雑談配信の裏側で
「……また始まったぞ」
ゴール冒険者ギルドの休憩室。
数人の職員が、情報端末に映し出された配信画面を眺めていた。
画面の中では、マドカ、リゼット、アリシアの三人が並んでいる。
「今日は質問に答えまーす!」
「どうぞー」
「それでは、最初の質問ですね」
「これ、ギルドでも見ていいんですか?」
若い職員が恐る恐る尋ねる。
「別に禁止されてないだろ」
先輩職員が答えた。
「それに……今回の配信は、俺たちにとっても他人事じゃない」
「ヒロバトの件ですか?」
「そうだ」
ギルドがエキドナに依頼した三台のヒロバト。
目的は、訓練所での使用。
契約違反をすれば回収。
そして登録されているのは――マドカ、リゼット、アリシアの三人。
その三人の幻影に、先日の訓練で散々叩きのめされた。
職員たちにとって、あまり忘れたくない記憶だった。
『最近、冒険者ギルドからヒロバトを注文されたって聞きました。なんでギルドがヒロバトを欲しがったんですか?』
「あっ」
職員の一人が固まる。
画面の中で、マドカが答えていた。
「ん。配信みてたらびびったんじゃない?」
「でしょうね。あの幻影は手加減ができませんから」
「……」
「……」
「……」
休憩室に微妙な沈黙が落ちた。
「間違ってないのが腹立つな」
「訓練だから手加減してほしかったんですけど……」
「いや、あれは手加減できるような代物じゃないだろ」
「それでも欲しいって言ったの、俺たちなんですよね」
「そうだな……」
画面の中では、リゼットが淡々と説明している。
「ただし、訓練所以外で使ったら契約違反で回収にするとは契約内容にする予定ね」
「そこは絶対に守れよ」
ギルド職員の一人が真顔になった。
「分かってますよ」
「特に上の連中には念を押しておけ」
「はい」
そしてマドカの一言。
「エキドナでは、あのくらいの強さをみんな持っていると思っていいわ」
「…………」
「…………」
「…………」
「いや、それは違うだろ」
誰かが呟いた。
「エキドナの全員があれだったら、ゴールの冒険者ギルドいらなくないか?」
「それを言ったら終わりです」
別の職員が苦笑した。
「でも……実際、あの人たちの周りにいる連中も普通じゃないですよね」
「ニコラさんとかグレタさんとか、戦闘員じゃないのに変なもの作ってるしな」
「ヒナタさんも薬や料理までやってますし」
「アリシアさんなんて普通に冒険者もやってる」
画面の中で、話題はビアンチへ移っていた。
「ビアンチさんって結局何者なんだw」
「確かにいつも質問してる」
「調査員みたいな感じ?」
「……」
職員たちの何人かが顔を見合わせる。
「ビアンチさん、うちにもよく来ますよね」
「調べものしてるな」
「かなり細かいところまで聞いてきますよね」
「市場調査だってさ」
「本当に?」
「知らん」
画面の中で、エキドナ側がビアンチについて説明していく。
「正式にうちの広報してるよー」
「新商品の配信や、メンバーへの質問の配信が結構面白かったって反響があったのよね」
「市場調査なんかも仕事ね」
「なるほど……」
若い職員が頷く。
「だからエキドナの情報に詳しいんですね」
「いや」
先輩職員が腕を組んだ。
「たぶん、広報だから詳しいだけじゃないと思うぞ」
「どういう意味です?」
「……あの人、調べるの好きそうだからな」
そして次の話題。
『エキドナって結局、何をしている集団なんですか?』
「来た」
「これ、俺も知りたい」
「冒険者……ですよね?」
「一応な」
画面の中で、マドカが首を傾げる。
「何してる人って言われても、エキドナしてますってくらいしか」
「……」
「それ答えになってないですよ?」
アリシアのツッコミに、職員たちから笑いが漏れた。
「でも、実際そうなんだよな」
「冒険者として登録してる」
「新商品を作る」
「研究もする」
「商売もする」
「劇まで始める」
「アイドル活動までやってる」
「……何なんだ、あそこ」
誰も答えられなかった。
しばらくして、若い職員がぽつりと言った。
「便利屋?」
「本人たちは便利屋じゃないって言ってるぞ」
「じゃあ何です?」
「エキドナだろ」
「それ答えになってませんよ」
「マドカと同じこと言うな」
また笑いが起きた。
やがて話題はガブリエルへ。
『ガブリエルさんって、そんなにエキドナの商品が好きなんですか?』
「王女殿下の話か」
「最近よく来てますよね」
「新商品が出ると、ものすごい勢いで買っていくって聞いたぞ」
「王女なのに?」
「王女だから金があるんじゃないか?」
「それはそうですけど……」
画面の中で、
「だってガブちゃんだもの」
という言葉が飛び出す。
「……説明になってない」
「でもなんとなく分かる」
そして、ガブリエルが正式なエキドナメンバーではないこと。
卒業後なら正式加入も可能だという話。
「王女が冒険者登録してもうDですけどあのモンバト部はもう25層だそうですよ?」
「王女だろ?何してんだよ!止めてくれよ!!」
先輩職員が苦笑する。
「ただ、あの王女様ならやりかねない気はする」
次の質問。
『エキドナのメンバーって、みんな仲が良さそうですけど、逆に一番ケンカするのは誰ですか?』
「ニコラさんとグレタさんか」
「分かる」
「すげえ想像できる」
「『まだー?』」
「『早くしろよ!』」
「……」
職員たちの間に、妙な一体感が生まれた。
「一回見てみたいな」
「俺も」
「絶対面白いだろ」
配信はさらに進んでいく。
新商品。
ヒナタの治療薬。
アーノルドの料理。
マドカの食べ歩き。
リゼットとの付き合い。
そして――。
『マドカさんとリゼットさんにとって、エキドナってどんな場所ですか?』
休憩室が少し静かになった。
画面の中で、マドカが即答する。
「家!」
「家ね」
リゼットも当たり前のように続けた。
アリシアが二人を見て、笑う。
「ふふ。そうですよね」
コメント欄が一気に流れる。
『即答w』
『家だった』
『エキドナ=家』
『なんか最後に一番納得した』
職員たちも、しばらく黙って画面を見ていた。
「……家、か」
若い職員が呟く。
「そう考えると、あの人たちが自由なのも分かる気がしますね」
「自由?」
「自分たちの家で、自分たちの好きなことをしてるんですよ」
「……なるほどな」
先輩職員は、少しだけ笑った。
「だからギルドの依頼を受けなくても平気なのか」
「そうですね」
「だから素材を売りに来なくても平気なのか」
「ですね」
「だからSランクになっても、強制依頼を拒否するのか」
「……それはどうなんでしょう」
別の職員が苦笑する。
「でも、ヒロバトは置いてくれるんですよね」
「訓練所限定でな」
「だったら、まあ……」
先輩職員は画面を見ながら腕を組んだ。
「これからも、うまく付き合っていくしかないだろ」
「ですね」
配信画面の中で、マドカが手を振っている。
「また質問あったら答えるねー!」
そして配信終了。
画面が切り替わった。
しばらく誰も口を開かなかった。
「……さて」
先輩職員が立ち上がる。
「仕事に戻るか」
「はい」
「ところで、ヒロバトの訓練、発売されたらやるんですよね?」
「ああ」
「……またあの三人にボコボコにされるんですか?」
「幻影だ」
「分かってますよ」
「それでも強いんだよ」
「ですよねぇ……」
ゴール冒険者ギルドの職員たちは、少しだけ遠い目をしながら休憩室を出ていった




