剣聖ムサシとリゼットの過去
『現代の剣聖ってこと?』
『剣聖って今もいるんじゃないの?』
『そもそも剣聖って一人なの?』
コメント欄が一気に流れていく。
その様子を眺めていたムサシが、首を傾げた。
「現代の剣聖……それがワシには分からんのだが」
「でしょうね」
リゼットが頷く。
「あなた、三百年近く山に籠もっていたもの」
「なるほど」
『三百年山籠もり!?』
『スケールがおかしいw』
『じゃあ現代のこと何も知らないのかw』
「では、少し昔の話をしましょうか」
リゼットがカメラを見る。
「ムサシは過去、スリーピア王国で私と一緒に様々な事件を解決していたのよ」
「そうですな!」
ムサシが嬉しそうに頷く。
「モンスターの大量発生があった時もありましたな」
「ええ」
「巨大なドラゴンが現れたことも」
「それもあったわね」
「過去のスリーピアで内戦が起きたこともありましたな」
「まぁ、あの時代は内戦なんてゴロゴロあったものね」
『事件の規模が全部おかしいw』
『モンスター大量発生、ドラゴン、内戦って英雄譚じゃん』
『それを「色々ありましたな」で済ませるのかよw』
「その度にリゼット様が――」
ムサシが当時を思い出すように笑う。
「『あれをやれ』『これをやれ』とワシに命じるわけですな!」
「だって、あなた騎士団長だったでしょう?」
「そして剣聖でもありましたからな!」
ムサシが豪快に笑った。
「ワシはリゼット様と一緒に戦場を駆け回っていたわけですな!」
「ふふ」
リゼットも懐かしそうに笑う。
「その頃は、まだお爺ちゃんじゃなかったわね」
『え?』
『じゃあ当時のムサシって?』
「まだ三十代くらいの男性だったわ」
『三十代!?』
『今と全然違うじゃんw』
『300年前の騎士団長!?』
『しかも剣聖!?』
「そう考えると、ずいぶん時間が経ったものね」
リゼットが少し遠くを見る。
「そして――」
一度言葉を切る。
「私の不老の原因が、もしかしたら分かったのかもしれないの」
『え?』
『なんか原因あるの!?』
『リゼットさんずっと美人なの、それ関係?』
ムサシが不思議そうに首を傾げる。
「ワシには分からんが……リゼット様はワシに会う前からずっと美人さんなんだろう?」
「ええ。それはそうだけど」
『本人公認w』
『ムサシさん、そこ気にするとこじゃないw』
『この二人昔からこんな感じなのかw』
「私とムサシには、ある共通点があったのよ」
リゼットがムサシを見る。
「それは――」
一拍。
「レベル999」
『……』
『え?』
『999?』
「私もムサシも、レベルが999で完全に止まっているの」
『二人とも!?』
『待って、ムサシも999なの?』
『300年前の剣聖と大賢者がどっちも999!?』
「私は500年以上、999から変化していないわ」
「ワシもですな」
ムサシが自分の手を見る。
「なるほど……」
「だから私は、レベル999が何らかの境界なのではないかと思っているの」
『レベル999が境界?』
『それ以上になれないんじゃなくて?』
『じゃあ二人とも、その境界を越えたってこと?』
「そういう可能性があるわね」
リゼットは頷く。
「普通の人間がレベル999になった時、何が起こるのか。私達にも正確なことは分からないわ」
『本人達にも分からないのかよw』
『実験結果が本人二人しかいないw』
『前例がなさすぎる』
「ただ、私達が長く生きていることを考えれば、何かが変化したと考えるのが自然でしょうね」
「では、ワシが今も生きている理由も、それですかな!」
「多分ね」
『剣聖が300年前から生きてる』
『大賢者も500年以上生きてる』
『二人ともレベル999』
『そして不老!?』
『情報量が多すぎるw』
「私も、500年以上生きるつもりで生きていたわけではないのよ」
リゼットが苦笑する。
「気づいたら長く生きていた、というだけね」
「ワシも似たようなものですな」
ムサシが笑う。
「なんか死なないな、程度で三百年経っておりました」
『軽いw』
『300年生きててそれ!?』
『長命者の感覚どうなってんだよw』
「長命になれば、そんなものよね?」
「そうですな!」
『納得するなw』
「だからこそ、999を目指す冒険者や、レベルについて研究している人たちにとって、今回の情報には意味があると思っているわ」
『999を目指す人増えそう』
『世界中で999研究始まりそうだな』
『到達したら何が起きるんだ』
『不老になる可能性があるってこと?』
「可能性がある、というだけよ」
リゼットが釘を刺す。
「私達自身、何が起きたのか正確には分かっていないのだから」
『そこは大事だな』
『確定情報ではないのね』
「そして――」
リゼットは少しだけ笑った。
「ここまで聞いて、マドカのことも気になっているでしょう?」
『そりゃ気になる』
『レベル1の子だろ?』
『剣聖の弟子になった子』
「ええ。マドカのレベル1の問題だけは、私にも本当に分からないわ」
『そこは分からないの!?』
『本人も分からないって言ってたけど、大賢者でも分からないのかよ』
『999の話よりそっちの方が気になるんだけどw』
「ただ、マドカのことなら、ある程度は分かっているわ」
リゼットは少し考える。
「マドカは、本当に呆れるくらい魔法が使えないのよ」
『え?』
『あれだけ強いのに?』
「魔力そのものは異常に高いのに、外へ魔法として出すのがほぼ出す事が出来ないくらいに苦手なの」
リゼットは淡々と説明する。
「その反動なのか、体内の魔力を身体強化へ極端に回しているみたいなのよね」
『身体強化極振りってこと?』
『だからあんなに速いのか』
「ええ。普通の人間が使う身体強化とは、規模が違うわ」
「常人の数倍……いえ、十倍程度になっていてもおかしくないと思っているわ」
『十倍!?』
『そりゃマドカああなるわw』
『魔法が使えない代わりに全部身体に突っ込んでるのかよ』
「もちろん、これは私の推測だけれどね」
リゼットは続ける。
「実際、マドカは魔力を持て余しているようなところがあるもの」
「それで、あの身体能力……」
ムサシが納得したように頷く。
「なるほどな」
「ただ――」
リゼットは少し笑った。
「それだけでもないのよ」
「?」
「マドカは、見たものを覚えるのが異常に速いの」
『あー、だから剣も』
『ムサシの剣術コピーしてたもんな』
「知識もそうね。教えれば、詰め込んだだけ覚えてしまうのよ」
『えぇ……』
「だから、正直なところ学園のような場所に通う必要もあまりないでしょうね」
「本人にとっては、自分で勉強した方が早いのか」
ムサシが感心したように言う。
「そういうことね」
「なるほど……」
ムサシが画面の向こうのマドカを思い出す。
「剣も知識も、見れば覚えると」
「ええ」
リゼットは頷く。
「だからこそ、あの子がどこまで成長するのか、私にも分からないのよ」
『いや、それもう十分分かってるだろw』
『リゼットさんが匙投げてるw』
『身体強化十倍+学習速度バグってるってこと?』
『レベル1の謎だけ残ったな』
「ステータス鑑定もしたのよ」
リゼットが話を戻す。
「結果は――オールSS」
『…………』
『は?』
『オールSS!?』
「私の知力と魔力がSSSね。他はS程度と思ってちょうだい」
『いや待てw』
『それでも十分おかしいだろw』
『大賢者リゼットの知力・魔力SSS!?』
『じゃあマドカは全部SS!?』
『レベル1で!?』
「ほんと、おかしな面白い子ね」
「おかしいを通り越しておりますがな!」
ムサシが豪快に笑う。
『やばい』
『何なんだよマドカ』
『一人だけおかしいだろ!』
『レベル1でオールSSってどういうことだよ』
『レベルって何なんだ……』
「だから、マドカのレベル1については、本当に何も分からないのよ」
リゼットはそこで一度話を区切った。
「ただ、今回ここまで情報を公開した理由はあるわ」
『何?』
『まだ何かあるの?』
「レベル999になった瞬間、何かが起こる可能性があるということよ」
『!?』
『999が境界ってこと?』
「私もムサシも、いつ変化が起きたのか分からないもの」
「そうですな」
ムサシも頷く。
「特に何かあったという記憶もありません」
「私もそうね」
「気づいたら――」
ムサシが少し笑う。
「なんか死なないな、程度で三百年経っておりました」
『だから軽いってw』
『300年だぞ!?』
『本人にとってはそんなもんなのかw』
「だから、今後レベル999に到達する人が現れたら、その人が何を感じるのか、私達も知りたいところね」
『世界初の999研究対象が自分自身なの草』
『999になった人から情報集めるしかないじゃん』
『誰か到達してくれw』
「そして――」
リゼットはヒロバトを手に取った。
「今回、ヒロバトの発売日にこの話をしたのには、もう一つ理由があるの」
『来た』
『ヒロバトの話だ』
『まだ何か仕込んでるのかw』
「ゴールでは今後、定期的に『過去の剣聖への挑戦』を開催することにしたわ」
「ほう!」
ムサシが嬉しそうに声を上げる。
「ワシの幻影に挑戦できるということですな!」
「ええ」
「強者との挑戦、楽しみですなぁ!」
『剣聖と戦えるイベント!?』
『Sランクでも勝てないだろw』
『でも幻影だから怪我しないのか』
「もちろんムサシの幻影だから、挑戦者が怪我をすることはないわ」
「それなら安心ですな」
「それに、ただ一度戦って終わりではないわ」
『え?』
「ヒロバトの幻影は、元になった本人の現在のデータを更新できるもの」
リゼットが説明する。
「だから、ムサシはレベル999で止まった今も、強くなり続けているでしょう?」
「そうですな」
「私も同じよ」
『え?』
『999なのに?』
『レベル上がってないのに強くなってる!?』
『じゃあレベルと強さって別なの?』
「レベルが変わらなくても、技術や経験まで止まるわけではないもの」
リゼットは淡々と答える。
「私達は今も強くなっているわ」
「ワシも、まだまだ修行中ですからな!」
『300年生きてまだ修行中w』
『剣聖がまだ成長するのかよ』
『マドカと戦ってた時も強くなってる途中だったってこと?』
「だから、ムサシの幻影も今後どんどんアップデートしていくと思ってちょうだい」
『マジかよ』
『剣聖が強くなり続けるのか』
『定期的に挑戦しないと追いつけなくなるじゃんw』
『999目指すしかないのか!?』
「それでは――」
リゼットがカメラを見る。
「今日の告知はここまでね」
そして、少しだけ笑った。
「質問は何でも受け付けるわ」
『質問タイム来た!』
『聞きたいこと多すぎるだろw』
『999についてもっと聞かせて』
『ムサシさん300年前何してたの!?』
『マドカのレベル1の謎を教えてくれ!』
『剣聖って他にもいるの?』
『ヒロバトの幻影ってどこまで強くなるんだよw』
コメント欄が、一気に流れ始めた。
その勢いを見ながら、リゼットは小さく笑った。
「ふふ。ずいぶん質問が多いわね」
――そして、この日の配信はここからさらに長く続くことになる。




