ヒロバト発売に向けて
「ヒロバトで、なんか派手なことしたいねー」
マドカが突然言った。
「そうね」
リゼットが顔を上げる。
「発売も近いし、せっかくなら少しくらい話題になることをしたいわね」
「別に無理に売る必要はないんだけどね~」
「ええ。三百万もするものだし、本当に欲しい人だけ買えばいいわ」
「でも、話題はほしい!せっかくムサシもいるんだし!」
「ワシか?」
「うん。ムサシって、今の人達からしたら謎のおじいちゃんじゃん」
「おじいちゃん……そこは剣聖と呼んでいただきたいものだなぁ!」
「でも今は誰も知らないんでしょ?」
「それがワシには分からんのだ。剣聖というもの自体はこの怠惰の国では存在は今も知られているようでだが、誰が現在の剣聖なのかはワシも知らぬ」
「だったらなおさら面白いじゃん!正体を知らない人から見たら、Sランクの私と戦ってる謎のおじいちゃんだよ?」
「確かにそこは使えるわね。ムサシは今謎の存在。」
「何か面白いイベントですかな?」
ムサシの目が輝く。
「それなら、幻影のワシと幻影のマドカの戦いを公開したらどうですかな?」
「マドカ相手に戦ってるおじいさんって誰~? ってなるわけだね~?」
ニコラが楽しそうに言う。
「そうそう ムサシが誰かなんてのは最初から説明しないの」
「説明しない?」
ガイルが聞き返す。
「うん。普通に動画を出すだけ」
「それはそれで、何の動画なのか分からなくないか?」
「そこがいいんじゃない?」
マドカが笑う。
「『誰なんだこの爺ちゃん、すごい剣術だ!』ってなるかも」
「なるほど……確かに師の名前を出さなければ、私も説明する必要がありませんね。そも私の師は公開していないので。」
「ガイルはSランクなんだから、余計に面白いよ」
「私がかい?」
「うん。『あのガイルの師匠なのか?』ってなるかもしれないし」
「常々、私がSランク冒険者である一方、師が無名というのも納得がいかなかったので」
「ムサシは現在は有名じゃないの?こんなに強いのに!」
マドカがムサシを見る。
「三百年前には有名だったぞ!」
「じゃあ今は?」
「……」
「知られてないんだね」
「そういうことですな……」
ムサシが少し遠い目をした。
「ならば、まずはワシの実力を見せるとしましょう!」
「そうなるわね。今のムサシの実力をまず知らしめる。でも、一回だけじゃもったいないわね」
「何回かやるの?」
「ええ。発売までに数本投稿しましょう」
「同じ二人で?」
「そうよ」
「でも同じ戦いを何度も撮るの?」
「そこはマドカ次第でしょうね。ムサシの動きを覚えるでしょう?」
「うん」
「なら、最初と最後で戦い方が変わるわ」
「なるほど!最初は師が圧倒していても、回を重ねるごとにマドカちゃんが対応していく」
「それなら視聴者も武に通じる者なら気づくでしょうね」
アリシアが口を挟む。
「『前の動画よりマドカさんが強くなっている』と」
「そうそう!」
マドカが楽しそうに頷く。
「最初から全部説明するより、その方が面白いよ!」
「じゃあ、動画には説明を入れない。タイトルも簡単なものでいいでしょう」
「『ヒロバト特別対戦』とか?」
「それでいいわ」
「概要欄はどうします?」
ビアンチが尋ねる。
「何も書かなくていいわ」
「何も!?」
「せいぜい発売日だけでいいでしょう」
「確かに話題になりそうですね!」
ビアンチが楽しそうに頷く。
「コメント欄が勝手に考察してくれそうです」
「それが狙いね。『この爺さんは誰だ』『なんでマドカと戦ってるんだ』『Sランクと互角なのは何者だ』『前の動画よりマドカが強くなってないか』様々なコメントがずっと話し合うでしょうね。」
「うんうんそれで発売日に――正体を明かす、って絶対びっくりする!
リゼットが続ける。
「ええ」
ムサシが腕を組み、満足そうに頷いた。
「では、ワシはしばらく謎の爺さんですな」
「そういうこと」
「ふははは!これは面白くなりそうですぞ!」
「じゃあ決まりだね!」
マドカも笑った。
ヒロバト発売までの数日間。
エキドナは、何の説明もない奇妙な動画を何本か投稿することになった。
映っているのは――
Sランク冒険者、マドカ。
そして、正体不明の老人。
二人がただ、ひたすら剣を交えるだけの動画だった。




