999
「そうそう。ワシ、マドカのこともなのですが……」
ムサシがそこで言葉を濁した。
「その……」
「何よ?」
リゼットが不思議そうに見る。
「遠慮することないのよ?」
「実は……マドカのことを知ったのは偶然なのです」
「偶然?」
「そ、その……」
ムサシが言いよどんでいると、隣からガイルがため息をついた。
「師よ。ハッキリ言いましょう」
「ガイル……」
「リゼット様。ムサシの弟子、ガイルと申します。以後、お見知りおきを」
「ええ。大賢者とか呼ばれているリゼットよ。今はエキドナの代表をしているわ。よろしく」
「こちらこそ」
ガイルが頭を下げる。
そして、そのまま師を見る。
「師は、そのEVでナナリーさんを見まして――」
「ガイル!」
「ゴールまでグッズを買いに来たのです」
「こ、これ! リゼット様に何を……!」
慌てるムサシを見て、リゼットが目を細める。
「まぁ」
そして、どこか楽しそうに笑った。
「あなた、推し活するようになったのね。あの堅物が」
「推し活……?」
ガブリエルが興味深そうに反応する。
「ナナリーさんのファンなんですのね!たまにこの屋敷で会いますわよ」
「な、なんと!」
ムサシの目が輝いた。
「それでエキドナ館でトライアングルを初めて見て、マドカちゃんを知ったのです」
ガブリエルが話を整理する。
「それからギルドの配信を見たわけですね?」
「そういうことです」
「それで、マドカちゃんを弟子にしたくなったと」
「うむ!」
ムサシが力強く頷いた。
「あの娘は天才です。ワシのすべてを伝授してから死にたい」
「師よ!」
ガイルが思わず声を上げる。
「そのようなことを!」
「何を驚いている?」
「いえ、そういう問題ではなく――」
リゼットがムサシをじっと見つめる。
「ふーん」
「……?」
「あなた、死ねないけど?」
「…………」
ムサシの表情が止まった。
「まっ!」
ガブリエルが驚いたように声を上げる。
「ムサシさんも、リゼット様と同様なのではありません?」
「ワシが死ねない?」
ムサシがリゼットを見る。
「どういう……?」
「師が死なない?」
ガイルも困惑する。
「確かに師は、ずっと生きているとおっしゃっていましたが……」
「多分、私の持論なのだけど」
リゼットは少し考えながら話し始めた。
「ムサシ。あなた、レベル999よ」
「……999?」
「そして私も999」
リゼットは自分のことを淡々と話す。
「私は500年以上前から、ずっと999からレベルが上がっていないのよ」
「では……」
ムサシが息を呑む。
「多分、一段階上の存在になって、不老を手に入れたのだと思うのよね」
「……」
ムサシは自分の手を見る。
「ワシも……不老に?」
「そういうことになるのではないかしら」
リゼットは静かに答えた。




