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落内円は落ちている  作者: 七風


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ガブちゃん 道場破りですわ!

 ヒロバトが発売されて、しばらく経った頃。


 ガブリエルは、ついに念願のものを手に入れていた。


「皆さん! やっと自分だけのヒロバト手に入れましたわぁ!」


 EVを手に、ガブリエルが嬉しそうに笑う。


『おおおおお!』


『ついにガブちゃん専用機!』


『前のやつ返却されたもんな』


『金貨300枚だっけ?』


『高すぎて普通の冒険者には無理w』


『王女様の財力すげぇ』


「そうですわ!」


 ガブリエルは胸を張る。


「これで私も、いつでも自分の幻影と戦えますの!」


『本人VS幻影できるのいいな』


『怪我しないからガブちゃん向き』


『でもガブちゃん自身は戦わないんだよな?』


「もちろんですわ!」


 ガブリエルは即答した。


「私が戦うのではありませんの!」


『ですよねw』


『そこ重要』


『ガブちゃんは観戦側』


「本来の使い方は私の幻影と、相手の幻影を戦わせますの!もちろん幻影に普通の方が挑むのも出来ますわ!」


 嬉しそうにヒロバトを掲げる。


「安全に強者同士の戦いを見られる。最高ではありませんか!」


『めちゃくちゃ楽しそうw』


『本人より本人の幻影が戦うゲーム』


『王女様の使い方が完全に観戦勢』


「というわけで――」


 ガブリエルがにっこり笑う。


「今日はですね!」


 一拍。


「冒険者ギルドに来ましたわ!」


『嫌な予感w』


『またギルドかよw』


『何する気だ』


「そこで私の幻影を使っての――」


 ガブリエルが拳を握る。


「道場破りですわ!!」


『出たwww』


『王女様、言葉が物騒w』


『幻影だから安全なのに道場破りっていうギャップ』


『ギルド逃げてー!』


     ◆


 ゴール冒険者ギルド。


 訓練場には、今日も多くの冒険者が集まっていた。


「道場破り?」


「誰だよ、そんなこと言ってるの」


「第二王女殿下です」


「……は?」


 冒険者たちが一斉に振り返る。


 そこにいたのは、いつもの上品な服装のガブリエル。


「こんにちはですわ!」


「王女殿下!?」


「どうしてここに!?」


「ヒロバトを持ってきましたの!」


 ガブリエルはヒロバトを掲げる。


「今日は、私の幻影に皆さんが挑戦していただきますわ!」


「……幻影?」


「はい!」


 ガブリエルは笑顔で答えた。


「私は戦いませんわよ?」


『ここ大事w』


『本人は安全地帯w』


『ガブちゃん、完全に実況席』


『でも相手は本物の冒険者なんだよな?』


 ガブリエルのヒロバトから、幻影が現れる。


 そこに現れたのは――ガブリエル本人。


「おお……」


「そっくりだ」


「本人がそこにいるみたいだな」


 ガブリエルの幻影は、静かに構えた。


 魔力が集まる。


「では!」


 ガブリエルが観客席側から声を上げる。


「第一挑戦者、お願いしますわ!」


「俺が行く!」


 一人の冒険者が前へ出た。


「相手はDランクの王女様の幻影だろ?」


「いや、本人はDランクだけど……」


「まあ、幻影ならそれなりだろ」


『あ』


『Dランクってところだけ見てる』


『やめとけw』


『この人、何も知らないぞ』


「では、開始ですわ!」


 合図。


 冒険者が一気に距離を詰める。


 ガブリエルの幻影が一歩下がった。


 そして――。


 魔法陣が展開する。


「え?」


 冒険者の足元が光った。


「うわっ!」


 爆発。


 次の瞬間には、幻影の剣が振り抜かれていた。


 ――終了。


「……」


「……」


 訓練場が静まり返る。


『え?』


『終わったw』


『速すぎるw』


『ガブちゃん勝ったw』


『幻影が勝手に全部やってくれるの面白い』


「おおー!」


 ガブリエルが嬉しそうに拍手する。


「素晴らしいですわ!」


「いや……」


 倒された冒険者が呆然としている。


「何が起きた?」


「魔法を使ったあと、剣で――」


「見えなかったんだが」


『そりゃそうだw』


『ガブちゃんの幻影、本人の戦闘データだからな』


『Dランクって情報だけで舐めた結果』


 次の挑戦者が出てくる。


「俺が行く!」


 今度は慎重だった。


「魔法だけじゃない。接近戦もできるなら、先に潰す!」


『ちゃんと考えてる』


『さっきの人より強そう』


 開始。


 冒険者が盾を構える。


 ガブリエルの幻影は距離を取った。


 魔法。


 盾で防ぐ。


 さらに魔法。


 今度は横へ逃げる。


「よし!」


 冒険者が前へ出る。


 しかし――。


 ガブリエルの幻影が剣を抜いた。


「――え?」


 一閃。


 盾の隙間を正確に抜いた。


 塗料が付着する。


「終了ですわ!」


 ガブリエルが嬉しそうに宣言する。


『また勝ったw』


『魔法だけじゃなく剣も強いのかよ』


『ガブちゃん本人、横でめっちゃ楽しそうw』


「素晴らしいですわ!」


 ガブリエルは満足そうに頷く。


「次の方、いらっしゃいませんの?」


『煽ってるw』


『王女様が観客席から挑発してるw』


『本人は安全圏なのがまたw』


     ◆


 挑戦者は次々と現れた。


 だが――。


 誰もガブリエルの幻影を倒せない。


 魔法で牽制しながら剣で攻める。


 遠距離から魔法を連発する。


 盾で耐えながら隙を狙う。


 それぞれが工夫する。


 それでも、ガブリエルの幻影は対応した。


『これ、ガブちゃん普通に強くない?』


『Dランクとは?』


『本人が戦ってないのにDランクの評価が一番目立ってるw』


『いや、学校で魔法も近接も実技一位なんだよ』


『え?』


『ガブちゃん、魔法も近接も両方一位』


『それもうDランクがおかしいだろw』


『しかも25層攻略済み』


『は?』


『25層!?』


『誰かギルドの査定担当呼んでこいw』


 訓練場がざわつく。


「25層って……」


「本当に?」


「私、学校で一位ですもの!」


 ガブリエルが胸を張る。


「魔法も近接戦闘も、どちらも一位ですわ!」


『王女様、さらっと爆弾情報出したw』


『魔法だけじゃないのか』


『ガブちゃん普通に強者じゃん』


『それでDランク!?』


     ◆


 しばらくして。


 ギルドの食堂から出てきたガイルが、訓練場の様子に気づいた。


「……何をしているんです?」


「ガイルさん!」


 ガブリエルが嬉しそうに手を振る。


「私、今道場破り中ですのよ!」


「が、頑張ってください」


「参加しないんですの?」


「私はご飯を食べに来ただけなので……」


「逃げるんですの!?」


「逃げるというか……」


 ガイルは苦笑する。


「私まで参加すると、話がややこしくなるので」


『ガイル逃げたw』


『剣聖の弟子、賢い』


『巻き込まれる前に撤退w』


『ガイルさん頑張ってw』


「では、また!」


 ガイルはそのまま食堂へ戻っていった。


「……」


 ガブリエルが少し呆然とする。


「まあ、いいですわ!」


 そして再び観客席へ戻った。


「次の方、どうぞ!」


     ◆


 挑戦者との模擬戦が一段落した頃。


 ガブリエルは、訓練場の奥に置かれているヒロバトへ目を向けた。


「……あら?」


 そこに登録されているのは、エキドナのメンバーたちのデータ。


「そういえば――」


 ガブリエルが近づく。


「こちらにもエキドナの皆さんのデータがありますわね」


『あ』


『来た』


『まさか』


『ガブちゃん、マドカと戦う気か?』


「私、まだマドカの幻影とは戦っていませんわ」


 ガブリエルが嬉しそうに笑う。


「せっかくですもの!」


『やっぱりw』


『ガブちゃんVSマドカ』


『本人じゃなく幻影同士な』


『ここ重要』


「もちろん――」


 ガブリエルはヒロバトを操作する。


「私の幻影で挑戦しますわ!」


『よし!』


『本人同士じゃないの最高』


『ガブちゃんは観戦席から応援w』


 訓練場の中央に、二つの幻影が現れた。


 ガブリエル。


 そして――マドカ。


「……」


 マドカの幻影が刀を構える。


 ガブリエルの幻影も構える。


「よろしくお願いしますわ、マドカ!」


『幻影だけどなw』


『ガブちゃん礼儀正しい』


『さっきまで道場破りとか言ってたのにw』


「開始!」


 幻影同士が動いた。


 速い。


 あまりにも速い。


「――っ!」


 マドカの幻影が一瞬で距離を詰める。


 ガブリエルの幻影が後ろへ跳ぶ。


 同時に魔法陣を展開する。


「そこですわ!」


 ガブリエルが観客席から声を上げる。


 魔法が放たれる。


 炎。


 雷。


 風。


 次々と魔法が飛ぶ。


 だが――。


 マドカの幻影が刀を振った。


 炎が切れる。


「……」


 観客が固まった。


「今、魔法を……」


 切った。


『魔法って切れるの!?』


『え?』


『今の何?』


『刀で魔法斬ったぞ!?』


『ガブちゃん弱いとかじゃなくて相手がおかしいだろw』


『いやいや、ガブちゃんの魔法の精度もヤバいだろ』


 ガブリエルも目を輝かせる。


「すごいですわ!」


 本人は戦っていない。


 だからこそ、純粋に楽しめる。


「そこからどうしますの!?」


 ガブリエルの幻影が距離を取る。


 魔法。


 また魔法。


 マドカの幻影が斬る。


 斬る。


 さらに斬る。


「なんだこれ……」


 観客の一人が呟いた。


「何をやってるのか分からない」


『分からんw』


『高レベルすぎるw』


『ガブちゃんが魔法撃ちまくってるのに全部切られてる』


『マドカの刀、どうなってんだよ』


『いや、ガブちゃんの魔法の精度もヤバいだろ』


『これ、Dランクの戦いじゃないw』


 ガブリエルの幻影が、さらに後退する。


「なるほど……」


 ガブリエルが頷く。


「近づかせない戦い方ですわね!」


『本人めっちゃ楽しんでるw』


『解説してるのガブちゃん本人w』


『実況席が一番元気』


 しかし、マドカの幻影は止まらない。


 壁を蹴る。


 空中で方向を変える。


 一気に距離を詰める。


「速いですわ!」


 ガブリエルが思わず立ち上がる。


 ガブリエルの幻影が横へ逃げる。


 魔法を放つ。


 マドカの幻影がそれを斬る。


 また逃げる。


 また斬る。


『ガブちゃんずっと逃げてる!』


『いや、これ逃げるしかないだろw』


『近づかれたら終わるぞ』


『ちゃんと戦術考えてるんだよな』


 だが、逃げ続けるだけでは終わらない。


 少しずつ。


 ほんの少しずつ。


 マドカの幻影が距離を詰めていく。


「……!」


 ガブリエルの幻影が魔法を放つ。


 マドカの幻影が一閃。


 魔法を切る。


 そのまま踏み込む。


「来ましたわ!」


 ガブリエルが声を上げる。


 マドカの刀が振り抜かれた。


 ガブリエルの幻影の胸元に――。


 塗料が付着する。


「終了!」


 訓練場が静まり返る。


 そして――。


「…………」


 ガブリエルは、しばらく自分の幻影が消えた場所を見つめていた。


「……やっぱり」


 小さく笑う。


「まだ勝てませんわねぇ~」


『www』


『ガブちゃん悔しそうw』


『でも楽しそうなの何なんだよw』


『普通にいい勝負だったぞ』


『マドカがおかしいだけでガブちゃんも強かった』


『ガブちゃんの幻影、最後までちゃんと戦ってたからな』


『本人は一めっちゃ満足そうw』


「でも――」


 ガブリエルはすぐに笑顔を取り戻した。


「面白かったですわ!」


『やっぱり観戦勢w』


『戦うより見る方が好きそう』


『ガブちゃんのヒロバトの使い方が完全に分かった』


「では――」


 ガブリエルがカメラを見る。


「今日の配信は、ヒロバトを買って挑戦したかっただけなので!」


『目的それだけだったの!?w』


『道場破りまでしたのにw』


『潔すぎるw』


『もっとやってくれw』


「今日はこの辺で終了ですわ~!」


 ガブリエルが手を振る。


「皆さん、また一緒に遊びましょうね!」


『お疲れ様でしたー!』


『面白かった!』


『次は誰の幻影と戦うんだ?』


『またマドカに挑戦してくれw』


『ガブちゃんの幻影、普通に強かったぞ!』


『今度は勝てるといいな!』


『本人は応援だけなのに一番楽しそうで草』


 最後まで賑やかなコメントが流れ続ける中――。


 ガブリエルのヒロバト初配信は、楽しそうな笑顔とともに終了した。


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