999とマドカ
その日の夜。
エキドナの屋敷では、久しぶりに大人数が一つの部屋に集まっていた。
きっかけは、もちろん――ムサシだった。
「じゃあ、質問配信を始めましょうか」
リゼットがEVを操作する。
「質問は何でも受け付けるわ」
「何でも?」
ムサシが聞き返す。
「ええ」
「では、ワシからも質問してよいのですかな?」
「あなたが答える側でしょう」
「そうでしたな」
ムサシが笑う。
マドカはその隣で、すでにお菓子を食べ始めていた。
「私、質問来るまで食べてていい?」
「いいわよ」
「やった」
『始まった!』
『今日はムサシさん中心?』
『質問何でもって言ったぞw』
『前回かなり答えてたけど、まだ聞きたいことあるわ』
『むしろ聞きたいことしかない』
コメントが一気に流れていく。
そして――。
『ムサシさんって、本当に三百年以上生きてるんですか?』
「正確には分からぬな」
ムサシが苦笑する。
「ワシ自身、何年経ったか数えておらんかったからな」
『数えてないの!?』
『三百年を体感で済ませるなw』
『山籠もりしてたらそうなるのか……?』
「まあ、弟子を取ったり、近くの村と交流したり、魔物を倒したりしておりました」
『思ったより普通に生活してたw』
『剣聖の三百年、意外とスローライフ』
『弟子何人くらいいたんだ?』
「時代ごとに何人かいたな。中には後世で名を残した者もいたのかもしれん」
『自分の弟子が有名になってる可能性あるのに知らないの草』
『本人が一番歴史に疎いw』
「でも――」
別のコメントが流れてくる。
『三百年生きてるってことは、ムサシさんも不老なんですか?』
「そうですな」
ムサシが自分の手を見る。
「少なくとも、老いて死ぬということは今のところないようです」
『今のところってw』
『じゃあリゼットさんも?』
『二人とも不老なの?』
「そうね」
リゼットが頷く。
「私も五百年以上生きているけれど、老いてはいないわ」
『五百年以上!?』
『改めて聞くとヤバいな』
『じゃあ不老になる方法があるってこと?』
「それは分からないわ」
リゼットは少し考える。
「ただ――」
隣のムサシを見る。
「私とムサシには、一つ共通点があるのよ」
『共通点?』
『まさか……』
「レベル999」
『……』
『え?』
『999!?』
「私もムサシも、レベルが999で止まっているの」
『二人とも!?』
『待って、ムサシも999なの!?』
『三百年前の剣聖と大賢者がどっちも999!?』
「私は五百年以上、999から変化していないわ」
「ワシもですな」
ムサシも頷く。
「気づいたら999になっておりました」
『気づいたら!?』
『レベル999をそんな扱いするなw』
「だから私は、レベル999が何らかの境界なのではないかと思っているの」
『境界って?』
『999が上限ってこと?』
『それとも999になると何か起きる?』
「そこまでは分からないわ」
リゼットは首を横に振る。
「私自身、999になった瞬間に何か特別なことが起きたという記憶はないもの」
「ワシもですな」
ムサシも腕を組む。
「何か特別な存在に会った、というような記憶もありません」
『本人たちにも分からないのかよw』
『実験結果が二人しかいないw』
『前例がなさすぎる』
「ただ、私達が長く生きていることを考えれば、レベル999に到達したことで何かが変化した可能性はあるでしょうね」
『不老になった原因が999かもしれないってこと?』
「可能性がある、というだけよ」
リゼットが釘を刺す。
「999になれば必ず不老になる、と言えるほどの情報はないわ」
『なるほど』
『そこはまだ謎なんだな』
『じゃあ999になってみないと分からないのか』
「それに――」
リゼットが続ける。
「レベルが999で止まっているからといって、強くならないわけではないのよ」
『え?』
『レベル上がらないのに?』
「技術も経験も増えるもの」
リゼットは淡々と説明する。
「魔力の扱い方も、身体能力も、戦い方も。レベルが変わらなくても成長する部分はあるわ」
「ワシもまだまだ修行中ですからな!」
『三百年生きてまだ修行中w』
『剣聖がまだ成長するのかよ』
『レベル=強さじゃないってこと?』
「そういうことね」
リゼットが頷く。
「レベルと強さは、完全に同じものではないわ」
そこへ、別のコメントが流れてきた。
『じゃあ、レベル999を目指してる冒険者はいるんですか?』
「いるでしょうね」
リゼットは少し考える。
「でも、私に999への上げ方を聞かれても困るわよ?」
『本人も知らないw』
『大賢者に聞いて分からないのかw』
「むしろ私が教えてほしいくらいよ」
「ワシもですな」
『二人とも他人任せw』
『999研究始めてくれw』
そんなコメントの中――。
『ところで、マドカさんのレベル1って何なんですか?』
「……」
リゼットがマドカを見る。
マドカはお菓子を食べていた。
「ん?」
『来た』
『これ聞きたかった』
『レベル1なのに30層行ってるの何で?』
「それは――」
リゼットが少し困ったように笑う。
「私にも分からないわ」
『大賢者でも!?』
『本人も分からないって言ってたぞw』
『マドカさんの最大の謎』
「ステータス鑑定もしたのよ」
「うん」
マドカが頷く。
「結果は?」
「オールSS」
『…………』
『は?』
『オールSS!?』
「私の知力と魔力がSSSね」
リゼットが続ける。
「他はS程度と思ってちょうだい」
『いや待てw』
『それでも十分おかしいだろw』
『大賢者リゼットの知力・魔力SSS!?』
『じゃあマドカは全部SS!?』
『レベル1で!?』
「ほんと、おかしな子よね」
「おかしいを通り越しておりますがな!」
ムサシが豪快に笑う。
「マドカよ。お主、本当にレベル1なのですか?」
「そうみたい」
『本人の反応が軽いw』
『そこ気にしろよw』
「でもさー」
マドカが首を傾げる。
「レベルって上がらないなら、別に困らなくない?」
『強者の発想w』
『普通は困るんだよw』
「まぁ、あなたはそうでしょうね」
リゼットが苦笑する。
「問題は、なぜレベル1のままなのか。それと――」
リゼットがマドカを見る。
「どうして、あれほど強いのかということよ」
『それだよ』
『30層ソロ余裕なの何なんだ』
『レベル1の説明がつかない』
「マドカは魔力が異常に多いでしょう?」
「うん」
「でも、魔法は苦手」
『え?』
『魔力SSSなのに?』
「ものすごく苦手よ」
リゼットが即答する。
「マッチ程度の火しか出せないでしょう?」
「うん。あれ難しい」
『魔力SSSでマッチ!?』
『どういうことだよw』
「普通ならおかしいわね」
リゼットは少し考える。
「だから私は、マドカの魔力が外へ放出されにくい体質なのではないかと考えているの」
「放出されにくい?」
ムサシが聞き返す。
「ええ」
リゼットが説明する。
「魔力はある。でも、それを魔法として外へ出すことが極端に苦手」
「じゃあ、その魔力はどうなるんですか?」
エレノアが尋ねる。
「体内に残るしかないでしょうね」
「なるほど……」
エレノアが少し考える。
「では、その余った魔力を身体強化に使っている?」
「私はそう考えているわ」
『身体強化極振りってこと?』
『だからあの速度なのか』
『魔法が使えない代わりに身体能力へ全部回ってるのか』
「もちろん、確定ではないわ」
リゼットは念を押す。
「ただ、マドカの身体能力を考えると、それが一番説明しやすいのよ」
「確かに」
ムサシも頷く。
「先ほどワシの幻影と戦った時も、あの身体能力は異常でしたからな」
「速度だけじゃないわ」
リゼットが続ける。
「体力も、回復力も、防御力も高い」
「そうなの?」
マドカが首を傾げる。
「あなた、昔からほとんど怪我をしなかったでしょう?」
「そうだっけ?」
『本人が分かってないw』
『自分の異常さを自覚してないのか』
「それに――」
リゼットがマドカを見る。
「あなたは見たものを覚えるのも異常に速いわ」
『あ』
『ムサシの剣コピーしたやつか』
「剣だけじゃないのよ」
リゼットが続ける。
「知識も、技術も、動きも。必要だと思ったものなら、見ただけで理解してしまう」
「そうなのかな?」
「そうよ」
「ダンスもすぐ覚えていましたね」
エレノアが笑う。
「そういえばそうだったわね」
リゼットも頷く。
「目そのものも強化されているのかもしれないわ」
「目?」
「大量の魔力を使って、見る能力を強化しているのではないかしら」
『身体だけじゃなく目も強化!?』
『そりゃ学習速度おかしくなるわ』
『マドカの魔力、全部変な方向に使われてるw』
「だから、ムサシの剣も――」
リゼットがムサシを見る。
「見て、覚えた」
「ええ」
ムサシが嬉しそうに頷く。
「しかも、ワシの幻影と戦いながらですな」
『あれヤバかったよな』
『最初は避けてるだけだったのに途中から弾き始めた』
『20分見て10分でコピーしたんだっけ?』
「それもマドカの特異体質の一部だと思うわ」
「へー」
マドカはお菓子をもう一つ取る。
「便利じゃん」
『本人そこなのかよw』
『便利で済ませるなw』
「ただし――」
リゼットが少しだけ表情を変える。
「だからといって、マドカのレベル1の理由が分かったわけではないわ」
『結局そこは謎w』
『特異体質=レベル1ではないのか』
『じゃあ本当に別問題なんだな』
「ええ」
リゼットは頷く。
「身体能力が高い理由は、ある程度推測できる」
「でも、レベル1の理由は分からない」
「そういうことね」
『めちゃくちゃ気になる』
『いつか判明するのか?』
『本人は上げたいの?』
マドカが顔を上げる。
「ん?」
『マドカさんはレベル999になりたいですか?』
「上げ方教えてよ」
『www』
「上げるからさぁ」
『本人も上げる気あるんだw』
「分からないから困ってんじゃん」
「私も分からないのよ」
『大賢者でも分からない問題w』
『これは研究案件だな』
「まぁ、そのうち分かるんじゃない?」
マドカはあっさり笑った。
「分かったら教えてね」
「あなたが先に分かるかもしれないわよ?」
「それなら楽しみだね!」
『本人が一番楽しそうw』
『レベル1の謎、まだまだ続きそうだな』
ムサシがマドカを見る。
「マドカよ」
「ん?」
「お主は、本当に面白い娘ですな」
「そう?」
「ええ」
ムサシが笑う。
「剣を見れば覚え、魔力を持て余し、それでもレベルは1のまま」
「なんか変なの?」
「大変に変ですな!」
「そっかー」
『本人納得してるw』
『最後までマドカだった』
リゼットがEVを操作する。
「さて、今日はこの辺でいいでしょう」
「もう終わり?」
「十分話したでしょう」
「そっか」
マドカが残っていたお菓子を口に入れる。
「じゃあ終わり!」
『お疲れ様でした!』
『999の話面白かった!』
『マドカのレベル1、余計に気になったわw』
『特異体質の設定すごいな』
『999が本当に不老の条件なのかはまだ分からないのか』
『続報待ってます!』
こうして――。
ヒロバト発売を記念して行われた質問配信は、999とマドカの謎を残したまま終了した。




