Sランク被弾する
次の挑戦者が、なかなか出てこない。
訓練場の中央では、五人の幻影が何事もなかったかのように立っている。
『次まだ?』
『さすがに誰も行かなくなったか』
『そりゃあれだけ一方的にやられたらな』
しばらくすると、コメント欄の流れが変わり始めた。
『……これ、本当に正しいデータなの?』
『インチキじゃねぇの?』
『好きにデータいじってるんだろ?』
『幻影だけ強くしてるんじゃないのか?』
『そもそも自分達で作ってるゲームなんだろ? いくらでもできるじゃん』
『強く見せるためってことか?』
『ヒロバト売りたいんだから、そりゃエキドナを強く見せた方がいいだろ』
『Sランクがあそこまで何もできないっておかしくね?』
『そもそもエキドナって本当にそんなに強いの?』
『ダンジョンの配信だって編集できるだろ』
『30層の配信も演出なんじゃね?』
『いやいやいやw』
『そこまで言い出したら何でもありだろw』
『じゃあ何を見せたら信じるんだよw』
コメント欄が一気に荒れ始める。
ビアンチが困ったように画面を見る。
「これは……かなり意見が分かれていますね」
「分かれるというより、疑ってる人が騒いでるだけじゃない?」
マドカが画面を覗き込みながら言った。
「まぁ、そうなるでしょうね」
アリシアも苦笑する。
「ヒロバトを知らない人からすれば、そう思うのも仕方ありません」
その時だった。
リゼットが、ふぅ、と小さく息を吐いた。
「……呆れたわ」
その一言で、近くにいた何人かが振り向く。
リゼットはコメント欄を眺めたまま、淡々と続ける。
「好きにデータをいじれるなら、そもそも私達がこんな面倒なことをする必要がないでしょう?」
『どういう意味?』
「もっと分かりやすく勝たせればいいじゃない」
『?』
「幻影に絶対当たらない設定でも付ければいい。攻撃力を好きなだけ上げてもいい。相手の攻撃を全部無効にしてもいい」
リゼットは五人の幻影を見る。
「そんなものを見せて、何になるの?」
『いやでもゲームなんだからできるだろ』
『宣伝なんだから強く見せたいんじゃ?』
『エキドナが作ってるならいくらでもできそう』
「だから、強く見せる必要がどこにあるのかしら?」
リゼットは首を傾げた。
「私達が弱いと言われても、別に困らないもの」
『いやいやw』
『そこはヒロバト売るために困るだろw』
「ヒロバトは三百万くらいするでしょ?」
マドカが横から口を挟む。
「高いというなら買わなくていいんじゃない?」
『出たw』
『それ言っちゃう?w』
『またそのスタンスかよw』
リゼットは小さく笑った。
「ええ。だから売るために私達を強く見せる必要なんてないのよ」
そして、コメント欄を見た。
「それより――」
一拍。
「ダンジョン三十層の配信を見たことがないの?」
『見たわw』
『見たけど?』
『あれも仕込みだって言ってるんじゃね?』
「そう」
リゼットは少しだけ呆れた顔をした。
「では、あなた達の中では、三十層までのダンジョンも全部仕込みなのね?」
『いや……』
『でも配信だし……』
『編集くらいできるだろ』
「なら話は簡単ね」
リゼットが訓練場にいるSランク冒険者達を見る。
「あなた達、三十層まで行ってみればいいじゃない」
「……は?」
Sランク冒険者達がざわめく。
「私達が幻影を改造しているかどうかを疑うより、実際に自分達で三十層を見てくればいいでしょう?」
『煽ってるw』
『完全に煽ってるw』
『リゼットさん呆れてるだろw』
『Sランクに30層行けってw』
「もちろん、三十層まで来られたら、だけれど」
その瞬間。
「……あの」
Sランク冒険者の一人が、おそるおそる手を上げた。
「何かしら?」
「俺達、別にインチキとか言ってないんだが」
「え?」
マドカが振り返る。
「いや、俺達は普通に模擬戦をして、負けただけだぞ」
「そうそう」
別のSランク冒険者も頷く。
「視聴者が『幻影がおかしいんじゃないか』って言ってるのを見てただけで……」
「……」
リゼットが少し黙る。
コメント欄がさらに加速した。
『現場とコメントで温度差ありすぎるw』
『Sランク困惑してて草』
『俺達はインチキなんて言ってないw』
『完全に巻き込まれてるw』
『コメント欄のせいで話がデカくなってるw』
「なるほど」
リゼットは頷いた。
「では、あなた達は私達の幻影を正当なものだと思っているのね?」
「まぁ……」
Sランク冒険者達は顔を見合わせる。
「少なくとも、俺達にはあれがインチキかどうか判断できないですけど」
「それなら話は早いわ」
リゼットは頷いた。
「じゃあ、三十層まで行ってみましょう」
「……は?」
「三十層よ」
「いやいやいや!」
一人が慌てて手を振る。
「三十?」
「ええ」
「冗談だろ!?」
『wwwww』
『そこだけ反応違いすぎるw』
『Sランクでも30層は無理なのか?』
『リゼットさんの基準がおかしいんだよw』
「別に冗談ではないけれど」
「いや、待ってください!」
別のSランク冒険者が割って入る。
「三十層って、あの最難関ダンジョンの三十層ですよね?」
「他に三十層があるの?」
「そういう意味じゃないです!」
リゼットは首を傾げる。
「でも、あなた達Sランクなのでしょう?」
「Sランクだからって三十層に行けるとは限らないですよ!」
「そうなの?」
「そうですよ!」
マドカが横で楽しそうに聞いている。
「じゃあ、どこまで行けるの?」
「……」
Sランク冒険者達が黙る。
『答えられないの草』
『リゼットさん、無自覚に追い込んでるw』
『Sランクに30層は無茶振りだろw』
その様子を見ていた銀翼が、とうとう吹き出した。
「だから言っただろ」
「何がだ?」
「今日は外から見てる方が面白いって」
「お前ら!」
銀翼の一人が笑いながら手を振る。
「俺達も三十層はまだだからな」
『銀翼まで言ったw』
『経験者のありがたい証言』
『でも銀翼もまだ30層じゃないのか』
『じゃあエキドナどうなってんだよ……』
リゼットはそんな騒ぎを見ながら、ため息をついた。
「まったく……」
そして、隣にいるマドカを見る。
「だったら、まずは簡単なところから始めましょうか」
「うん」
マドカが自分の幻影の前に立つ。
「私と幻影でね」
訓練場が、一気に沸いた。




