ですな」
「まぁ、わかります!」
『第一印象そこ!?w』
『めんこいw』
『剣聖から見てもマドカはめんこいのかw』
「そしてアリシアは……」
ムサシが真剣な顔になる。
「女神かと思いましたな」
「まぁ、わかる!」
ナナリーが即答した。
『ナナリーも認めたw』
『アリシアってなんか引き付けられる魅力あるよな』
『分かる人には分かる』
「なんと言いますかな」
ムサシは少し考えながら続ける。
「アリシア殿は、こう……人を引き付ける魅力がありますな」
「そうなんですよ!」
ナナリーも嬉しそうに頷く。
「なんか自然と目が行くんですよね」
「ええ。見ていて不思議と惹かれる」
『二人ともアリシア評価高すぎw』
『女神判定が一致してるw』
『アリシアさん本人は何もしてないのにw』
「でも、ナナリー殿も素晴らしいですぞ」
「え?」
「歌と踊りです」
ムサシは真剣な顔で言った。
「ナナリー殿の歌とダンスは、本物の努力の結晶ですな」
「……」
ナナリーが少し照れる。
「ありがとうございます」
「ワシには歌や踊りのことは詳しく分かりませんが、それでも分かる」
ムサシは穏やかに笑う。
「一つ一つの動きに、積み重ねてきたものがあるのでしょうな」
『ムサシさんガチファンすぎるw』
『めちゃくちゃ見てるじゃん』
『剣聖に努力を見抜かれるナナリー』
「それに――」
ムサシが三人の名前を並べる。
「ナナリー殿、マドカ、アリシア」
少し笑う。
「この三人だからこそ、あれほど人気があるのでしょうな」
「うん!」
ナナリーも嬉しそうに頷いた。
「三人とも全然違うから面白いんですよ!」
『それは確かに』
『三人のバランスいいよな』
『ムサシさん、もう普通にトライアングルファンじゃんw』
「ワシもそう思いますぞ」
ムサシは満足そうに頷いた。
「これからも応援させていただきます」
「ありがとうございます!」
ナナリーが笑顔で頭を下げる。
その横でガイルが小さく呟いた。
「……師匠、今日はずいぶん楽しそうですね」
「当たり前だろう!」
『ガイルさんw』
『師匠の推し活を見守る弟子』
『一番大変なのガイルさんじゃない?』
コメント欄には、そんな言葉が次々と流れていった。
その日の夜。
ナナリーの配信が終わり、屋敷の一室にはエキドナのメンバーとムサシ、ガイルが残っていた。
「いやー、楽しかったですな!」
ムサシが満足そうに笑う。
「ナナリー殿の配信に出られるとは……長生きはするものですな」
「ふふ。よかったですね」
ナナリーも笑う。
しばらく雑談をしていたが、ムサシがふとマドカを見る。
「ところで、マドカよ」
「ん?」
「一つ、聞きたいことがあるのだが」
「なに?」
「ワシが日本にいた頃の、その後のことだ」
ムサシが少しだけ真面目な顔になる。
「ワシが死んだ後、日本ではワシのことはどうなっておるのでしょう?」
「……」
マドカが首を傾げた。
「んー……」
「知らぬか?」
「うん」
あっさり答える。
「私、宮本武蔵が剣術家だったってことくらいしか知らないんだよね」
「そうなのか?」
「うん。学校で名前を聞いたことがあるくらい」
マドカは少し考える。
「有名な人だった、っていうのは知ってるけど、何をしたとかまではあんまり……」
「なるほど」
ムサシは少し残念そうにしながらも、納得したように頷いた。
「では、ナナリー殿は?」
「私ですか?」
「ええ。マドカと同じ時代の日本にいたのでしょう?」
「はい」
ナナリーは少し考える。
「私も歴史が専門ってわけじゃないので、詳しいことまでは分かりませんよ?」
「それでも構いません」
ムサシが身を乗り出す。
「ワシが日本で、どのような人物として残っているのか。それを少し知りたいのです」
「そうですね……」
ナナリーは記憶を探るように考える。
「宮本武蔵は、かなり有名ですよ」
「ほう!」
「二刀流の剣術家として知られていますし、『五輪書』を書いた人としても有名です」
「五輪書……」
ムサシが目を細める。
「ワシが書いたものですな」
「そうですね」
「なるほど……」
ムサシは少し嬉しそうに頷く。
「では、ワシの剣は後世にも残ったのですな」
「はい。かなり有名だと思います」
「それで、他には?」
「他……ですか?」
「ええ。ワシはどのように語られておりました?」
「うーん……」
ナナリーが少し困ったように笑う。
「私が知ってる範囲だと、かなり伝説化されていると思います」
「伝説?」
「はい。巌流島の決闘とか」
「おお!」
ムサシの目が輝く。
「巌流島も残っているのですか!」
「ええ」
「佐々木小次郎との決闘も?」
「有名ですね」
「なるほど……」
ムサシは嬉しそうに笑った。
「では、あれは後世にも語られたのですな」
「かなり有名な話ですよ」
「ふふ……」
ムサシはしばらく黙っていた。
そして、ぽつりと呟く。
「ワシが死んでから、何百年も経っているのに……」
自分の手を見る。
「それでも名前が残っているのですな」
「そうですね」
ナナリーが微笑む。
「日本では、宮本武蔵を知らない人の方が少ないんじゃないでしょうか」
「……」
ムサシの表情が、少しだけ柔らかくなった。
「そうか」
その声には、どこか安心したような響きがあった。
「ワシは、忘れられておらなんだか」
「忘れられるどころか、かなり有名ですよ」
「そうですか……」
ムサシは嬉しそうに笑った。
「それなら、よかった」
「ムサシ」
マドカが横から口を挟む。
「そんなに自分のこと気になる?」
「気になりますとも!」
ムサシが即答した。
「自分がいなくなった後の世界など、知る機会はありませんからな」
「そっか」
「マドカは気にならないのか?」
「私?」
マドカは少し考える。
「んー……」
「自分が地球でどうなったかとか」
「別に?」
「……」
ムサシが少し驚いた顔をする。
「随分とあっさりしておるな」
「だって、今はここにいるし」
マドカはお菓子を一つ取る。
「昔のことより、今の方が楽しいから」
「なるほど……」
ムサシはマドカを見て、少し笑った。
「お主らしいですな」
「でも、ムサシのことはもっと知りたいかも」
「ほう?」
「だって、今は私の師匠だし」
マドカが笑う。
「日本にいた時のムサシがどんな人だったのか、ちょっと気になる」
「それは――」
ムサシが少し胸を張る。
「それは、いくらでも話してやろう!」
「ほんと?」
「三百年分とはいかぬが、ワシが覚えていることならな」
「じゃあ今度聞かせて!」
「うむ!」
ムサシは嬉しそうに頷いた。
その様子を見ていたリゼットが、小さく笑う。
「ずいぶん仲良くなったわね」
「弟子ですからな!」
「まだ会ったばかりでしょうに」
「時間など関係ありませんぞ」
ムサシは堂々と言い切った。
「マドカはもう、ワシの弟子ですからな!」
「お姉ちゃんの弟子でもあるけどね」
「もちろんです!」
「なら問題ないわね」
「そこは即答なんだ……」
ガイルが苦笑した。




