再会
その日のうちに――。
ムサシと弟子は、ガブリエルに連れられてエキドナの屋敷までやって来ていた。
「リゼット様ー!」
ガブリエルが屋敷の中へ入るなり声を上げる。
「お客様ですわよ?」
「ん?」
リゼットが顔を上げると、ガブリエルの後ろにいるムサシを見て首を傾げた。
「誰かしら、そのサムライ」
「おお……!」
ムサシは目を見開いた。
「リゼット様!」
「?」
「ワシです!」
「ワシ?」
リゼットは少し考えると、平然と答えた。
「鳥に知り合いはいないわね」
「ふふ……」
ムサシが笑う。
「相変わらずですな」
「……?」
「ワシです、ムサシです!」
「ムサシ……」
その名前を聞いた瞬間、リゼットの表情が変わった。
「ああ……剣聖ムサシ」
「はい!」
ムサシが嬉しそうに頷く。
リゼットは改めてムサシの姿を眺めると、懐かしそうに目を細めた。
「随分、老けたわね」
「あなたはお変わりなく、美しいままだ」
「そう」
リゼットは特に照れる様子もなく答えた。
「それで――何の用かしら?」
そう言ってから、ふと笑う。
「……というのも無粋ね。久しぶりね」
「はい」
「まさか生きているとは思わなかったわ」
「ワシもです」
ムサシは懐かしそうにリゼットを見る。
「まさか三百年経っても、あなたがそのままとは思いませんでしたからな」
「それはお互い様でしょう」
リゼットが淡々と返す。
「でもあなたは、三百年前とは変わったわね。」
「ふふ……」
ムサシは嬉しそうに笑った。
その横では、弟子とガブリエルが顔を見合わせていた。三百年前から続く知り合い同士の会話に、二人とも完全に置いていかれている。
「ところで――」
しばらくして、ムサシがふと思い出したように口を開いた。
「先日のヒロバト模擬戦を、偶然見ましてな」
「ああ」
リゼットもすぐに察する。
「マドカのことね」
「ええ」
ムサシの表情が真剣になった。
「マドカ。あの娘は……あなたが?」
「ええ」
リゼットは穏やかに答える。
「かわいい妹のような弟子よ」
「そうですか……」
ムサシは頷きながら、マドカの動きを思い返していた。
「とてつもない。ワシの弟子のガイルでは、足元にも及ばない」
「面目ないです、師よ」
ガイルが素直に頭を下げる。
そんな二人を見て、リゼットは少し笑った。
「ふふ。でも、そちらの弟子も強いようね」
「ええ」
ムサシは嬉しそうにガイルを見る。
「自慢の弟子です」
それでも、とムサシは再びマドカの話へ戻った。
「マドカ。あの娘は格が違う」
その言葉に、リゼットが僅かに目を細める。
「どこで出会ったのです?」
「スラムよ」
「……スラム?」
「ええ。孤児だったの」
ムサシが少し驚いたように目を見開く。
「刀を使うということは……和の者かと思っていました」
「いいえ」
リゼットは首を横に振る。
「少なくとも、私が出会った時にはそんなものは何もなかったわ」
「では、どこであの剣術を?」
「保護して、弟子にしたのよ」
「剣術も、リゼット様が?」
「簡単なことを教えただけよ」
リゼットはさらりと答えた。
「知っての通り、私は剣術が本職ではないわ」
「……」
ムサシが黙り込む。
「ならば……」
リゼットは少しだけ肩をすくめた。
「あれは勝手に覚えたのよ」
「…………」
しばらく言葉を失っていたムサシが、ようやく口を開いた。
「……あれは、自己流ですと?」
「そういうことね」
ムサシの目が大きく見開かれる。
「十三の娘が……あれを……?」
「ええ」
「しかも、剣聖であるワシが見ても、あれほどの――」
ムサシは頭を抱えた。
「……いや」
やがてゆっくりと顔を上げ、その目を輝かせる。
「ますます会いたくなりましたな」
リゼットはそんなムサシを見て、小さく笑った。
「でしょうね」




