Sランク認定
エキドナの屋敷。
いつものように、それぞれが自分の仕事をしていた時だった。
「リゼット。手紙が来てる~」
ニコラが一枚の封筒を持って、部屋へ入ってきた。
「手紙?」
リゼットが顔を上げる。
「ギルドからみたいだよ~」
「この前の件かしらね」
リゼットが封筒を受け取る。
マドカも横から覗き込んだ。
「Sランクの話?」
「たぶんそうでしょうね」
封を切る。
中には、かなり丁寧に書かれた書状。
そして――もう一つ。
「……ネックレス?」
マドカが首を傾げる。
封筒から取り出されたのは、金属製のネックレスだった。
中央には、冒険者ランクを示す証が取り付けられている。
「Sランクの認定証ね」
リゼットが手に取る。
「おお」
マドカが覗き込む。
「もうSランクになったの?」
「まだ書類を読んでいないでしょう」
「でも入ってたよ?」
「そうね」
リゼットは書状を開いた。
そして読み進める。
「……なるほど」
「何て書いてあるの?」
マドカが聞く。
リゼットは、そのまま読み上げた。
「『先日の配信を拝見いたしました。今回の模擬戦における結果、及びこれまでのダンジョン配信を確認した結果――』」
一拍。
「『マドカ、リゼット アリシア3名を無条件でSランク冒険者として認定する』」
「おおー」
マドカがあっさり頷く。
「よかったじゃない」
「ずいぶんあっさりね」
アリシアが苦笑する。
「だって、Sランクになってもいいって言ったし」
「そうでしたね。でも私もですか。依頼強制こないといいのですけど。」
「それは断るわ。」
リゼットは続きを読む。
「『また、お願いがございます』」
「お願い?」
「ええ」
リゼットの目が、ほんの少し細くなる。
「『今回の配信で使用されたヒロバトについて、各冒険者ギルド支部に三台ずつ、エキドナの皆様のデータを登録した状態で設置し、訓練場内での模擬戦に使用することを許可していただきたい』」
「……」
マドカが黙った。
アリシアも手紙を見る。
「……三台ずつ?」
「各支部に、よ」
「それって……」
マドカがリゼットを見る。
「私達のデータを、ギルドに渡すってことだよね?」
「そういうことね」
「……あれ?」
マドカが少し考える。
「それ、かなり貴重じゃない?」
「貴重というより――」
リゼットが書状から顔を上げる。
「値段を付けるようなものではないわね」
「ですよね」
アリシアも頷く。
「ヒロバトのデータは、本人の許可がなければ取得できませんし」
「しかも、私達の戦闘能力そのものだものね」
リゼットが書状を見る。
「それを各支部に三台ずつ」
「……本当にいいの?」
マドカが聞く。
「ギルドが欲しがるのは分かるけど」
「ええ」
「これ、普通に考えたらお金を払ってでも欲しいデータだよね?」
「そうでしょうね」
「じゃあ、今回だけ?」
リゼットが頷く。
「今回だけでしょうね」
「どうして?」
ニコラが聞く。
「一度許可したら、他のギルドも欲しがるでしょう?」
「そうね」
リゼットは少し考える。
「『うちにもエキドナのデータを』と言われるでしょうね」
「その時はどうするの?」
マドカが聞く。
リゼットは迷うことなく答えた。
「メリットは?」
「……それだけ?」
「それだけよ」
リゼットは平然としている。
「私達が貴重なデータを提供するのだから、こちらにも何か得るものがなければ話にならないでしょう」
「まぁ、そうだね」
マドカも納得する。
「今回はSランク認定と引き換え、というわけではないけれど……」
リゼットが手紙を見る。
「ギルド側が、今回の件を特別な訓練環境として認めてほしいということね」
「じゃあ、三人だけ?」
アリシアが聞く。
リゼットはエレノアとブリジットを見る。
「そうね。今回、データ提供を許可するのは私、マドカ、アリシアの三人だけにしましょう」
「私達は?」
エレノアが首を傾げる。
「エレノアのデータには、王家の剣術や王国騎士団の技術も含まれているでしょう?」
「……あ」
エレノアが気付く。
「そういうことですか」
「ええ」
リゼットは頷く。
「そこは私達だけの判断で外に出していいものではないでしょう」
「確かに」
エレノアは納得したように頷いた。
「私も反対する理由はありません」
ブリジットも続ける。
「私の技術も、王国側に関係するものがありますしね」
「だから今回は三人」
アリシアが確認する。
「マドカ、リゼット、私」
「そういうことね」
マドカが手を上げる。
「じゃあ、今回のギルドだけ特別に三人分」
「ええ」
リゼットが書状を畳む。
「ただし、訓練場内のみ」
「外への持ち出しもなし」
アリシアが付け加える。
「複製や譲渡もなし」
「そこも書かれているわ」
リゼットが頷く。
「ギルドも、そのくらいは理解しているようね」
マドカがSランクのネックレスを見る。
「それにしても……」
「何かしら?」
「Sランク認定されるとは思ってたけど」
ネックレスを指でつまむ。
「まさか、私達のデータを欲しがられるとは思わなかった」
「それだけ、先日の配信が衝撃的だったのでしょうね」
アリシアが笑う。
「Sランク冒険者達が、何度挑んでも勝てなかったわけですから」
「なるほど」
マドカが頷く。
「じゃあ、ギルドの人達が頑張って強くなるために使うなら――」
マドカは少し笑った。
「まぁ、いいんじゃない?」
リゼットも頷く。
「ええ。今回は特別にね」
そして机の上には、三人分のSランク認定証と――
マドカ、リゼット、アリシア。
そしてリゼットは、三人の戦闘データを訓練用として特別に提供することを認める、一通の書状を書くことになる。




